恋刀の初心加減

「山姥切、今夜俺の部屋に来ないか?」
「鶴丸の部屋に?」
 きょとんとした顔が愛らしい。小首を傾げているのも本当に可愛らしい。……しかしこれは本気でわかっていないようだ。夜に部屋へ来いと誘う意味が。そんなところも愛おしいと思ってしまうのだからそれは良いのだが。自分が悪い大人になったようで少しばかり気が引ける。
「ああ、一緒に寝よう」
「……い、っしょ、に⁉」
 あ、これは通じたか? はっとなって俺を見た山姥切の顔に朱がさした。
 この時の俺はまだわかっていなかった。
 山姥切国広という刀を。その初心さを――。
 
「鶴丸、俺だ」
「山姥切、よく来たな」
 部屋へ迎えいれた山姥切は物珍しそうにキョロキョロしている。俺の部屋へなんてめったと来ないからな。それだけ俺の方が頻繁に山姥切の部屋に押しかけているせいなのだが。
 片付けておいてよかったぜ。普段床を埋める勢いで散らばっている驚きグッズは適当に突っ込んだ。押し入れを開けられたら大惨事だが布団はすでに敷いてあるし大丈夫だろう。
 夜着に襤褸布姿、全身白の山姥切はまるで婚礼衣装を着ているようだ。
「まあ座ってくれ」
 腰を下ろした山姥切は緊張からか表情がかたい。
「酒でも飲むかい?」
「い、いや。酒はいい……その、寝るんじゃないのか?」
 こちらを伺うように上目遣いでそう言われたらたまらない。性急かとは思ったが山姥切の手を取り几帳の奥の閨へと誘った。薄明かりの中向かいあう。
 さて、どう進めるかと思う間もなく山姥切が掛け布団を持ち上げ横になった。
「……どうした? 寝ないのか」
 やけに積極的だな……いや、待てよ。もしかして。
「山姥切、まさかとは思うが寝る気なのか?」
「寝るが? ……どういう意味だ?」
 あ、これわかっていないやつだった。俺は天を仰いだ。仕方がない。山姥切の身体を起こし、眠気からか少し暖かい手を握る。
 わかるまで、はっきりきっぱり言うしかない。
「山姥切、きみと俺は恋仲だよな」
「そ、うだな」
 パッと顔が赤くなった。意識してくれてはいるらしい。そのまま手を持ち上げて唇を寄せた。
「もっときみに近づきたい、と言ったら?」
「ひっ、も、もっと?」
 回りくどいことはやめにしよう。山姥切の利き手は俺の左手に捕らわれている。
 離すものか。
「ああ。きみのこことか……」
 空いているもう片方の手で少しかさついた唇に触れる。ビクリとする山姥切の身体。
「こことか……」
 そのまま首筋を這わせた手を体の線をなぞるように下へと降ろす。山姥切の喉がコクリと鳴ったのが聞こえた。
「ここに触れたい」
 足の付け根、触れるか触れないかギリギリまで降ろされた手。山姥切は真っ赤になった顔でうつむいたまフルフルと震えている。
「だめかい?」
 怖がらせてしまっただろうか。ことを急いてはいけない。嫌われるのだけは避けたい。どうしても身体を繋げたいわけではないのだ。心は少しずつでも預けてくれているのだし、身体の方はまだ、もう少しだけなら我慢できる。
「だ、めじゃ、ない……」
 か細い声が耳に届いた瞬間、いつの間にか同じくらい熱を持った手を握り直して押し倒した。
 俺を見上げ、不安そうに揺れる翡翠の瞳。
 加虐欲はないと思っていたがこれは危険かもしれない。
 俺は生唾を飲み込むと白に包まれた恋刀に触れた。
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