Ⅲ 新しい名前
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それからの日々は、穏やかだった。
朝になれば目を覚ます。
「おはよう」と言えば、『おはよう』と返ってくる。
畑へ行けば仕事がある。
失敗すれば笑われる。
子供たちと遊ぶ。
夕方になれば、一緒に帰る。
食卓を囲む。
夜になれば。
『おやすみ、主人公』
そう言ってくれる人がいる。
「……おやすみなさい」
そして翌朝。
また誰かが名前を呼んでくれる。
──主人公。
そのたびに。
私は少しずつ、この世界に存在していいのだと思えるようになった。
過去はない。
家族も思い出せない。
自分がどこから来たのかも分からない。
首には、理由も分からない赤黒いチョーカーがある。
夜になると、ときどき悪夢を見る。
崩れる白い建物。
赤い光。
誰かの叫び声。
そして。
自分を呼ぶ声。
『――024!』
飛び起きる。
「……はぁ……っ……」
何も思い出せない。
胸だけが、どうしようもなく痛い。
そんな夜。
隣の部屋から声がした。
『主人公?』
「……!」
『大丈夫かい?』
私は首元のチョーカーを握りしめた。
少し迷ってから答える。
「……大丈夫」
すると。
『そうかい。何かあったら呼ぶんだよ』
足音が遠ざかっていく。
私はしばらく、暗い部屋の中で動けなかった。
やがて。
「……主人公」
自分の名前を呟いた。
024ではない。
意味の分からない数字ではない。
今の私を呼んでくれる名前。
「私は……主人公」
胸に手を当てる。
過去の自分が誰だったのかは分からない。
それでも。
明日になれば。
畑へ行く。
子供たちが待っている。
夕方になれば、みんなと一緒に帰る。
そして。
「ただいま」
そう言える場所がある。
記憶を失って目覚めてから初めて手に入れたもの。
名前。
人との繋がり。
そして──。
帰る場所。
私は目を閉じた。
この場所がずっと続けばいい。
このときの私は。
心の底から、そう願っていた。
朝になれば目を覚ます。
「おはよう」と言えば、『おはよう』と返ってくる。
畑へ行けば仕事がある。
失敗すれば笑われる。
子供たちと遊ぶ。
夕方になれば、一緒に帰る。
食卓を囲む。
夜になれば。
『おやすみ、主人公』
そう言ってくれる人がいる。
「……おやすみなさい」
そして翌朝。
また誰かが名前を呼んでくれる。
──主人公。
そのたびに。
私は少しずつ、この世界に存在していいのだと思えるようになった。
過去はない。
家族も思い出せない。
自分がどこから来たのかも分からない。
首には、理由も分からない赤黒いチョーカーがある。
夜になると、ときどき悪夢を見る。
崩れる白い建物。
赤い光。
誰かの叫び声。
そして。
自分を呼ぶ声。
『――024!』
飛び起きる。
「……はぁ……っ……」
何も思い出せない。
胸だけが、どうしようもなく痛い。
そんな夜。
隣の部屋から声がした。
『主人公?』
「……!」
『大丈夫かい?』
私は首元のチョーカーを握りしめた。
少し迷ってから答える。
「……大丈夫」
すると。
『そうかい。何かあったら呼ぶんだよ』
足音が遠ざかっていく。
私はしばらく、暗い部屋の中で動けなかった。
やがて。
「……主人公」
自分の名前を呟いた。
024ではない。
意味の分からない数字ではない。
今の私を呼んでくれる名前。
「私は……主人公」
胸に手を当てる。
過去の自分が誰だったのかは分からない。
それでも。
明日になれば。
畑へ行く。
子供たちが待っている。
夕方になれば、みんなと一緒に帰る。
そして。
「ただいま」
そう言える場所がある。
記憶を失って目覚めてから初めて手に入れたもの。
名前。
人との繋がり。
そして──。
帰る場所。
私は目を閉じた。
この場所がずっと続けばいい。
このときの私は。
心の底から、そう願っていた。
