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第26章

1
「……入るね」
謁見の間を退出し、舞が部屋に戻ってきてから数十分。
遠慮がちに入ってきたのは麗玲だった 。
「どうしたの? 」
何か用があったのだろうが、なかなか口を開こうとしない彼女を見つめ、話し始めるのを待つ。
「……天華……、ううん、舞……」
少しして麗玲は口を開いたが、その声は泣くのを堪えているように聞こえる 。
声だけでなく、その表情も今にも泣き出しそうに見えた。
「……お願いがあるの」
「……うん」
今まで敵対していた時とは違う様子に戸惑いはあったが、それを隠し、先を促すように優しく頷く。
「……私が言えることではないっていうのはわかってる。でも、あの四人を助けたいの! 」
「……あの四人?それって……! 」
呟く舞の脳裏に十人衆として残っている四人の姿が浮かぶ。
「……元総長達のことだよね」
聞き返すと、麗玲は頷いた。
「…………」
元総長である閻夜達のことだと知り、舞は少し考える。
彼等に対して、思う所がない訳ではない。
「……やっぱり、駄目よね」
返事をしない舞に麗玲はくしゃりと顔を歪める。
「……一つだけ聞いていい? 」
麗玲は頷く。
「どうして、その四人を助けたいの? 」
それだけ言って、麗玲を見据える。
彼女がどう返してくるのか気になって待っていると、麗玲は思っていたよりも強い視線を返してきた。
「……私にはもうあの四人しかいないから。あの四人は私といると言ってくれた。でも、……私を逃がす為、守る為、神界に残った。……私だって、失いたくないのに」
そこまで言って、とうとう麗玲の目から涙が溢れ出る。
「だから、お願い!力を貸して!今までのことを謝れと言うなら、幾らでも謝る。行動で示せと言うなら、何だってする!……私、一人になりたくないの! 」
叫ぶように言って、膝から崩れた麗玲に舞はそっと近付く。
「……うん。わかった」
「……!!じゃあ……! 」
「でも、少し時間を頂戴」
少し明るい表情を浮かべた麗玲にそう返す。
彼女の気持ちはわかったが、今の状況では先の事を決めるのは舞一人では無理だった。
2
「……はぁ」
舞は溜息をつく。
麗玲の話を聞いて、何気無く神界へ行くことを仄めかしてみたが、やはりあまりいい顔はされない。
(先輩や風夜辺りなら、協力してくれるかもしれないけど……)
周りの者が止めてくるかもしれない。
神族達の心境的に複雑な部分はあるだろう。
思いもしなかった事態に混乱し、警戒している様子の魔族。
それでも思い出すのは、泣いて頼んできた麗玲の姿だった。
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