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第1章 時空を操る少女

1
次の日、いつもより早くに目を覚ました聖月は言われた通り、茉莉の家を訪れていた。
「おはようございます」
「ああ、来たね」
挨拶した聖月に対し、茉莉はそう返してくると近くに置いてあった箱へと視線を向けた。
「それ、開けてみな」
「?」
言われて、聖月は箱を覗きこむ。
中に入っていたのは、全て印刷されている紙の束だった。
「これは?」
「宣伝用のチラシだよ。最近、新規の客がいないみたいだし、団体の客もいないみたいだったからねぇ。少し前に用意しておいたのさ」
聞きながら、一枚を取り出して何が書かれているのかをよく見てみる。
そこには聖月が使える能力である時間または空間越えのこと、その期間、人数ごとの料金の例、そして聖月が客を迎える場として使っている小屋の場所と連絡先が書かれていた。
「今日の仕事はそれを配ることだよ」
「これを?全部ですか?」
「そうさ。今日中にそれを全て配ること」
言われて、改めて箱を見る。
一人で配るとなるとどのくらい時間が掛かるだろうかと考えていると、それに茉莉は気付いたようだった。
「なんなら、今日は配ることをメインの仕事にしてもいい。お得意様なら私のことも知ってるから、依頼があれば私に連絡してくるだろうからね。依頼が入ったら、私から知らせるよ」
その言葉からチラシ配りを手伝ってくれる気はないのだろう。
思わず溜息をつきそうになったのを堪え、聖月は重く感じる箱を持ち上げた 。
2
箱ごと運んできたチラシを置き、聖月は周囲を見回す。
チラシを配る場所の指定は特に受けなかった為、日中に人通りが多くなる広場を選んだのだが、まだ朝早い時間だったからか人の姿は少ない。
それを確認しつつ、家から持ってきていた包みを広げる。
とにかく早めに行こうと思っていた為 、朝食もまだだったのだ。
今のうちにとパンと水筒にいれてきていた珈琲で朝食を済ませ、少しでも配りやすいようにと準備をしていると、少しずつ人通りが多くなってくる。
「よし!」
それを見て、聖月は気合をいれるとチラシを配り始めることにした。
3
「どうぞ」
何を配っているのかと近付いてくる人々にチラシを一枚ずつ配っていく。
受け取りはするがすぐに立ち去る人、立ち止まってチラシに目を通している人、中にはチラシに目を通した後、聖月に質問してくる人など様々な人がいる。
今も数人の女の人が聖月に近付いてきて、話しかけてきていた。
「ここに時間越えって書いてあるけど どういうことかしら?」
「過去の時間に戻ったり、未来を見に行くことが出来ます。でも、過去に行ってしまうと問題もあるので、余程の理由がない限りは未来軸への依頼だけお受けしています」
「空間越えというのは?」
「この世界とは違う世界に繋げることで、別世界へ行くことが出来ます」
「別の世界?それって、どんなところでも?」
「何人でも、どのくらいの期間でも? 」
「戻ってくる時にはどうすればいいのかしら?」
次々と問い掛けてくる女性達に、聖月は一度頭の中を整理して口を開いた。
「今まで繋いだことのある世界は記録をとっています。他の世界でも具体的なイメージがあれば可能です。人数は何人でも、期間は数時間から数週間、どのくらいでも大丈夫です。空間を越える時には私もついていって、期間がきたら最初繋いだ場所へ迎えにいきます。なので、約束した時間までにその場所へ戻ってきていただければ、それで帰ってこられます」
今までも何度かそういう質問を受けたことがあっあ為、すらすらと答えていく。
「もし依頼をする時には事前に連絡をした方がいいのかしら?それとも、いきなりお店の方へ行っても?」
「そうですね。空間越えの場合は出発希望の日の前に、最低でも一回はお店に来てもらうようお願いしています。その時に行き先を決めたり、こちらからの注意事項を伝えます」
最後の質問といった様子の女性達にそう答えると、女性達は礼を言って、立ち去っていった。
4
「一万五千ガルドか。……まぁ、今日は仕方ないね」
夕方、いつも通りに茉莉の家を訪れると、彼女は今日の売り上げを確認して呟いた。
「それでチラシの方は全部配ったのかい?」
「はい」
その問い掛けに聖月は頷いた。
何度か入った茉莉からの連絡を受け、店の方へ行き、能力を使った仕事もしたが、いつも店を閉める時間と同じくらいの時間にはチラシも配り終わっていた。
「新規の客は来そうかい?」
「……何人かの人には色々聞かれたりはしましたけど」
チラシを配りながら見ていた様子だと興味がありそうな人々はいた。
それでも客として来るかはわからない 。
どう返そうかと考えていると、茉莉自身も今の質問の答えはそれ程求めていなかったのか、自分の取り分を取った残りのガルドを渡してくる。
「今日の分だよ」
受け取った聖月に、帰れというように手を振ってくる。
聖月は頭を下げると、自分の家に帰ることにした。
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