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第2部 二つの家族の章

1
「…………」
「何か考えごとですか?」
「えっ?」
コウと話ができた日から三日。
ぼんやりとしていたユウナは、聞こえてきた声に我に返った。
いつの間にか近くには、リーシェの姿がある。
「えっと……、何かあった?」
「いいえ。ただお茶の準備ができたのでお持ちしたのですが、ノックしても反応がありませんでしたから」
そう答える彼女の傍には、確かにカートがあり、ケーキとティーポット、ティーカップが乗っていた。
「あ……、もうそんな時間?」
「ええ。何をそんなに考えこんでいたんですか?」
「……たいしたことじゃないよ」
コウが心配だとはなんとなく言えなくてそう返す。
「そうですか?……なら、お茶をいれますね」
リーシェはそう言うと、手早く準備してくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
リーシェからお茶とケーキを受け取る。
「……あのっ、ユウナ様」
「?」
ケーキを一口頬張り、次に紅茶を口にしようとして、リーシェに声を掛けられる。
視線を向けると、彼女は何か戸惑っているようにも見えた。
「ユウナ様、あのですね……」
何か言おうとしているのはわかるが、なかなか口を開こうとしないリーシェに内心首を傾げながらも、カップを口に運ぶ。
中に入っていた紅茶を飲み込むと、何故か急に眠気に襲われた。
2
「…………?」
近くから聞こえる声にユウナは目を開ける。
(……まだ頭がぼんやりする)
そんなことを思いながら身体を起こす。
さっと辺りを見回して、今いるのが牢の中だとわかった。
そして、後ろ姿だが牢の外へ向かって叫んでいる少女の姿を見て、目を見開いた。
(な……、なんでシルファ王女が……!?)
心の中で呟いていると、ユウナが起きたことに気付いたのか、シルファが振り返った。
「今、起きたの?のんきなものね」
「うっ……」
顔を合わせてすぐに言われ、ユウナは思わず呻いた。
それでもなんとか気を取り直して口を開く。
「えっと……、私達、どうしてこんなところに?」
「そんなの、こっちが聞きたいわよ。なんであんたとこんなところに閉じ込められないといけないの」
そう呟くとシルファは急に元気をなくしたようにずるずると座り込んだ。
そんな彼女を見ながらユウナは何故こんなことになったのかと、気を失う前のことを思い返していた。
(えっと……、確かリーシェにお茶をいれてもらって……)
それを口にしたところまでは覚えている。
だが、それ以降のことは何も思い出せない。
(あのお茶の中に何かが入っていたってこと。でも、そうだとしたら……)
いれて渡してきたのはリーシェだ。
その時、誰かが歩いてくる音が聞こえてきてユウナは考えるのをやめて、視線を向ける。
牢の外に現れたのは、研究員のような格好をした男だった。
3
牢から出されたユウナは、シルファと共に何かの装置がある部屋へと連れてこられていた。
装置はカプセル状のもので、計測器のようなものがいくつかついている。
「入れ」
「入れってこの中に?何故、私が……」
「早くしろ」
むっとしたようにシルファが返すと、研究員の男の声も苛ついたようなものになる。
(ここは従った方がいいかな……)
それに気付いて、ユウナが男の言う通りにしようとすると、シルファがぎょっとしたように見てきた。
「ちょっ、そいつの言うこと聞くの!?」
「……今は言うことを聞いた方があまり酷い目に合わなくてすむかと」
答えながら、研究員の男を見る。
「……はは、どうやら君の方が賢いようだ。なに、ちょっと調べたいことがあるだけだ。協力してくれればすぐに済む」
「っ……、わかったわよ」
投げやりに叫んだシルファが、ユウナが入ろうとしていたものと別の機械へ向かっていく。
それをユウナが見ていると、研究員の男が指示を出してきた。
「さぁ、その装置へ入れ。少しデータを取りたいだけだからな」
言われてユウナが装置の中に入ると、男は装置を操作し始める。
その様子をユウナはぼんやりと見つめながら、男が言うデータを取り終わるのを待った。
「終わったぞ。出ろ」
聞こえてきた声に、ユウナは装置から出る。
研究員の男はシルファの入った装置を操作していた研究員から受け取った紙と自分が持っていた紙を見比べていた。
「……異界に行った者のうち、どちらも数値に変化はない。……世界は変わっても、元々の素質は変わらないということか……」
ぶつぶつと一人で呟いている研究員の男をシルファが睨むように見る。
「結局、何を調べたかったのよ?リーシェを使ってまで、こんなところに連れてきて」
「……あなた方が十四年前に入れ替わっていることは知っていたのでね。十四年も別の世界で生きているうちに、身体に何か変化があるか調べてみたくてな。できれば……」
研究員はそう言うと、ユウナとシルファを眺め見てくる。
「もっと詳しく色々と調べてみたいところだな」
「そうか。だが、それは諦めてもらうぞ」
男が口にした時、ユウナにとって聞き覚えのある声がして、男はハッとしたようにその方向を見た。
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