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第2部 二つの家族の章

1
馬車が僅かな揺れの後、停止する。
外から御者が扉を開けてくれ、先に降りたレイドに手を貸してもらいユウナも馬車から降りる。
城門へと向きなおるとそこには数人の兵士の姿があり、その中から一人の少年が進み出てきた。
その少年がヴェルスだというのは会ったことがある為わかっている。
彼が近づいてくるのを見て、レイドがユウナから一歩下がり膝をついて頭を下げた。
「ご苦労だったな。あとは俺が引き受ける。本来の仕事に戻れ」
「はっ!」
短く返したレイドが去っていくのを見ていると、ヴェルスが声を掛けてきた 。
「直接会うのは二度目だな」
「は、はい」
思わず裏返った声で返すと、彼は小さく笑った。
「そう緊張しなくていい。……俺達はこの日を楽しみにしていた。戸惑うのはわかるが、どうか恐がらないでほしい」
そう言うと、ヴェルスは踵を返す。
「馬車で少し疲れただろう。まずは部屋に案内する」
ついてくるように言われ、ユウナは兵士達の視線に少しびくつきながらも歩き始めた。
2
「今日から此処がお前の部屋だ」
ヴェルスが言って、目の前の扉を開けた。
中に入ると、今までの部屋の倍は広さがある。
「此処で少し休んでいろ。もう少ししたら、世話係がくる」
扉のところに立っているヴェルスの声が聞こえ、その後彼が立ち去っていくのを感じる。
大きく寝心地のよさそうなベッドを通り過ぎて窓へと近づくと、街並がよく見えた。

トントンッ

どのくらい外を見ていたのか、扉を叩く音で我に返る。
「どうぞ」
「失礼いたします」
少女の声がして、扉が開かれる。
視線を向けると、メイド姿の少女が笑みを浮かべて立っていた。
「本日からあなた様付きのメイドになります、リーシェ・ノーヴェルです。リーシェとお呼びください」
「私は……」
自分からも名乗ろうとして、ユウナは言葉を止めた。
(ユウナもクヴェイルも私の名前じゃなかったんだ。どうしよう?)
「ユウナ様?」
「っ!?」
その時、リーシェが呼んできた名に少し驚いたように見ると、彼女は優しく笑い掛けてきていた。
「……大丈夫ですよ」
「えっ?」
「王も王妃も王子も王女もあなたのことはユウナ様として迎えいれるつもりでいらっしゃいます。勿論、今までどおりとはいかない部分もありますが」
そこまで言って、リーシェは時計を見て慌て始めた。
「と、いけない!そろそろ準備をしないと、ヴェルス様が来てしまいますね 」
リーシェがクローゼットから数枚のドレスを出してくる。
「この中からお好きなものをお選びください。決まったらそれに着替えていただきますね」
そう言われて、ユウナはリーシェが持ってきたドレスを順に見た。
3
リーシェが持ってきたドレスの中から 、ユウナは淡い水色のドレスを選んだ 。
着替えたところで、再び扉が叩かれ、ヴェルスが顔を覗かせる。
「準備は出来たか?」
「はい、出来ています」
リーシェが答え、それを聞いたヴェルスが視線を移してくる。
「うん。なかなか似合ってる」
「ところで今までユウナ様が着ていたものはどうしましょうか」
「そうだな。もう必要はな……」
「待って!」
リーシェの問いに答えようとしていたヴェルスの言葉を咄嗟に遮ると、ユウナはリーシェの手から今まで着ていた服を取り戻した。
「ユウナ様?」
「……お願い。これだけでいいから持っていてもいいでしょう?……着れなくてもいいから、持ってるだけでいいから」
言いながらその服を二人から隠すように抱きしめる。
この服はリアフィースに来て、最初にコウが買ってくれたものだった。
家に帰る間もなく城へ来てしまった為 、今はこれ一枚しかない。
コウと家族ではなかったということを知ったばかりではあるが、だからこそこれは持っておきたい。
そう思っていると、ヴェルスが溜息をついた。
「……わかった」
「えっ?」
「ヴェルス様!?」
「……但し、許すのは持っていることだけだ。着ることや俺とリーシェ以外の者にばれることは許さない」
ヴェルスに言われて、ユウナは持っている服を見下ろす。
彼が許してくれたのはあくまでも所持だけだろう。
少し寂しい気はするが、それだけでもいいと思うことにした。
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