はなまるサマーデイズ

「ひゃっほーう!」

 青い海、白い砂浜、空はカンカン照りの太陽! まさに夏を体現したような光景だ。とある本丸の面々は主から突然言い渡された三日間の夏休みの三日目、最終日を迎えていた。これまた主から送られた揃いの水着に身を包み、いざゆかん大海原へ! である。

 鶴丸国永も準備に余念はない。夏休み初日に万屋で手当り次第買い込んだお楽しみグッズのうちのひとつ、バナナボートを持ち込み、水上バイクに引っ張られるというスリル抜群のマリンスポーツを満喫している。急旋回に耐えられずに海に投げ出され、空中にいるわずかな時間で見えたのは真っ青な海面と、砂浜でいつもと変わらず白い襤褸を纏う山姥切国広の姿で、己の恋刀は海でもブレないなあ、などと一瞬思った直後に水飛沫を盛大にあげて着水した。

 山姥切国広は海でウニが採れると聞いてウキウキとシュノーケルセットを持ち込んでいた。顔には出ていないが親しいものが見れば楽しみにしていたことが見て取れただろう。準備運動もぬかりなく終え、海に足を進めた。浅瀬は日光で温められた海水が生ぬるく感じられる。
すぐ隣には同じ格好をした本科、山姥切長義の姿もある。初対面の時よりはだいぶ打ち解けたとは思うが未だに国広のことを偽物くんと呼んで憚らない。何度写しは偽物ではないと言っても改めてくれないので最近は諦めている。
 
 自分が偽物ではないことはわかってほしい人だけわかってくれていれば良い事だ。
 
 国広は紺色の海パンにいつもの襤褸を纏ったままだった。多少泳ぎにくいがこれを取る気はなかった。
深くなるにつれだんだん海水が冷えてくる。シュノーケルを咥えてマスクを装着した。勢いをつけて海中へ潜ると、澄み切ったマリンブルーが広がっている。海底もはっきりと見える。二枚貝はチラホラ散見されるが国広の目的はウニ一択だった。生ウニも良いが焼きウニも良いな……柔らかいトロリとした身の食感を想像しただけでヨダレが出そうになる。
 
 海底には岩もゴロゴロしており、岩陰や岩下に隠れているのかもしれないと方向転換をしようとした時、海中で揺らめいていた襤褸が尖った岩先に引っかかってしまった。強引に引っ張って多少破れてしまったところで問題はないだろうが隙あらば洗濯をしようと狙っている歌仙兼定や、繕い物が得意な兄弟、堀川国広に見つかったら何を言われるか分からない。仕方がない。
潜って引っかかった岩に近付き、なんとか外そうと海底で悪戦苦闘していると視界が襤褸ではない白に染まった。
鶴丸⁉
 チラリと見えた鶴丸の顔はやれやれ何やってるんだとでも言いたげで。白くて長い指が岩に捕まっていた襤褸をいとも簡単に解放してくれた。
太刀のくせに打刀より手先が器用なのは常々納得がいかない。
「プハッ」
 素潜り状態だった鶴丸に続いて海面に浮かんだ国広は礼を言わねばと鶴丸に近付いた。
「つるま……」
「きみなぁ! 布つけて潜るやつがあるか」
「…………」
「あー、怒ってるんじゃないぞ? 心配してるんだ。溺れたりしたらどうする」
「だが……」
 鶴丸はしょんぼりと俯く国広のゴーグルをグイッと上げた。
「これ付けていたら顔が見えるも何もないだろう? 布は俺が預かっててやるから。……ウニ、取るんだろう?」
「!」

 砂浜でびしょ濡れの襤褸をしぼり、甲斐甲斐しく影干ししながら鶴丸は国広が潜っているあたりを見やる。素直に布を渡したのはウニが食べたかったからだろうとは思うが自分のアイデンティティとでも言うべきこれを己に預けてくれたのは単純に嬉しい。
 少しずつ、少しずつだ。探るように、ジワリジワリと確実に緩む警戒、縮まる距離。こういうところが可愛くて仕方がないのだ。今度鶴丸の部屋では襤褸は取るように言ってみようか。せっかちな自分が山姥切のペースに合わせようとしているのが可笑しくもあり楽しくもあった。
 
 国広が手に高々とトゲトゲの真っ黒いウニを掲げている。どうやら大漁のようだ。


各々満喫した夏休みも終わりを告げ、普段の本丸の日常が戻ってきた。鶴丸の発案で主にプレゼントとした夏休みのあるばむは大層喜ばれたとお世話係の長谷部が感涙しながら報告していた。あるばむに貼りきれなかった写真は刀ごとに分けられて配られた(焼き増しというらしい)鶴丸の分を預かった国広は廊下を歩いている白い背中を発見して肩をつついた。
「いっ⁉」
「……い? なんだ、どうした?」
「いやぁ、なんでも、その……きみは何ともないか?」
 何やら背中を庇うように後ずさる鶴丸。普段とは違う広い距離に不審に思って国広が一歩踏み出す。
「何とも、とは?」
「何ともなければ良いんだ! あはは、驚きだぜっ」
 カラ笑いを響かせて去っていく鶴丸にハテナを思い浮かべる国広。
「……? なんだったんだ」
 あいつが変なのはいつものことかと国広は気を取り直して鶴丸の後を追った。写真を渡さなくては。

 二人で夏の思い出を共有するために──。


「なぁ、きみはほんとになんともないのか?」
「だから、なんのことだ?」
「……日焼け止め塗ってた、とか?」
「日焼け止め? あぁ、そういえば兄弟と、あと長義にも塗れ塗れ言われて塗ったぞ。えすぴーえふ五十がどうとか言ってたな」
「納得!」
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