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第2部 二つの家族の章

1
次の日になり、ユウナは王に呼ばれ、謁見の間に来ていた。
中に入ると、玉座に座る王と王妃の姿はあったが、ヴェルス、ジェイス、セルフィの姿は見えない。
そして、二人の前にはこちらに背を向け 膝をついている人物が一人目に入った。
「おお、来たか。ユウナ」
ユウナに気付いた王が声を掛けてくる。
「彼がお前の護衛につくことになったギルドの構成員だ。今日はその挨拶に来てくれたんだ」
「あなたも顔合わせはしとかないといけないと思って呼んだのよ」
王妃にも言われて、ユウナは王達の元へ歩いていく。
振り返り、膝をついている人物と視線が合ったところで、ユウナは目を見開いた 。
「お……」
(お兄ちゃん!!)
声を上げかけたのをどうにか堪え、心の中で叫ぶ。
コウの方もユウナと視線があって、僅かに目を見開きはしたが、すぐにその驚きは消していた。
そのままユウナに向けても頭を下げるコウにどう声を掛けようかと考えているとそこに王の声が聞こえてきた。
「せっかくだ。少し話をするといい」
「そうね。応接室を使うといいわ。色々な話をして、お互いのことを知った方が何かあった時に動きやすいと思うしね」
続けられた王妃の言葉に戸惑ったが、それでも話をするチャンスができたと思った。
2
「どうぞ、ごゆっくり」
応接室に案内してくれたメイドがお茶の準備をした後、退室していく。
二人だけにされて、どう話を切りだそうかと考えていると、コウの方から話しかけてきた。
「久しぶりだな。元気だったか?」
「う、うん。……お兄……、そっちこそもう火傷は大丈夫なの?」
「……ああ」
レイドから話を聞いていたが、問い掛けるとコウは頷く。
その後、少し沈黙が訪れたが、再びコウの方から話しかけてきた。
「それにしても、驚いたな。……まさかユウナがこの世界の……、それも王族だなんてな」
「……うん。私も驚いたよ。……まだ自分でも信じられない」
「まあ、そうだろうな」
そう言って、コウは苦笑いする。
「色々変わって大変だろ?」
「うん。……まだ慣れないよ。お兄ちゃんとの……、前の暮らしの方がよかった」
そう言ってユウナはハッとする。
「あっ……、ごめん。今、お兄ちゃんって呼んじゃった」
兄妹ではなかったと発覚していたのに普通に呼んでしまったことを謝ると、コウは首を横に振った。
「いや……、お前がそう呼びたかったらそのままでいい。……兄貴にも言ったが 九年も兄妹として一緒にいたんだ。血は繋がっていなくても、お前は俺の妹のままだ。少なくとも、俺は家族だと思ってる」
その言葉を聞いて、ユウナは嬉しかった。
「いいの?今まで通り、お兄ちゃんって呼んでも」
「ああ。……そのかわり、俺も今まで通り呼ばせてもらうけどな」
「うん。もちろん、いいよ!」
ユウナが笑みを浮かべてそう返した時、応接室の扉が荒々しく開かれた。
3
開かれた扉からはヴェルスが入ってきたが、その表情は不機嫌そうに見える。
どうしたのかとユウナが声を掛ける前に彼はユウナとコウへと近付いてきた。
二人のすぐ目の前に来たヴェルスが睨み付けた相手はコウだった。
「……何故、此処にいる?」
「何故?そっちがギルドに依頼を出したんでしょう。その依頼を受けてきただけですよ」
ヴェルスの低い声に、コウは肩を竦めて答える。
「それでもだ!何でお前なんだ!?お前だけは……」
「……駄目ってか?……その理由は?」
「それはっ……」
聞き返したコウにヴェルスが言葉に詰まる。
だが、それと同時にユウナのことをチラリと見たのに気付いたコウは、何かに勘付いたように笑った。
「……なるほどな。……俺がユウナの兄っていうのが気になっている訳ですか」
「っ……!」
その言葉にヴェルスの視線が更に鋭くなった。
「……もう違うだろ。……お前じゃない。ユウナは俺の妹だ。……お前は帰れ」
「そうはいきませんね。俺は依頼があったから此処に来たんですから」
「なら、その依頼は破棄だ!」
「王が正式に出してきた依頼を王子が無断で破棄できるんですか?」
「えっと……」
話をしている二人の間に火花が散っているような気がして、ユウナは二人を交互に見る。
それに気付いてか、ヴェルスは気持ちを落ちつけるように深呼吸すると、もう一度コウを睨みつけてから踵を返して出て行ってしまった。
4
ヴェルスが出て行ってしまってからどのくらいの時間が経ったのか、彼は出て行った時よりも不機嫌そうな表情で戻ってきた。
そして、ユウナと話していたコウに何か紙の束を放り投げる。
「……これは?」
その紙を受け止めたコウがヴェルスを見る。
「……父上も母上も依頼を取り消すつもりはないそうだ。だが、俺は納得がいってないんでな」
「それで、これですか?」
そう言ったコウにヴェルスから何を渡されたのだろうと、ユウナは横から覗き込む。
それは魔物についての資料のようだった。
「……俺を試すつもりですか?」
「実力もない奴に護衛を任せることなんてできないからな」
そう返したヴェルスに、コウは資料に目を通しながら口を開く。
「……わかりました。期限は?」
「三日だ」
返したヴェルスにコウは資料を懐にしまうとユウナを見てくる。
「ってことらしい。準備があるから、今日はもう帰るな」
「う、うん。気をつけてね」
「ああ」
ユウナが声を掛けると、コウはそう言って退室していった。
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