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第1部 再会と出会いの章

1
「えっ!?じゃあ、あの薬草の依頼って……」
次の日、ギルドに顔を出した時、リリアが言ったことにユウナは思わず声を上げた。
「ええ。薬草を届けに行った場所に依頼人どころか、人はいなかったわ。恐らく、私達をあそこに行かせる為の偽の依頼だったのよ」
「……つまり、あの女はあの仮面の男達の仲間だったってことか」
「そんな……」
リリアとコウの言葉に、ユウナはそう呟いて肩を落とした。
「何でそこまでして……」
「……とにかく、彼等に関しては情報が少ないわ。ただ、今回みたいなことがないよう、依頼の受注を少し考えるべきね」
リリアがそう言った時、ギルドの入り口の扉が開く。
「あれ? 」
聞こえてきた声に視線を向けると、レイドとフィアの姿があった。
「お前達、ギルドの人間だったのか」
「ええ。それで何か用かしら? 」
近付いてきた彼等に、リリアが声をかける。
「私達ね、暫くこの街にいることにしたの。だから、何か仕事ないかなって 。今までは個人的に依頼を受けたりしていたけど、ギルドがあるなら仕事を紹介してもらえないかなって」
「あるにはあるけど……。どんな仕事がいいの? 」
「何だっていいさ。一通りのことは今までやってきてるからな」
「そう」
返事を聞いて、リリアが依頼書の中から一枚取り出した。
「なら、実力を見る為に討伐ね。……コウ、ついて行って」
「わかった」
リリアに言われたコウが座っていた椅子から立ち上がる。
「討伐数は十匹。コウはあくまでもついていくだけだから、二人で行なって 。戻ってきてから正式に契約を結ぶわ 」
リリアの言葉に、レイドとフィアは頷く。
そして、コウと共にギルドを出て行った。
「……まだあの二人に気を許しちゃ駄目よ」
「えっ? 」
いきなりそう言ってきたリリアに、ユウナはどうしてかと視線を向ける。
「偽の依頼人を使って、誘き寄せてくるくらいだもの。内部にも手の者をいれてくる可能性だってあるわ。それに ……」
「? 」
そこまで言って、じっと見てくるリリアに首を傾げる。
「リリアさん? 」
「……コウといたいなら、隙をつくっちゃ駄目よ。あの二人も含め、これからあなたに近付こうとしてくる人には警戒しておきなさい。いい? 」
「は、はい」
リリアが何故そんなことを言ってくるのかはわからなかったが、何となく逆らえない雰囲気に頷くしかなかった。
2
ギルド内で自分が出来る限りの手伝いをしていたユウナは、コウ達が帰ってきたのを見て手を止めた。
「あ、おかえり」
「どうだった? 」
今日は内勤だと事務仕事をしていたリリアも気付いて声を掛ける。
「ああ。……合格点だな」
「そう……」
肩を竦めて言ったコウに、リリアが短く返す。
「それじゃあ……」
「ええ、約束通り契約するわ」
「やったね、レイド」
「ああ」
リリアの言葉にフィアが声を上げる。
それを見ながら、リリアは二枚の紙を取り出すと、フィアとレイドへ手を手渡した。
「これが契約書類。それをよく読んで最後にサインして」
そう言ったリリアに、フィアとレイドは頷く。
その様子をユウナが見ていると、コウが声を掛けてきた。
「帰るぞ」
「えっ?今日はもういいの? 」
いつもなら昼近くに終わった場合、もう一つ位は依頼をこなしに行く為、今日もそうだとばかり思っていたので少し意外に思う。
「ああ。……昨日が少し大変だったからな。今日は少しゆっくりしようと思って、半日休みをもらったんだよ」
「ついでに明日もね。何日か振りに兄妹で過ごせば? 」
コウに付け加えるようにリリアが言う 。
「えっ?でも」
「人員も増えたし、私もこの二人の手続きをしたは休みになるから」
大変だったのはリリアも同じだと声を上げると、全部言い切らない内にそう返された。
「そういうことだ。リリア、一足先にあがるぞ」
「ええ、お疲れ様」
コウが言って、踵を返す。
その後を追おうとして、まだ挨拶していなかったとリリア達の方を見る。
「じゃあ、私も帰りますね。リリアさん、フィアさん、レイドさん、お先に失礼します」
「ああ」
「ばいばい」
レイドが短く返してきて、その隣にいるフィアが手を振ってくる。
それに手を振り返してから、ユウナは先にギルドを出たコウの後を追いかけた。
3
ギルドから家まで帰る道の途中、何故だかいつもより人通りの多い道、そしてどこか浮き足立った空気を感じとり 、ユウナは口を開いた。
「何だか今日は人が多いね。それに、みんな楽しそうだし、何かの準備をしている人もいるみたい」
「ああ。もうこの時期だったか」
ユウナの言葉を聞いて、何か思い出したようにコウが言う。
「何かあるの?」
「ああ。年に一回の祭りだよ。いつも盛大にやってるんだ」
(お祭り……か)
それを聞いてユウナは心の中で呟いた 。
「お兄ちゃんは来たことあるの? 」
「ああ。この二年は来なかったけど 、……ヴァイツがいた頃には来てたな。あいつ、祭りとか好きだったから」
思い出しているのか、懐かしそうな表情でコウが言う。
「そうなんだ。私も明日がお祭りなら来てみたいな」
「向こうの世界の祭りと変わらないぞ 」
「……うん、でも五年振りに、ね? 」
「……まぁ、急に休みになったから、特に予定はないしな」
ユウナの言った五年振りという言葉をコウは自分と行くのがという意味でとったように見えた。
「俺も五年振りに行くか……」
「うん、一緒に行こう」
コウが思っただろうことを訂正するつもりはない。
自分が過ごしてきた五年間を知る必要はないのだ。
(だって、お兄ちゃん達が私を置いていったのは事件で、お兄ちゃん達は悪くない。だから)
叔父達に怒りの矛先を向けられていたユウナの五年前は知らなくていいのだ 。
コウやまだ再会出来ていない両親、もう一人の兄、妹、従兄弟……、彼等に比べたら自分の五年間等ましな方だろうと内心で呟いた。
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