空も風も



彼女―――
カガリ・ユラ・アスハは、誰もが振り返る美麗な容姿で、入学当時から注目を集めていた。


俺も1年時から存在は知っていたが、彼女が有名なのは単純に容姿のせいではない。

男女問わず話しかけてくる者を、彼女は完全に無視し続け…
どこからか悪い噂が立ち始めたのだ。


「カガリ・ユラ・アスハは中年男相手に売春をしている」―――つまり身体を売っている、と。


いつも冷めた目をしていて独特の雰囲気をもつ彼女だから、妙に納得した者が多かったらしい。
噂は次第に誰もが知る彼女の代名詞となった。


彼女には、誰も近寄らなくなった。



俺は噂なんてものを100%信じていたわけじゃなかったが、“自分には関係ない”という認識だった。
真実かどうかさえ特に気にならない存在。

同じ学年だけで約500人の生徒がいて、話すことも関わることもないまま卒業するという人が半数はいるのだ。
別にめずらしいことではない。

好き嫌いなどという以前に、雑踏の中ですれ違う大勢のひとり―――自分の人生に関係がない人―――だった。




優等生などと言われている俺と、
売春の代名詞が根付いた彼女。


俺たちは、学校というコミュニティーの中で
決して交わることのない両極端に位置していた。


そうして高校生活は3分の2が過ぎ、3年で初めて同じクラスになったが、
俺たちが両極端にいることに変わりはない。


無関係のまま卒業するはずだったのだ。




・・・あの日、彼女を見かけるまでは。

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