きみのほまれ

 俺の正面には山姥切国広が座っていて先程から可愛らしい口を一生懸命に動かしている。話している内容は……もちろん聞いているとも!俺への苦言だ。聞いてはいるがどうしても可愛いなぁと思ってしまって顔のしまりがなくなってくる。
「……聞いているのか!? 鶴丸国永っ!」
「聞いてる聞いてる。畑に穴開けたから桑名江が怒ってるんだろう? 明日にでもちゃんと謝って埋めに行くから」
「……全く。なんだって畑に穴なんて……陳情書によると桑名江が大事にしていた苗床周辺の土がモグラが出たみたいに穴だらけ、だそうだが」
「落とし穴を掘っていたわけじゃあないぜ? ミミズを探していたんだ」
「みみず? なぜだ?」
「魚釣りの餌にするためだな! やっぱり釣りをするなら生き餌が良いだろう? 浦島と日向に頼まれたんだ」
「なんであんたが?」
「魚を釣ってきてと光坊に頼まれたのが俺だったからな。浦島と日向は協力してくれたんだ」
「魚? ……食材なら万屋で」
「それじゃダメなんだ。なんせ欲しいのは鯛だからな」
「……鯛? とすると誰かの祝いか?」
 何かあっただろうか? 主の昇進祝いとか? はてなを浮かべながらスケジュールを確認する近侍殿を見て鶴丸は唇を弧にした。
「ああ、祝いだ。きみの、誉の」
「……俺の?」
 キョトンとした山姥切。練度が上がって出陣も少なくなり、本丸の雑務をしていることが多い近侍殿は先ごろ久方ぶりに出陣し見事誉を取ってみせたのだ。
「たまには良いだろう? きみを祝っても」
「……つまり俺のため、か?」
「内緒にしておくつもりだったんだがなぁ」
 急いて畑を穴だらけにしたまま釣り場へ向かったのでそこは反省点だ。今夜の食卓には浦島が見事釣り上げてくれた鯛の舟盛りが中央に置かれることになっている。その場で驚きを届けるつもりだったが俺は満足していた。

 皆の前で祝う前に二振りきりで驚いたあと照れて恥ずかしそうに目を伏せる山姥切が見られたのだから。
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