Ⅳ 黒の教団
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『やあ! 君が主人公だね!』
扉が開いた瞬間だった。
主人公はびくっと肩を跳ねさせる。
目の前に現れたのは、白い制服を着た長い髪の男だった。
『僕はコムイ・リー。黒の教団本部室長だよ』
「……室長?」
主人公の顔が強張る。
なんとなく、とても偉い人らしい。
「は、初めまして……!」
勢いよく頭を下げる。
『あはは、そんなに緊張しなくていいよ』
コムイは柔らかく笑った。
『ここがどういう場所なのかも、まだよく分かってないんでしょう?』
「……はい」
それから主人公は、コムイから黒の教団について説明を受けた。
千年伯爵。
AKUMA。
イノセンス。
エクソシスト。
世界の終焉を阻止するための戦い。
あまりにも大きな話だった。
「……世界を、救う……」
主人公は呆然と呟く。
昨日まで、自分がどこの誰なのかすら分からなかったのに。
今日になったら世界を救う側の人間だと言われている。
『今すぐ全部理解しなくても大丈夫だよ』
コムイが言った。
『まずは君とイノセンスの適合を正式に確認しよう』
「どうやって?」
『ヘブラスカに会ってもらう』
「ヘブラスカ……?」
また知らない名前が増えた。
主人公は少しだけ不安そうな顔をした。
───
薄暗い空間。
巨大な存在を前にして、主人公は完全に固まっていた。
「……こ、こんにちは」
何を言えばいいのか分からず、とりあえず挨拶する。
その様子を見ていたコムイが小さく笑った。
《主人公》
静かな声が空間に響いた。
主人公は少し緊張しながら、ヘブラスカの前へ進む。
両手首には、遺跡で手に入れた水晶のバングル。
あのとき確かに力を発揮したもの。
ファインダーから説明を受けた今なら分かる。
これが──自分のイノセンスなのだ。
《そのイノセンスを、こちらへ》
「はい」
主人公が両腕を差し出す。
ヘブラスカが水晶のバングルへ触れた。
淡い光が広がる。
「……綺麗」
思わず主人公が呟く。
けれど。
次の瞬間だった。
ヘブラスカの動きが止まった。
《…………》
『ヘブラスカ?』
コムイが首を傾げる。
《待って》
その声が変わった。
ヘブラスカの意識が、バングルから主人公自身へと移っていく。
《これは……》
『どうしたの?』
《もう一つある》
『え?』
コムイの表情が変わる。
主人公だけが意味を理解できず、二人を交互に見た。
「もう一つって……何がですか?」
ヘブラスカの手がゆっくりと動く。
そして──主人公の首元で止まった。
《ここ》
「…………」
主人公は、自分の首へ手を伸ばした。
指先に触れるのは、いつもの細い赤黒いチョーカー。
中央に嵌まった深紅のガーネットの様な結晶を、そっと指でなぞる。
「……これ」
驚くというより。
どこか、確かめるような声だった。
『何か心当たりがあるの?』
コムイに尋ねられ、主人公は少し迷ってから頷いた。
「……たぶん」
『たぶん?』
「これも……何か、普通じゃないものなんだろうなって」
森で目覚めたあと。
不思議な湖で出会った存在。
導かれるように飲み込んだ、光る球体。
喉を引き裂かれるような激痛。
そして。
気がついたときには、このチョーカーが首に巻きついていた。
それだけなら。
ただ、不思議な出来事だったのかもしれない。
けれど。
遺跡で床が崩れた、あのとき。
「私……高いところから落ちたんです」
『落ちた?』
「はい」
主人公は首元に触れたまま、あの瞬間を思い出す。
足元がなくなって。
身体が落ちていって。
怖くて。
死ぬと思って。
思わず叫んだ。
「そのとき……これが光って」
自分でも、何が起きたのか分からなかった。
ただ。
「落ちる勢いが……少し、弱くなったんです」
コムイの表情が変わる。
『君が意識して使ったの?』
「……分かりません」
主人公は小さく首を振った。
「何かしようと思ったわけじゃなくて……怖くて、叫んだだけだから」
それ以来。
何度かチョーカーへ触れてみた。
あのときと同じことができるのか。
何のための力なのか。
確かめようともした。
けれど。
「……それからは、何も起きなくて」
両手首の水晶へ視線を落とす。
こちらは違った。
助けたいと思えば、応えてくれた。
壁を動かしたい。
守りたい。
足場を作りたい。
そう思えば、不完全ながらも形になった。
けれど。
首元のこれは。
「使い方が……分からないんです」
《主人公》
ヘブラスカの声が響く。
主人公が顔を上げる。
《あなたが感じていた通り、これもイノセンス》
「…………やっぱり」
小さな声が漏れた。
驚いていないわけではなかった。
けれど。
胸のどこかでは、そうなのかもしれないと思っていた。
「じゃあ……あのとき助けてくれたのも……」
《おそらく》
「…………」
主人公はチョーカーを握る。
あのとき。
自分は何も知らなかった。
使い方さえ分からなかった。
それでも。
これは応えてくれた。
「……ありがとう」
無意識に。
そんな言葉が零れた。
『…………』
コムイが少しだけ目を丸くする。
けれど、ヘブラスカはその言葉には触れなかった。
《あなたには二つのイノセンスが宿っている》
「二つ……」
主人公は両手首を見る。
そして。
首元へ触れる。
水晶のイノセンス。
そして。
まだ使い方さえ分からない、チョーカーのイノセンス。
「……そんなこと、あるんですか?」
その問いに。
すぐ答える者はいなかった。
主人公は二人の顔を見る。
「…………」
その沈黙だけで。
なんとなく分かってしまった。
普通ではないのだ。
「……私、おかしいんですか?」
『主人公』
コムイがすぐに口を開いた。
『君自身がおかしいって話じゃないよ』
「でも……」
『僕もあまり聞いたことがない。少なくとも、普通に起こることではないと思う』
コムイは少し考えてから、続ける。
『だからこそ、ちゃんと調べよう』
「…………はい」
『それと──』
コムイの表情が変わる。
室長としての顔だった。
『このことは秘匿しよう』
《私も、それがいいと思う》
『原因が分かるまでは、主人公が二つのイノセンスに適合していることは公表しない。団員にも、他のエクソシストにも』
主人公は首元を押さえたまま、小さく頷いた。
「……分かりました」
二つのイノセンス。
一つは。
自分の意思に応えるように、形を変える水晶。
もう一つは。
一度だけ。
死ぬかもしれないと思った瞬間に、自分を守ってくれたものだった。
扉が開いた瞬間だった。
主人公はびくっと肩を跳ねさせる。
目の前に現れたのは、白い制服を着た長い髪の男だった。
『僕はコムイ・リー。黒の教団本部室長だよ』
「……室長?」
主人公の顔が強張る。
なんとなく、とても偉い人らしい。
「は、初めまして……!」
勢いよく頭を下げる。
『あはは、そんなに緊張しなくていいよ』
コムイは柔らかく笑った。
『ここがどういう場所なのかも、まだよく分かってないんでしょう?』
「……はい」
それから主人公は、コムイから黒の教団について説明を受けた。
千年伯爵。
AKUMA。
イノセンス。
エクソシスト。
世界の終焉を阻止するための戦い。
あまりにも大きな話だった。
「……世界を、救う……」
主人公は呆然と呟く。
昨日まで、自分がどこの誰なのかすら分からなかったのに。
今日になったら世界を救う側の人間だと言われている。
『今すぐ全部理解しなくても大丈夫だよ』
コムイが言った。
『まずは君とイノセンスの適合を正式に確認しよう』
「どうやって?」
『ヘブラスカに会ってもらう』
「ヘブラスカ……?」
また知らない名前が増えた。
主人公は少しだけ不安そうな顔をした。
───
薄暗い空間。
巨大な存在を前にして、主人公は完全に固まっていた。
「……こ、こんにちは」
何を言えばいいのか分からず、とりあえず挨拶する。
その様子を見ていたコムイが小さく笑った。
《主人公》
静かな声が空間に響いた。
主人公は少し緊張しながら、ヘブラスカの前へ進む。
両手首には、遺跡で手に入れた水晶のバングル。
あのとき確かに力を発揮したもの。
ファインダーから説明を受けた今なら分かる。
これが──自分のイノセンスなのだ。
《そのイノセンスを、こちらへ》
「はい」
主人公が両腕を差し出す。
ヘブラスカが水晶のバングルへ触れた。
淡い光が広がる。
「……綺麗」
思わず主人公が呟く。
けれど。
次の瞬間だった。
ヘブラスカの動きが止まった。
《…………》
『ヘブラスカ?』
コムイが首を傾げる。
《待って》
その声が変わった。
ヘブラスカの意識が、バングルから主人公自身へと移っていく。
《これは……》
『どうしたの?』
《もう一つある》
『え?』
コムイの表情が変わる。
主人公だけが意味を理解できず、二人を交互に見た。
「もう一つって……何がですか?」
ヘブラスカの手がゆっくりと動く。
そして──主人公の首元で止まった。
《ここ》
「…………」
主人公は、自分の首へ手を伸ばした。
指先に触れるのは、いつもの細い赤黒いチョーカー。
中央に嵌まった深紅のガーネットの様な結晶を、そっと指でなぞる。
「……これ」
驚くというより。
どこか、確かめるような声だった。
『何か心当たりがあるの?』
コムイに尋ねられ、主人公は少し迷ってから頷いた。
「……たぶん」
『たぶん?』
「これも……何か、普通じゃないものなんだろうなって」
森で目覚めたあと。
不思議な湖で出会った存在。
導かれるように飲み込んだ、光る球体。
喉を引き裂かれるような激痛。
そして。
気がついたときには、このチョーカーが首に巻きついていた。
それだけなら。
ただ、不思議な出来事だったのかもしれない。
けれど。
遺跡で床が崩れた、あのとき。
「私……高いところから落ちたんです」
『落ちた?』
「はい」
主人公は首元に触れたまま、あの瞬間を思い出す。
足元がなくなって。
身体が落ちていって。
怖くて。
死ぬと思って。
思わず叫んだ。
「そのとき……これが光って」
自分でも、何が起きたのか分からなかった。
ただ。
「落ちる勢いが……少し、弱くなったんです」
コムイの表情が変わる。
『君が意識して使ったの?』
「……分かりません」
主人公は小さく首を振った。
「何かしようと思ったわけじゃなくて……怖くて、叫んだだけだから」
それ以来。
何度かチョーカーへ触れてみた。
あのときと同じことができるのか。
何のための力なのか。
確かめようともした。
けれど。
「……それからは、何も起きなくて」
両手首の水晶へ視線を落とす。
こちらは違った。
助けたいと思えば、応えてくれた。
壁を動かしたい。
守りたい。
足場を作りたい。
そう思えば、不完全ながらも形になった。
けれど。
首元のこれは。
「使い方が……分からないんです」
《主人公》
ヘブラスカの声が響く。
主人公が顔を上げる。
《あなたが感じていた通り、これもイノセンス》
「…………やっぱり」
小さな声が漏れた。
驚いていないわけではなかった。
けれど。
胸のどこかでは、そうなのかもしれないと思っていた。
「じゃあ……あのとき助けてくれたのも……」
《おそらく》
「…………」
主人公はチョーカーを握る。
あのとき。
自分は何も知らなかった。
使い方さえ分からなかった。
それでも。
これは応えてくれた。
「……ありがとう」
無意識に。
そんな言葉が零れた。
『…………』
コムイが少しだけ目を丸くする。
けれど、ヘブラスカはその言葉には触れなかった。
《あなたには二つのイノセンスが宿っている》
「二つ……」
主人公は両手首を見る。
そして。
首元へ触れる。
水晶のイノセンス。
そして。
まだ使い方さえ分からない、チョーカーのイノセンス。
「……そんなこと、あるんですか?」
その問いに。
すぐ答える者はいなかった。
主人公は二人の顔を見る。
「…………」
その沈黙だけで。
なんとなく分かってしまった。
普通ではないのだ。
「……私、おかしいんですか?」
『主人公』
コムイがすぐに口を開いた。
『君自身がおかしいって話じゃないよ』
「でも……」
『僕もあまり聞いたことがない。少なくとも、普通に起こることではないと思う』
コムイは少し考えてから、続ける。
『だからこそ、ちゃんと調べよう』
「…………はい」
『それと──』
コムイの表情が変わる。
室長としての顔だった。
『このことは秘匿しよう』
《私も、それがいいと思う》
『原因が分かるまでは、主人公が二つのイノセンスに適合していることは公表しない。団員にも、他のエクソシストにも』
主人公は首元を押さえたまま、小さく頷いた。
「……分かりました」
二つのイノセンス。
一つは。
自分の意思に応えるように、形を変える水晶。
もう一つは。
一度だけ。
死ぬかもしれないと思った瞬間に、自分を守ってくれたものだった。
