─ 初めての告白
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ラビの胸に額を預けたまま、しばらく動けなかった。
腕の中は温かかった。
背中に回された手も。
すぐ近くから聞こえる鼓動も。
全部、ちゃんと分かる。
ちゃんと覚えていられる。
「……ラビ」
『ん?』
「私ね」
少しだけ身体を離す。
ラビの腕は、追いかけてこなかった。
主人公が離れた分だけ、すぐに力を緩めてくれた。
そのことが、少し嬉しかった。
「キスしたことも……覚えてないんだ」
ラビの表情が固まった。
『……うん』
「ラビとしたんだよね?」
『…………した』
苦しそうな答えだった。
「何回も?」
『……たぶん』
「そっか」
自分から聞いたくせに、胸がざわついた。
好きな人との初めてのキス。
本当なら忘れたくないはずなのに。
自分の中には何も残っていない。
唇の温度も。
触れた瞬間の気持ちも。
ラビがどんな顔をしていたのかさえ。
「……なんか、悔しいな」
『え?』
「私にとっては、ラビとの初めてだったのに」
『…………『』
「何にも覚えてない」
ラビが俯く。
『ごめ──』
「謝らないで」
主人公は首を振った。
「今は謝ってほしくて言ったんじゃないの」
『じゃあ……』
少し迷ってから。
主人公はラビを見上げた。
「……もう一回したい」
『…………は?』
ラビの目が丸くなる。
「キス」
『いや、待っ──』
「今度はちゃんと」
心臓がうるさい。
それでも目を逸らさなかった。
「覚えていられるキスがしたい」
ラビが完全に固まった。
耳がみるみる赤くなっていく。
『お前……今、自分が何言ってるか分かってんの?』
「分かってる」
『薬とか』
「飲んでない」
『熱は?』
「ない」
『具合悪くねぇ?』
「悪くない」
『意識は?』
思わず笑ってしまった。
「ちゃんとしてるよ」
『……そっか』
それでもラビは動かなかった。
「ラビ?」
『……怖いんさ』
思いがけない言葉だった。
「何が?」
『触るのが』
ラビの手が、わずかに震えていた。
『頭じゃ分かってる。今のお前はちゃんと自分で考えて喋ってるって』
「うん」
『でも……またオレが勝手に都合よく受け取ってるんじゃねぇかって思っちまう』
主人公はその手を取った。
ラビが息を呑む。
「じゃあ、何回でも聞いて」
『……え?』
「私に」
その手を両手で包む。
「本当にいいのかって、何回でも確認して」
『…………』
「そのたびに答えるから」
ラビの翡翠色の瞳をまっすぐ見る。
「私はラビが好き」
一つ。
「ラビに抱きしめてほしい」
二つ。
「それから──」
恥ずかしくなって、一瞬だけ視線が揺れた。
それでも。
「キス、したい」
三つ。
全部、自分の意思だった。
「……これでも駄目?」
『…………』
ラビが困ったように笑った。
『敵わねぇなぁ……』
ゆっくりと手が伸びてくる。
けれど頬に触れる寸前で止まった。
『触っていい?』
「うん」
頬に手が触れた。
それだけなのに、心臓が跳ねた。
指先が温かい。
覚えていられる。
『……キスしても?』
今度は、少しだけ笑った。
「うん」
それでもラビはすぐには近づかなかった。
最後の最後まで主人公の表情を見ている。
だから主人公の方から、ほんの少しだけ距離を縮めた。
それを見て。
ようやくラビが顔を寄せる。
唇が重なった。
ほんの一瞬。
触れるだけのキスだった。
すぐに離れる。
『…………』
「…………」
お互い、何も言えなかった。
顔が熱い。
唇に残った温度だけが、やけにはっきりしていた。
『……覚えてる?』
ラビが小さく聞いた。
主人公は唇に指を当てる。
「うん」
『……そっか』
「ちゃんと覚えてる」
その瞬間。
ラビが泣きそうに笑った。
主人公も笑った。
「ラビ」
『ん?』
「これがいい」
『……何が?』
「私の初めてのキス、これにする」
『いや……実際には初めてじゃ──』
「私が覚えてるのは、これが初めてだから」
ラビが黙る。
「だから、これでいい」
『…………』
「ううん」
首を振った。
「これがいい」
ラビはしばらく何も言わなかった。
やがて、額を主人公の額へそっと寄せる。
『……もう一回聞くさ』
「うん」
『キスしていい?』
主人公は笑った。
今度は迷わなかった。
「うん」
二度目のキスは。
一度目より、ほんの少しだけ長かった。
それでもラビは急がなかった。
主人公も目を閉じながら、その温度を一つずつ覚えようとした。
好きな人の手が頬に触れていること。
自分の心臓が速くなっていること。
唇が離れたあと、ラビが照れくさそうに笑ったこと。
全部。
今度こそ。
忘れたくなかった。
腕の中は温かかった。
背中に回された手も。
すぐ近くから聞こえる鼓動も。
全部、ちゃんと分かる。
ちゃんと覚えていられる。
「……ラビ」
『ん?』
「私ね」
少しだけ身体を離す。
ラビの腕は、追いかけてこなかった。
主人公が離れた分だけ、すぐに力を緩めてくれた。
そのことが、少し嬉しかった。
「キスしたことも……覚えてないんだ」
ラビの表情が固まった。
『……うん』
「ラビとしたんだよね?」
『…………した』
苦しそうな答えだった。
「何回も?」
『……たぶん』
「そっか」
自分から聞いたくせに、胸がざわついた。
好きな人との初めてのキス。
本当なら忘れたくないはずなのに。
自分の中には何も残っていない。
唇の温度も。
触れた瞬間の気持ちも。
ラビがどんな顔をしていたのかさえ。
「……なんか、悔しいな」
『え?』
「私にとっては、ラビとの初めてだったのに」
『…………『』
「何にも覚えてない」
ラビが俯く。
『ごめ──』
「謝らないで」
主人公は首を振った。
「今は謝ってほしくて言ったんじゃないの」
『じゃあ……』
少し迷ってから。
主人公はラビを見上げた。
「……もう一回したい」
『…………は?』
ラビの目が丸くなる。
「キス」
『いや、待っ──』
「今度はちゃんと」
心臓がうるさい。
それでも目を逸らさなかった。
「覚えていられるキスがしたい」
ラビが完全に固まった。
耳がみるみる赤くなっていく。
『お前……今、自分が何言ってるか分かってんの?』
「分かってる」
『薬とか』
「飲んでない」
『熱は?』
「ない」
『具合悪くねぇ?』
「悪くない」
『意識は?』
思わず笑ってしまった。
「ちゃんとしてるよ」
『……そっか』
それでもラビは動かなかった。
「ラビ?」
『……怖いんさ』
思いがけない言葉だった。
「何が?」
『触るのが』
ラビの手が、わずかに震えていた。
『頭じゃ分かってる。今のお前はちゃんと自分で考えて喋ってるって』
「うん」
『でも……またオレが勝手に都合よく受け取ってるんじゃねぇかって思っちまう』
主人公はその手を取った。
ラビが息を呑む。
「じゃあ、何回でも聞いて」
『……え?』
「私に」
その手を両手で包む。
「本当にいいのかって、何回でも確認して」
『…………』
「そのたびに答えるから」
ラビの翡翠色の瞳をまっすぐ見る。
「私はラビが好き」
一つ。
「ラビに抱きしめてほしい」
二つ。
「それから──」
恥ずかしくなって、一瞬だけ視線が揺れた。
それでも。
「キス、したい」
三つ。
全部、自分の意思だった。
「……これでも駄目?」
『…………』
ラビが困ったように笑った。
『敵わねぇなぁ……』
ゆっくりと手が伸びてくる。
けれど頬に触れる寸前で止まった。
『触っていい?』
「うん」
頬に手が触れた。
それだけなのに、心臓が跳ねた。
指先が温かい。
覚えていられる。
『……キスしても?』
今度は、少しだけ笑った。
「うん」
それでもラビはすぐには近づかなかった。
最後の最後まで主人公の表情を見ている。
だから主人公の方から、ほんの少しだけ距離を縮めた。
それを見て。
ようやくラビが顔を寄せる。
唇が重なった。
ほんの一瞬。
触れるだけのキスだった。
すぐに離れる。
『…………』
「…………」
お互い、何も言えなかった。
顔が熱い。
唇に残った温度だけが、やけにはっきりしていた。
『……覚えてる?』
ラビが小さく聞いた。
主人公は唇に指を当てる。
「うん」
『……そっか』
「ちゃんと覚えてる」
その瞬間。
ラビが泣きそうに笑った。
主人公も笑った。
「ラビ」
『ん?』
「これがいい」
『……何が?』
「私の初めてのキス、これにする」
『いや……実際には初めてじゃ──』
「私が覚えてるのは、これが初めてだから」
ラビが黙る。
「だから、これでいい」
『…………』
「ううん」
首を振った。
「これがいい」
ラビはしばらく何も言わなかった。
やがて、額を主人公の額へそっと寄せる。
『……もう一回聞くさ』
「うん」
『キスしていい?』
主人公は笑った。
今度は迷わなかった。
「うん」
二度目のキスは。
一度目より、ほんの少しだけ長かった。
それでもラビは急がなかった。
主人公も目を閉じながら、その温度を一つずつ覚えようとした。
好きな人の手が頬に触れていること。
自分の心臓が速くなっていること。
唇が離れたあと、ラビが照れくさそうに笑ったこと。
全部。
今度こそ。
忘れたくなかった。
