箱庭の子どもたち



舞台から下りた先は砂浜で、俺は剥き出しの足指で砂を踏みつけ、煌びやかなそこを後にした。
あーあ。サンダル持ってくればよかったなあ。日傘と一体化して、やたらに膨らんだおのれの影を踏みながら思う。陽射しで存分に焼かれたアスファルトに足なんてつけたら、きっと痛い。ここに来るときはま~くんに背負われていたものだから、無駄な負傷をせずに済んだのだが。
休憩所兼楽屋は、道路を挟んだ向かいにあった。あとはやっておくから休んできなさい、というナッちゃんの提案に甘えることにした俺は、ふらりふらりと揺れがちな身体を引き摺って階段を上る。汗にまみれながらも顔面蒼白な俺を見て、ナッちゃんもさすがに察したのだろう。ざり、と踏んだ砂粒が踵に刺さる。握り締めた手すりも熱を蓄えており、腹立たしいほど蒸せた日だった。
昼もとうに過ぎた今、この場所にも徐々に人が集まり始めていた。日傘で顔を隠すようにしながら、車が過ぎて行くのを待つ。夕方になればここらはさらに人で溢れ、道路にも交通規制がかかるらしい。人ごみ、嫌いなのにさあ。特に夏なんていう季節が輪をかけてそれを嫌なものにする。ほとんど爪先立ちで駆けるように道路を横断しつつ、俺はかんかんと照る太陽を呪った。


 ×××


今回俺たちに与えられた休憩所は、木造平屋建てのちいさな一軒家だった。いや、家と呼ぶには足りないものが多すぎるから、トイレと洗面所が備わっているだけの畳の広間、と言う方がきっと正しい。
日傘を閉じて、木製の扉を引いた。傷だらけの硝子窓が、振動でがしゃがしゃと騒がしく音を立てる。畳の奥には俺たちの荷物がまとめて置かれていて、その手前で、人がひとり寝ていた。静かに首を回す扇風機の風に煽られながら、仰向けその体を投げ出すセッちゃん。
足を叩いて砂を払う。濡れているわけではないから、砂はぱらぱらと簡単に落ちていった。なんでローファーなんて履いてきたんだろ、俺。靴箱に収められた、場違いのおのれの靴が目に入る。やはり制服を着ると、これまでの慣れからか無意識にローファーに足を入れてしまう。せめてま~くんを見習ってスニーカーを履いてくればよかった。ま~くんだって指摘してくれればよかったのだ。日傘をローファーの近くに引っかける。持って出るのを忘れないようにしなければならない。
休憩所は陽が当たらないおかげか、外よりも随分涼しく感じた。こういう夏なら嫌いじゃないのに。俺の重さを受けて、みしり、と褪せきった畳が鳴く。古そうな建物だけれど、綺麗に掃除されていて清潔感のある和室だ。どこか懐かしいとさえ思えるのは、俺が畳の匂いに慣れ親しんだこの国の生まれであるからに違いなかった。
セッちゃん。
ほとんど呟くようにして呼んでみたものの、放られた左手の指先ひとつ動きはしない。タオルで目元を覆っているせいで伺えないが、おそらく、眠っているのだろう。音もなく、かすかに身体が上下しているのを確認したのちに、ひとりでに回り続ける扇風機を引き寄せた。ぱきぱき、とその首を持ち上げて、風量を一段階だけ上げる。首に張り付いた汗が瞬間、乾いていくのが分かった。シャツを仰いで、篭る熱ごと逃がしてやる。潮風にべたついた身体。早く帰って、シャワーを浴びてしまいたい。
俺は、畳に転がっているプラスチックに腕を伸ばした。スタッフか、今回のメンバーの置き忘れらしい小ぶりな団扇。一時的に扇風機を横取りしていることへの詫びを込めて、その団扇でセッちゃんの身体を仰ぐ。こんなぬるい風、何も嬉しくはないだろうが。しかし眠ったまま扇風機に当たり続けるのは良くないと聞くし、まあ、眠っているのなら多少の無礼は許してくれるはずだ。
胸に置かれた白い右手。セッちゃんの顔を綺麗だな、とつい見てしまうことはよくあるけれど、手も指も、爪の形も、揃って美しいものであったことに今更気付く。セッちゃんは、そういえばお人形さんなのだ。洋服をもっとも美しく見せるための、お人形。努力ではどうにもならないところまで綺麗なセッちゃんは。その上に胡坐をかくことなく努力を重ねることができるセッちゃんは、お人形としてあまりにもふさわしい人材であると言えるのかもしれない。
でも、どうしてだろうね。左手でゆらゆらと団扇を揺らしながら、俺は考えていた。こんなに綺麗なのに。セッちゃんの愛を受け取ってくれる人がどこにもいないのは、どうしてなんだろうね。
一度座り込んでしまうと、丸めた背中に疲労がどっとのしかかる。俺も寝転がってしまおう思ったとき、くまくんさあ、と掠れた声が聞こえた。回り続ける扇風機に負けそうな、ちいさな声だった。何。起きたの。そんな俺の問いかけを無視して、形のいいくちびるが言葉を紡ぐ。ほんと、くまくんさあ。

「よく、耐えられるよねえ」

思わず煽ぐのをやめた腕に、機械的に送られる弱風が張り付く。寝言かと疑ってみたものの、それにしてはあまりにも意思の通った言葉だった。耐える。堪える。たえる。何にだ、と頭のなかで、ひとつずつ探りをかける。今日のセッちゃんが、すこしおかしい理由。無理矢理に表情を作って、『ゆうくん』を追いかける姿。愛してるよ、と叫ぶ声が、俺にはどうにも。
靴箱に引っかけた黒の日傘が、視界の端にちらついた。こんな暑い日に外へ出るなんて、死に急いでいる人間のすることだ。

「まあね。日傘でなんとか」

わざと答えを間違えてみせた俺に、セッちゃんは呆れたのか諦めたのか、は、と渇いた笑いを放った。一方で、俺はこみ上げる欠伸を誤魔化すことも、噛み殺すこともしない。疲労を蓄積した身体が、どうにも怠くてたまらなかった。朝無理矢理に叩き起こされた挙句、炎天下で動き回ったりするからだ。一体、どこの誰だ。今日の俺の予定を大幅に狂わせたのは。本当なら今の時間、冷房の効いた薄暗い部屋で、惰眠を貪っていたのというのに。歪んだ視界を指先で拭う。夏の空気は美味しくない。どこか埃くさくて、あつくて、じっとりしていて。吸い込むだけで、喉が渇いて仕方がなかった。

「大丈夫なの。体調は」
「大丈夫に決まってんでしょお」

ていうか、くまくんの方こそ。すべての元凶であるらしいセッちゃんが、芯のない声で俺を労わろうとする。へえ。こんな時に、俺の心配までしてくれるんだ。実のところ、セッちゃんがそういったやさしさを持ち合わせている人間であるということに、俺は気付いていた。そのやさしさに免じて、今セッちゃんを責めるのはよしておこうと決める。

「ねえ。セッちゃん」
「なあにい」

セッちゃんのシャツを、はたはたと泳がせた風が揺らす。髪先が扇風機に乱れて、くちびるをつついた。指先で掻いて退かしたそれが、今度は耳朶をくすぐって落ち着かない。

なんか、ごめんね。

そしてタオルの下から現れた片方の瞳が、ようやく俺を定める。じっと。ただじっと、その眼は俺を見ていた。外から喘ぐような蝉の鳴き声が聞こえる。ここよりも後ろにはそういえば森が広がっていて、小高い山になっていることを思い出した。

「何が」

睨め付けるようなまなざしが、あまりにも一心に俺を貫こうとするものだから。つい、セッちゃんの顔ごとを隠すように団扇を仰ぐ。

「だって俺、耐えてないから」

セッちゃんみたいに苦しくないよ。組み替えた脚に、畳の模様がうすく浮かぶ。首に振れる髪が邪魔で、帰ったら髪を切ってやろうなんて自棄を起こしかけてしまう。どうせ、帰る頃には忘れているのに。
以前の俺であれば、セッちゃんの抱える息苦しさというものに、きっと同調していたと思う。しかし昔も今も、ま~くんを愛しているのと同時に、ま~くんに恋をしていることに変わりはない。だからどれだけ腹を立てていようが、その鈍さに呆れようが。一晩経てばすべてを無かったことにして、許すことができてしまう。恋は盲目とは、本当によく言ったものだと感心する。俺の懐は、皆が思っているよりもずっと広いらしい。すべてま~くんに限っての話だけれど。
喧嘩をした春が、今はこんなにも懐かしい。俺もあの頃に比べれば、すこしは大人になったのだと思いたいところだ。

「あっ、そお。嫌味?」
「いつか惚気になるんだけどねえ」

りん、と聞こえた風鈴の音に、吸い込まれるみたく視線を向ける。わずかに開けられた窓の横。カーテンレールの端で、そいつはひとりでに揺れていた。鈴の音は良い。繊細で、涼やかで。夏の風物詩のなかで、唯一好ましいと断言できる。
こうやって熱に浮かされて、ぼうっと取り留めのない会話を流して。あーあ、夏がきたんだって実感する。もうすこし行った先には屋台が出ると聞いた。夕方になって灯りが点いたら、冷たいものが食べたい。誘ったら、ま~くんもついて来てくれるだろうか。それとも他のメンバーに連れられて、行ってしまうだろうか。またま~くんとお祭り、行きたいのになあ。  
いいよねえ。あんたはさあ。
そんな弱々しい声を出すセッちゃんを、俺は知らない。大丈夫かしらって、先ほど不安げな表情をしていたナッちゃんを思い出す。まったく年下に苦労をかけるなんて、俺もセッちゃんも、何やってるんだろうね。俺に関しては、今に始まったことではないのだが。
セッちゃんがそんな風だから、俺は何も気付いていないといった体を無意識に装ってしまう。

「えー。珍しい。天変地異的な?」

そもそも、テンペンチイって何だっけ。例え天と地がひっくり返ろうとも、セッちゃんがそんなこと言い出すはずがないと思っていたけれど。なんか、使い方違う気がする、と口にしてから違和感を覚える。すべてこの暑さが悪いのだ。言葉の選択の邪魔までしてくれる。

「大げさすぎでしょ」

使い方間違ってるしねえ。変化のない身体に、唯一の動をもたらすくちびる。覇気のない声は、今この扇風機の風よりも勢いのない音となって、俺たちのあいだに敢無く落ちた。
俺なんかの何が羨ましいんだろうね。セッちゃんは。わりと何でも持っていそうなセッちゃんが、割と何でも持っていなさそうな俺のどこを羨んでいるというのか。ま~くんと、『ゆうくん』。もしもふたりが反対だったら、セッちゃんはもうすこし、息がしやすくなるのだろうか。でも『ゆうくん』がま~くんだったら、俺はま~くんのことをきっと、こんなに好きにはなっていない。その前に『ゆうくん』は細身だから、俺を背負っただけで潰れそうになる姿が、容易に想像できてしまう。
ただどちらにしたって、感情を感情のまま受け取ってもらえないのは変わらないんだよ、セッちゃん。しかしそこから生じる苦しさもどこか楽しいとさえ思っている俺は、やはりどうしようもなく患っているうちのひとりなのだと言える。

「俺たちってさあ、あれだよね」
「は?」

団扇を右手に持ち替えて、ぎこちなく左右に揺らす。こんな弱い風じゃあ、この距離だって届いているのかも分からない。

「少女漫画とかによくいる、振られ役の男みたい」

畳に突いた左腕に体重をかけた。俺はまだ、振られてやるつもりなんて毛頭ないけれど。事実拒絶されてはいないのだから、負け犬になるのは早い。まったく、ま~くんはやさしいんだから。そんなま~くんだから、俺はま~くんのことをどんどん好きになってしまう。
馬鹿じゃん、とセッちゃんは俺のくだらないたとえを両断してくれる。馬鹿にユニットの参謀は務まりませんけど。勉強にだけ関して言えば、俺はそちら側に分類される要素を十分に持っているから、迂闊に反論もできやしない。
自ら言っておきながら、セッちゃんをただ振られてしまった可哀想な男の子に例えるのも、何か違うような気がした。だってまず、セッちゃんは示した愛を吟味さえしてもらえていない。示し方に問題があるから、と言われればそれまでだが。そして俺にとっても耳の痛い話ではある。
愛というのは、本や曲によく似ている。日毎に更新されてゆくが故に、一生のうちでは網羅することができないそれらに。ひとの数だけ愛があって、愛の数だけひとがいる。毎日ひとが生まれ続ける限り、すべての愛の形を知ることなんてできない。だからそれを示す方法だって、ひとの数だけあって当然だ。
俺がま~くんに向けるそれと、セッちゃんが『ゆうくん』に向けるそれの形は、明確に異なっているのだと思う。むしろ逆の本質を孕んだそれらだから、セッちゃんは俺のことを羨んでいるのかもしれない。だって俺はぼろぼろになったま~くんを愛することができるけれど、まずセッちゃんはその前提を認められない。『ゆうくん』がぼろぼろになった姿を、想像することさえ許せない。
窓から入る光の柱が、誰かの黒い鞄に突き刺さる。あのまま放置していたらいつか火が点いて、焼け焦げてしまいそうだ。膝の裏に滲む汗が気持ち悪い。あっついなあ。本当に。明日からはもう、一歩も外に出ないと心に誓う。
とん、と団扇の枠で畳を打つ。ふたたびこちらへ向けられた眼に、俺はセッちゃんはさあ、と呼びかけた。 

「『ゆうくん』が傷だらけになったら、セッちゃんは『ゆうくん』のこと嫌いになるの」

問いながら、俺の頭には『王さま』の後姿が浮かんでいた。消えてしまった人。俺の好きな人。セッちゃんの、大好きな人。だからもう二度と消えないように、自分の前から消えてしまわないように。今のセッちゃんは、あの日々たちをやり直しながら生きているように思えてならない。あの日々たちを後悔して、今度はもう、決して間違えないように。ひとつの傷も負わせないように。

「何。関係ないでしょ。あんたには」

セッちゃんも。『王さま』も。かつてのふたりは、まるでこれから死んでいく恒星のように煌めいていた。だから、ふたつの星が光を失っていくのが。あとはただ、砕けていくさまを見届けるだけしかできないのが。俺はそれを、らしくもなく嫌だなあと思ってしまう。
グループというものに、ユニットに。すこしずつすこしずつ、おのれが抱き始めた愛着というものを、そろそろ自覚しなければならないらしい。
あーあ。今の俺、なんだかセッちゃんみたいだ。だってちょっとだけ、『王さま』の顔が見たいと願ってしまった。こんなの俺らしくないよねえ。こんな、友達みたいなさあ。俺だって、おのれのなかに新しく生まれた感情に戸惑っているのだ。不慣れなこれらをうまく扱えなくて、今日はどこか、自分らしい自分でいられない。
俺、嫌いじゃないけどなあ。夏は意地悪をせずに、こういう余計な労力こそ奪い去るべきだ。発した声は消せず、滑り出た言葉の勢いも止められずに、困る。

「嫌いじゃないけどなあ。ぼろぼろになったセッちゃんも」

もうすこし一緒に歌って、踊ってみてもいいと思うくらいに。休息を放棄してまで、こうしてお喋りに興じてやろうと思えるくらいに。セッちゃんに対して、俺はきっと、ある種の好感を抱いている。けれどそれはま~くんに向ける好きとは違うし、セッちゃんが『王さま』に、『ゆうくん』に向けるそれとも、おそらく違う。
だから俺は、投げ出された空っぽの手を握らない。その手を取っていいのは、セッちゃんの愛を受け取る覚悟のある人間だけだ。セッちゃんが欲しがっている愛を、与え続けることのできる人間だけだ。そんなの、俺にはひとりしか浮かばなかった。

「なあにそれ。全然嬉しくないんだけど」

タオルを被せた直した両眼に、さらに右手の甲を乗せる。ぱきり、と扇風機の首を一段階だけ曲げ下ろした。畳に落ちたセッちゃんの髪が、風にゆるく暴れている。

「ひど。俺のことも慰めてよ」
「あんたなんかと一緒にしないでよねえ」

仰ぎ見た天井に、薄汚れた照明がぶら下がっていた。その枠組には細い蜘蛛の糸がめぐる。肝心の家主は見当たらなかったから、どっかで死んじゃったのかもね。ふうん、別にいいけどさあ。と、俺は天井に向けて声を放る。セッちゃんが俺を慰めるなんて、それこそ本当に天変地異だ。異常気象に匹敵するといっても過言ではない。

「勘違いしないでね。ぼろぼろのま~くんの方が、よっぽど好きだから」

たとえば、ま~くんがあの砂浜に広がる無数の砂粒になったとしても。数多のま~くんの欠片を抱きしめながら眠ることができるのなら、それはとても幸福なことだと思える。身体が灰に変わろうとも。言葉が交わせなくなっても。俺にとって、外観とは取るに足らない些細な問題だった。重要なのは信じることなのだと思う。何処にいても、何をしても。何をされても、何が起きても。その人がその人であることをやめないと信じる、おのれ自身の問題なのだと思う。
あっ、そ。
夏の風物詩たちの奏でる喧騒のなかに、ひとの声が混ざる。ふたり分のその声は、道路を超えた向こうから響いていた。かき氷食べたいよなあ、と嘆くあいつ。出店が始まったら行ってみようよ、と声を弾ませるそいつ。じゃああいつらも誘ってみるか。何も知らない声たちが、徐々に徐々に、こちらへと近づく気配がする。ま~くんと、『ゆうくん』。
いいよね、ほんと。あんたはさあ。
立てつけの悪い扉が、がしゃがしゃと音を立てて開いていく。隙間から射し込む光が眩しくて、それを拒むように目を細めた。逆光のなかから、まるで夏の象徴のようなま~くんが現れる。肩まで袖を捲り上げて、首にタオルを巻きつけて。
起きてたんだな、凛月。大丈夫か。ま~くんの声って、やはり夏がよく似合う。思いながら俺はま~くんの言葉に頷いて、それからくちびるの前で人さし指を立てた。セッちゃん寝てるみたいだから、静かにしてあげてねえ。後ろからおずおずと覗き込む『ゆうくん』も、顔に汗を滲ませて随分暑そうに見えた。ああ、悪い。またすぐ出て行くから。静かにサンダルを脱いだふたりが、足音を忍ばせながら自らの荷物の元へ近づいていく。
まったく、いつから世話焼きになったんだろうね。俺も。ふん、と一度、その体に向けて団扇を振った。寝てるふりでもしてなよ。俺が適当にやっとくからさあ。空気の流れに伴ってタオルがかすかに動いたけれど、セッちゃんはそれに反応する素振りを見せなかった。
大丈夫かなあ。泉さん。
こちらを伺った『ゆうくん』が、純粋な善意の籠った声色でそう零す。さっき突っかかっちゃったから、ちょっと怖がられてるのかも、俺。だって今、明らかに目反らされたよね。まあどうでもいいし、なんでもいいんだけど。
胸元に置かれた、セッちゃんの手。それが静かにシャツを握り締めるところを、俺はただ見ているだけだった。



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