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沢北





恋人の口から『好き』を聞きたい、それが乙女心というもの。

「栄治。女編に子どもの子、なんて読むっけ?」

正直、この問いに彼がどう答えるかなんて分かってる。恋人以前に幼馴染でもあるのだから。
質問内容を頭で反復し、出た結論をキョトンとした顔でこう言うだろう。

好きじゃねぇの?...と。

「好きじゃねぇの?」

うん、一字一句違わない見事な回答。

「...ごめん、もう一回言って?」

え?想像していた通りなのに何故聞き直すのか?
だって、これが狙いだもん。

「いや、だから...好きじゃねぇの?」
「...ワンモア」
「だーかーらー!好きだって!...なんで英語?」

もうお分かりだろう。
私は今、恋人から『好き』という言葉を引き出したのだ。本人が意味に気づいていないのを良いことに、わざとらしく聞こえないフリまでして、何度も。

まあ、これ以上は流石に良心が痛むし、そろそろネタバラシするとしよう。
本人が状況を理解しいないとは言え、聞き続けるのは私も身が持たない。意味が分かっていなくとも、好きな人からの『好き』の破壊力は半端ないから。

「...答えてくれてありがとう。でも栄治」
「今度はなんだよ?」
「さっき、自分がなんて言ってたか分かる?」

私の顔、多分すごくニヤついてると思う。そりゃもう、問答の時の比じゃないくらいにね。
ああそれと、彼もようやく意味を理解したらしい。

「...あああ!」
「本当に気づいてなかったんだね。私も好きだよ」
「今はやめてくれ......嬉しいけど...」

その素直なとこも好き...と伝えるのは、顔の赤みが引いてからの方が良さそうだ。

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