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第2部 二つの家族の章

1
ヴェルスと共に部屋を出て、彼に案内されるまま城の中を歩く。
すれ違うメイドや兵士達に頭を下げられるたびに下げ返していると、前を歩くヴェルスがククッと笑った。
「な、何ですか?」
「いや……、いちいち気にしていたらきりがないぞ」
「そう言われても……」
「まあ、慣れるまでは違和感があるかもな。でも、じきに慣れるさ」
「…………」
その言葉にユウナは思わず無言になる 。
その間に目的の場所に着いたのか、ヴェルスが立ち止まった。
「此処だ。中で父上達が待っている」
言いながらヴェルスが扉を開ける。
促されて中に入ると、そこには四人の人物がいた。
その内の二人は既に知っている第一王子のジェイスと、第ニ王女のセルフィで、二人以外に王と王妃だろう男女が此方を見ている。
扉の近くでユウナが立ち止まっていると、王妃が声を掛けてきた。
「シルファ、そんなところにいないで此方へいらっしゃい」
「えっと……」
「母上、ユウナと呼んであげてください。その方が馴染みがあるのですから 」
思わずヴェルスに視線を向けると、彼はそう言い放った。
「……そうね。この十四年間、その名前だったんですものね」
そう呟いて、再び近くに来るよう言う王妃にユウナは思いきって口を開いた 。
「あ、あの、どうして……私を城に? 」
「……だって、私の本当のお姉様はあなたなんでしょう? ……ううん、私にはわかります。あなたが本当のお姉様 、シルファ・R・ハーツェルトだと」
「……この間、炎の術を打ち消した水の術……、発動者はお前だった。入院中に、血縁関係も調べて確信は得ている」
セルフィに続いて、ジェイスが言う。
彼の言う炎の術というのは、ジンが使ってきたものだろう。
だが、それを消したのが自分とは信じられなかった。
2
王達と話をして一段落した頃、ユウナは此処に来てから気になっていたことを聞こうと口を開いた。
「あの、シルファ……王女はどうしたんですか?」
「シルファか……。それなら心配することはない」
「えっ?」
どういうことかと王を見る。
「力を持たないとはいえ、この十四年娘として、王族として育ててきた。それを今更、偽の姫などと公開は出来ない」
「だから、あなたの方を今まで病弱だったからずっと治療の為入院していて 、存在も隠していたということにするの。シルファとは双子として発表するわ」
王妃の言葉に、ユウナはほっと息をはく。
自分が戻ってきたことで、彼女の居場所がなくなるということにはならなくてよかったと思った。
3
王達との話を終え、部屋へと戻ってくると、そこにはシルファの姿があった 。
ユウナに気付いたのか、彼女は近付いてくるとまじまじと見てきた。
「あなた……、確か前に魔物からヴェルスお兄様に助けてもらっていた人よね。何故此処にいるのかしら?」
「えっと……」
そう問い掛けてくるシルファに、ユウナはどうしようかと迷う。
彼女はまだ他の王族達から何も聞いていないのだろうか。
「答えられないの?なら、兵を呼んで拘束するしかないけど」
「シルファ様」
その時、リーシェの声が聞こえてきた 。
「その方はあなたの双子の妹、ユウナ様です」
礼をして部屋に入ってきたリーシェが続ける。
それに対し、シルファは納得出来ないというように声を上げた。
「はぁっ!?妹!?そんなの知らないわ」
「幼い頃から病弱だったユウナ様はずっと療養の為、城にいなかったのです 。そして、その間命を狙われることがないよう、存在を隠されていました」
「そんな訳ないでしょ!私はこの子がギルドの者と一緒にいるのを見たことあるわ」
王達が決めた設定を知っているのだろう淡々と話すリーシェにシルファは少し声を荒げた。
「ずっと療養していたなら、どうしてギルドにいるのよ!?治ったのなら城へ戻ってきて仕事をするべきでしょう 。なのに、こんないきなり現れて……ちゃんと納得いく説明を……」
「そこまでだ」
リーシェにくってかかっていたシルファがその声に視線を向けると、ヴェルスの姿があった。
「お兄様!?」
「シルファ、此処はユウナの部屋だろう。勝手に入って騒ぐな」
「でも、お兄様!!」
「ユウナがお前の妹なのは本当のことだ。ギルドにいたのは、あいつが王族だということを隠していたから兵をつけられなかったからだ。その為に護衛はギルドに依頼していた」
すらすらと決められた原稿でも読んでいるかのようにヴェルスが言う。
「じゃあ、私が見たのは……」
「護衛のギルドの者だろう。幼い頃から入院していた為、少し世界に疎いところもあったから、ギルドで働かせて経験を積ませていたんだ」
そう答えるヴェルスに、シルファはまだ言い足りないのだろう言葉をのんだようだった。
「……わかりました。お兄様がそう言うのでしたら、信じますわ」
「ああ。……お前達は双子の姉妹だ。仲良くしろよ」
「……失礼します」
シルファが部屋を出ていく。
それを見送ったヴェルスがリーシェを見る。
「リーシェ、お前も」
「わかっています。私も失礼しますね 。ユウナ様、何かありましたらお呼びください」
「う、うん」
ユウナが頷くと、リーシェは退室していきユウナとヴェルスが残された。
「さてと……」
二人だけになると、ヴェルスはユウナに向き直ってきた。
「な、何ですか?」
そう問い掛けると、彼は少し寂しそうに笑う。
「そう警戒するな。俺はお前の兄なんだから」
その言葉にユウナは視線を逸らす。
まだユウナにとっての兄はコウとジンで、ヴェルスとジェイスはこの世界の王子だという感覚なのだ。
血の繋がりはなくても十四年間、兄だと思っていた二人。
血の繋がりはあってもまだ出会ったばかりの二人。
複雑な心境だった。
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