そつぎょう?

「汝、鶴丸国永は山姥切国広を生涯の伴侶とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」

 ──なんだこれは?

 ここは……西洋風の白磁の建物、天井は高く、窓には色彩豊かなステンドグラス、足元は光り輝く白タイル。正面に掲げられた十字架。白い花とリボンで装飾された祭壇。
 これは結婚式の風景だろう。俯瞰したようにその光景を見る。
 神父と思しき人物の正面には後姿の自分、鶴丸国永と──? 結婚式⁉ まさか俺と、山姥切のか⁉
 そうと認識した途端、まるで魂が吸い込まれるかのように祭壇に立っていた自分、鶴丸国永の視界になった。目の前にはローブを羽織り、聖書を手にした神父がいる。

「山姥切国広、汝は鶴丸国永を生涯の伴侶とし……」
 慌てる俺をよそに式は粛々と進んでいく。

 確かに先日、俺は兼ねてより交際中の恋刀、山姥切国広に求婚をした。西洋風にいうとプロポーズだ。だが昨日の今日でもう結婚式だなんて。チラと盗み見た山姥切の横顔は白いベールに隠れてそのほとんどが見えない。
 ん? ベール? そのまま視線を下へと移すと……なっ⁉ 山姥切がウェディングドレスを着ている、だと⁉ チラ見をしていたはずが今では顔が完全に右隣、山姥切の方を向いている。ベールの下は純白のレースで肌の露出の少ないデザイン。背中は編み上げになっていて、チュールのふんわりシルエットがロングトレーンに続いている。
 山姥切とは恋仲だが彼を女人扱いしたことなんて一度もない。なんなら俺より勇ましくてカッコいいところもある刀なのだ。綺麗な顔をしているし、女人の格好も似合うだろうとは思うが。まさか、まさかドレス姿を拝める日が来るなんて。西洋の神でも何でも良い! 神様ありがとうと拝みたい気持ちだ。
 しかし、一体どういう状況なんだ……。

 ──なるほど。これは夢だな。

 俺はそう結論づけた。
 だってそうだろう? あの山姥切国広がウェディングドレス姿で俺の隣に立っているんだ。さらに西洋風のチャペル。登場人物は神父と俺と山姥切だけときたもんだ。付喪神である俺たちが西洋の神に誓いを立てるってのも滑稽だし、もし俺と山姥切とが結婚式をするのなら本丸で皆に見守られながら、もちろん主も出席してとなるはずだし、どうせなら山姥切の衣装は白無垢が良いと思う。鶴の番らしくな。はたして現実の山姥切が着てくれるかはわからないが。いや、もちろんウェディングドレスも似合っているし可憐でキュートで俺の夢グッジョブであることは変わりない。
 よし、夢とわかればこのありえない状況を楽しまなければ損だ。
 腹をくくった俺は現実ではありえないだろう恋刀のウェディングドレス姿を目に焼き付けることにした。式は厳かに進んでいる。
「……これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
 神父の定番の文言に山姥切が答えるために薄紅色の唇を開く。
「……は」
「その結婚ちょっと待ったーっっ!」
 チャペルの入口、両開きのドアがバターンと開いて暴漢が乗り込んできた。現れたのは帽子にサングラス、マスクで顔を隠そうとしているが正体がバレバレの面々。なんせ体は普段の戦闘装束丸見えだ。
 堀川国広、山伏国広、南泉一文字、になぜか南泉に引きずられるように現れた山姥切長義。
先陣をきった堀川がビシッと人差し指を突き出して宣言する。
「あなたなんかに大事な兄弟は渡せませんよっ!」
「カーッカッカッカッ!」
「俺は代理だ! にゃ!」
「…………」
「えぇっ⁉」
 夢だとわかってはいても驚いた。
 これは、あれか。あー、俺が無意識に俺と山姥切との仲を反対しそうな面々をこいつらだと認識している、ということか⁉ 確かに堀川国広は山姥切を泣かせようものなら闇討ち暗殺あの世行きにされそうだし、一見大らかそうな山伏国広だって笑いながら豪快に投げ飛ばしたのち山籠もりの修行を強要してきそうだ。南泉一文字……はおいておくとして言わずもがな山姥切長義は山姥切国広の本歌であり、いうなれば……姑? か。やめておこう、考えない方が良い。
 縁起でもないなと思いながら俺は山姥切を庇うように一歩前に出た。と、更にその前に山姥切が進みでる。
「山姥切?」
「と、いうわけだ。迎えが来たから俺は行くぞ」
「えええーっ⁉」
 そう俺に告げるが早いかドレスをバッサーッと豪快に脱ぎ捨て、いつものあずき色ジャージ姿になった山姥切(中に着ていたのか⁉ と考えても仕方がない! 夢なので)は暴漢たちを従えて颯爽とチャペルを去って行った。呆然を立ち尽くす俺だけを残して。
「嘘だろ……」

 ──なんて夢だ。

 式の最中に山姥切に捨てられるだなんてひどすぎる。悪夢から目覚め、バクバクと動揺する心臓のあたりをぎゅうと掴む。
 隣を見るとスピョスピョと可愛い寝息をたてて恋刀が寝ている。良かった、夢だった。いや夢だとわかってはいたが肝が冷えた。
 正夢になっては敵わない。夜が明けたらあの夢に出てきたメンバーには胡麻を擦り切れるまで擦ろうと決意する。

 とりあえず今は不安な気持ちを解消すべく恋刀を懐へと抱き込むのだった。
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