─ 初めての告白
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翌朝。
主人公のもとに、任務の知らせが届いた。
本来なら数日後に出発する予定だった任務が、現地の状況悪化によって前倒しになったらしい。
出発は──今日。
「……今日?」
思わず聞き返した。
『はい。急で申し訳ありません。準備ができ次第、出発していただきたいとのことです』
「……分かりました」
そう答えながら。
真っ先に頭に浮かんだのは。
赤い髪だった。
「…………」
昨日。
数か月ぶりに会えたばかりなのに。
結局、まともに話せないまま。
今度は自分が教団を離れる。
──ラビに、言ったほうがいいかな。
任務に行くこと。
いつ戻るか分からないこと。
けれど。
昨日のラビの顔を思い出す。
《嫌われてもいい。もう近づくなって言われたら、そうする》
そして自分は。
『少し、考えさせて』
そう言った。
今、会いに行ったら。
何を言えばいいんだろう。
まだ答えは出ていない。
結局。
主人公はラビを探しに行けなかった。
数時間後。
黒の教団を離れる馬車の中で。
主人公は窓の外を眺めていた。
どんどん小さくなっていく教団本部。
その姿が見えなくなるまで。
ずっと見つめていた。
「…………」
胸の奥が。
妙に落ち着かなかった。
昨日までは。
ラビが帰ってきたら、あの夜のことを聞こうと思っていた。
聞けば何かが分かると思っていた。
けれど。
実際に聞いてしまったら。
分からないことが、もっと増えた。
あの夜。
自分はラビを求めた。
それは薬のせいだったのかもしれない。
でも。
──どうして、ラビだったんだろう。
ふと。
そんな疑問が浮かぶ。
薬の作用で正常な判断ができなかった。
それは分かっている。
それでも。
記憶が途切れる直前。
自分が廊下で見つけたのはラビだった。
そして。
その先の記憶はないけれど。
自分は彼を求めたのだという。
「…………」
主人公は膝の上で指を組んだ。
考えていると。
昨日の言葉が蘇る。
《……オレ、お前のことが好きだったから》
胸が、きゅっとなる。
まただ。
昨日から。
この言葉を思い出すたびに。
変な感じがする。
苦しいような。
嬉しいような。
でも。
少しだけ寂しい。
「……好きだった、か」
また、過去形。
どうして。
そこばかり気になるんだろう。
任務が始まってからも。
その疑問は消えなかった。
むしろ。
教団から離れれば離れるほど。
ラビのことを考える時間が増えていった。
街を歩いていて。
赤いものが視界に入ると、一瞬だけ振り返ってしまう。
宿で食事をしていて。
向かいの席が空いていると。
ここにラビがいたら、きっとくだらないことを言うんだろうなと思った。
任務を終えて。
疲れて宿へ戻った夜。
ベッドへ横になると。
今度は。
《お疲れさん》
そんな声まで頭の中に浮かんだ。
「…………」
主人公は枕に顔を埋める。
「なんで……」
いないのに。
ラビのことばかり。
考えている。
今までだって、任務で離れることは何度もあった。
そのたびに。
帰ったら話したいことが増えていた。
面白いものを見つけたら、ラビに教えようと思った。
珍しい食べ物を見つけたら、ラビなら食べるかなと思った。
怪我をすれば。
心配する顔が浮かんだ。
そして。
教団へ戻ったとき。
赤い髪を探していた。
それを。
当たり前だと思っていた。
「…………あ」
主人公はゆっくり顔を上げた。
違う。
当たり前なんかじゃない。
誰に対しても。
こんなふうに思うわけじゃない。
会いたい。
話したい。
隣にいたい。
帰ったら、一番に顔を見たい。
それから。
──好きだった。
その言葉を。
過去形で言ってほしくない。
「…………」
心臓が、大きく鳴った。
ようやく。
点々としていたものが。
一つにつながっていく。
ラビが他の誰かと楽しそうにしていると、少しだけ面白くなかったこと。
任務へ行くと聞くと、寂しかったこと。
帰ってくる日は、無意識に何度も入口を気にしていたこと。
「おかえり」と言ったとき。
ラビが笑ってくれるのが嬉しかったこと。
全部。
ずっと前から。
「……私」
声にすると。
急に恥ずかしくなった。
誰もいない部屋なのに。
それでも。
もう。
誤魔化せなかった。
「……ラビのこと、好きなんだ」
ぽつり。
言葉が落ちる。
その瞬間。
不思議なくらい。
胸の中にあったものが、すとんと形を持った。
あの夜に何があったからじゃない。
薬を浴びたからでもない。
ラビから好きだったと告げられたからでもない。
もっと前から。
自分は。
ラビを目で追っていた。
ラビに会えると嬉しかった。
ラビが帰ってくるのを待っていた。
──好きだったんだ。
気づいていなかっただけで。
「…………」
主人公は目を閉じた。
浮かんだのは。
昨日のラビの顔。
笑っていなかった。
いつも笑っているラビが。
あんな顔をしていた。
《もう近づくなって言われたら、そうする》
「……やだ」
考えるより先に。
言葉が出た。
主人公自身が驚いて、目を開ける。
「…………」
もう近づかない。
ラビがそうすることを想像しただけで。
胸が痛かった。
「……それは、やだよ」
今度は。
はっきりと言った。
会いたい。
帰りたい。
ラビに会って。
今度は自分から。
ちゃんと話したい。
──私も。
その先を思っただけで。
頬が熱くなる。
主人公は両手で顔を覆った。
「……今さら気づくなんて」
数か月。
ラビは一人で抱えていた。
そしてようやく帰ってきたのに。
自分は『考えさせて』と言って。
今度は自分がいなくなった。
「……待っててくれるかな」
呟いてから。
主人公は少しだけ笑った。
待っていてほしい。
今度は。
ちゃんと伝えたい。
あの夜の自分が何を言ったのかは。
まだ知らない。
けれど。
今の自分の気持ちなら。
ちゃんと分かる。
だから。
教団へ帰ったら。
ラビに会おう。
そして今度こそ──
自分の言葉で。
伝えよう。
好きだと。
主人公のもとに、任務の知らせが届いた。
本来なら数日後に出発する予定だった任務が、現地の状況悪化によって前倒しになったらしい。
出発は──今日。
「……今日?」
思わず聞き返した。
『はい。急で申し訳ありません。準備ができ次第、出発していただきたいとのことです』
「……分かりました」
そう答えながら。
真っ先に頭に浮かんだのは。
赤い髪だった。
「…………」
昨日。
数か月ぶりに会えたばかりなのに。
結局、まともに話せないまま。
今度は自分が教団を離れる。
──ラビに、言ったほうがいいかな。
任務に行くこと。
いつ戻るか分からないこと。
けれど。
昨日のラビの顔を思い出す。
《嫌われてもいい。もう近づくなって言われたら、そうする》
そして自分は。
『少し、考えさせて』
そう言った。
今、会いに行ったら。
何を言えばいいんだろう。
まだ答えは出ていない。
結局。
主人公はラビを探しに行けなかった。
数時間後。
黒の教団を離れる馬車の中で。
主人公は窓の外を眺めていた。
どんどん小さくなっていく教団本部。
その姿が見えなくなるまで。
ずっと見つめていた。
「…………」
胸の奥が。
妙に落ち着かなかった。
昨日までは。
ラビが帰ってきたら、あの夜のことを聞こうと思っていた。
聞けば何かが分かると思っていた。
けれど。
実際に聞いてしまったら。
分からないことが、もっと増えた。
あの夜。
自分はラビを求めた。
それは薬のせいだったのかもしれない。
でも。
──どうして、ラビだったんだろう。
ふと。
そんな疑問が浮かぶ。
薬の作用で正常な判断ができなかった。
それは分かっている。
それでも。
記憶が途切れる直前。
自分が廊下で見つけたのはラビだった。
そして。
その先の記憶はないけれど。
自分は彼を求めたのだという。
「…………」
主人公は膝の上で指を組んだ。
考えていると。
昨日の言葉が蘇る。
《……オレ、お前のことが好きだったから》
胸が、きゅっとなる。
まただ。
昨日から。
この言葉を思い出すたびに。
変な感じがする。
苦しいような。
嬉しいような。
でも。
少しだけ寂しい。
「……好きだった、か」
また、過去形。
どうして。
そこばかり気になるんだろう。
任務が始まってからも。
その疑問は消えなかった。
むしろ。
教団から離れれば離れるほど。
ラビのことを考える時間が増えていった。
街を歩いていて。
赤いものが視界に入ると、一瞬だけ振り返ってしまう。
宿で食事をしていて。
向かいの席が空いていると。
ここにラビがいたら、きっとくだらないことを言うんだろうなと思った。
任務を終えて。
疲れて宿へ戻った夜。
ベッドへ横になると。
今度は。
《お疲れさん》
そんな声まで頭の中に浮かんだ。
「…………」
主人公は枕に顔を埋める。
「なんで……」
いないのに。
ラビのことばかり。
考えている。
今までだって、任務で離れることは何度もあった。
そのたびに。
帰ったら話したいことが増えていた。
面白いものを見つけたら、ラビに教えようと思った。
珍しい食べ物を見つけたら、ラビなら食べるかなと思った。
怪我をすれば。
心配する顔が浮かんだ。
そして。
教団へ戻ったとき。
赤い髪を探していた。
それを。
当たり前だと思っていた。
「…………あ」
主人公はゆっくり顔を上げた。
違う。
当たり前なんかじゃない。
誰に対しても。
こんなふうに思うわけじゃない。
会いたい。
話したい。
隣にいたい。
帰ったら、一番に顔を見たい。
それから。
──好きだった。
その言葉を。
過去形で言ってほしくない。
「…………」
心臓が、大きく鳴った。
ようやく。
点々としていたものが。
一つにつながっていく。
ラビが他の誰かと楽しそうにしていると、少しだけ面白くなかったこと。
任務へ行くと聞くと、寂しかったこと。
帰ってくる日は、無意識に何度も入口を気にしていたこと。
「おかえり」と言ったとき。
ラビが笑ってくれるのが嬉しかったこと。
全部。
ずっと前から。
「……私」
声にすると。
急に恥ずかしくなった。
誰もいない部屋なのに。
それでも。
もう。
誤魔化せなかった。
「……ラビのこと、好きなんだ」
ぽつり。
言葉が落ちる。
その瞬間。
不思議なくらい。
胸の中にあったものが、すとんと形を持った。
あの夜に何があったからじゃない。
薬を浴びたからでもない。
ラビから好きだったと告げられたからでもない。
もっと前から。
自分は。
ラビを目で追っていた。
ラビに会えると嬉しかった。
ラビが帰ってくるのを待っていた。
──好きだったんだ。
気づいていなかっただけで。
「…………」
主人公は目を閉じた。
浮かんだのは。
昨日のラビの顔。
笑っていなかった。
いつも笑っているラビが。
あんな顔をしていた。
《もう近づくなって言われたら、そうする》
「……やだ」
考えるより先に。
言葉が出た。
主人公自身が驚いて、目を開ける。
「…………」
もう近づかない。
ラビがそうすることを想像しただけで。
胸が痛かった。
「……それは、やだよ」
今度は。
はっきりと言った。
会いたい。
帰りたい。
ラビに会って。
今度は自分から。
ちゃんと話したい。
──私も。
その先を思っただけで。
頬が熱くなる。
主人公は両手で顔を覆った。
「……今さら気づくなんて」
数か月。
ラビは一人で抱えていた。
そしてようやく帰ってきたのに。
自分は『考えさせて』と言って。
今度は自分がいなくなった。
「……待っててくれるかな」
呟いてから。
主人公は少しだけ笑った。
待っていてほしい。
今度は。
ちゃんと伝えたい。
あの夜の自分が何を言ったのかは。
まだ知らない。
けれど。
今の自分の気持ちなら。
ちゃんと分かる。
だから。
教団へ帰ったら。
ラビに会おう。
そして今度こそ──
自分の言葉で。
伝えよう。
好きだと。
