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第25章

1
朝、緋皇から急に呼び出された舞が謁見の間に入ると、同じように呼び出されたのだろう花音達の姿が既にあった 。
呼び出した緋皇は玉座に座っていて、その前にいる一人の人物を見て、舞は思わず目を見開いた。
「天奏……? 」
その人物の名前を呟くと、彼女は振り返ってくる。
「何で此処に? 」
玲莉の話では彼女は麗玲を裏切ったとして、投獄されていた筈だった。
それなのに、何故目の前にいるのだろう。
そんなことを思いながら、花音達の近くに行く。
口を開いたのは緋皇だった。
「天奏だったな。……数百年前、神族を裏切り、今は魔神族を裏切ったとされ、投獄されていると聞いていたが」
そこまで言って、緋皇は僅かに浮かべていた視線を消し、鋭い視線を向ける 。
「何故、此処にいる?俺達の前に現れた目的は何だ? 」
問い掛ける緋皇を天奏は怯む様子も見せずに見返し、口を開いた。
「……思わぬ助けがあってね。此処に来たのはあなた達にある事実を知らせる為よ」
「真実? 」
「ええ」
頷いた天奏がちらりと視線を走らせてくる。
その際に、舞を含めた数人を見ていった気がした。
2
「……俺達の知らない真実……か。それは是非聞いておきたいところだが」
言いながら、緋皇が玉座から立ち上がる。
「……招かれざる客のようだ」
謁見の間の扉へ向けて、緋皇が手を向けると同時に、何かを弾き飛ばすような音がして、散る気配を四つ感じる。
「えっ?えっ? 」
状況をよく把握出来ない内に、散っていった四人の気配を追うように、闘神や飛影達は出ていってしまう。
「……風夜、莉鳳」
「……はい。おい、こっちだ」
緋皇に名を呼ばれた二人が、今は能力を失っている夜天達を何処かへ連れて行き、謁見の間には舞、花音、綾、聖奈、聖羅、天奏と緋皇が残された。
「流石にお前は吹き飛ばなかったか」
緋皇が声と視線を向けた先から、一人の人物が謁見の間へと入ってくる。
それは不機嫌な表情をしている麗玲だった。
「麗玲……」
一瞬舞を見た麗玲だったが、すぐに天奏へ視線を向けてしまった。
「裏切っただけでなく、どうやって逃げたかはわからないけれど、逃亡するとはどういうつもりかしら? 」
「……私だって逃げるつもりはなかったわ。でも、急ぎ知らせなければならないことが出来たのよ。それは麗玲、あなたにも……」
そこまで言った時、麗玲が槍を構えた 。
「裏切り者の言葉なんて聞かないわ! 」
そう叫び床を蹴った麗玲が天奏に接近する。
舞は剣を抜くと、その二人の間に割って入る。
「邪魔しないで! 」
「そうはいかないよ! 」
強まる力に対抗して、舞も力を込める 。
「舞、どいて! 」
聞こえてきた声に舞が飛び退くと、麗玲の顔を何かが掠っていく。
それが聖奈の投げた戦輪だとわかったのは戻ってきたものを彼女が再び手にとってからだった。
「……いっけぇ!! 」
綾が翳した杖から光弾が連射され、それに合わせて花音が放った矢が麗玲に向かっていく。
「邪魔よ! 」
麗玲がそれらを薙ぎ払う。それでも舞と聖羅が仕掛けるには十分だった。
それも槍に止められてしまったが、不意に麗玲の身体は吹っ飛ばされる。
何が起きたのかと思って振り返ると、緋皇が手を翳しているのが見えた。
その直後、麗玲がキッと彼を睨み付ける。
「……天華達からと思っていたけど、あなたから始末されたいの? 」
それに対して、緋皇は笑みを浮かべた 。
「お前が俺を殺す?……確かに俺は一年前に魔王になったばかりの若輩者だが、そう簡単にやられるほど、弱くはないぞ」
「……煩い! 」
緋皇に向かって、麗玲が床を蹴る。
「天華達も邪魔だけど、私が頂点に立つにはあなたも邪魔なのよ!! 」
そう言いつつ、槍で斬りかかるのを見て、舞は緋皇を背に庇うがその前に天奏が立つ。
彼女は麗玲に向けて力を放ち、麗玲を壁へと叩きつけていた。
3
「うっ……! 」
よろよろと身を起こす麗玲を見てから 、舞は彼女を攻撃した天奏を見る。
舞達の元へ知らせることがあると現れたとはいえ、天奏は今まで麗玲にずっと従っていた筈だ。
その彼女を今、容赦なく攻撃したことに少し戸惑ったが、天奏は何処か悲痛な表情をしていた。
「麗玲、あなたにも……」
「……煩いと言ってるでしょ! 」
立ち上がった麗玲はそう叫ぶと、舞を真っ直ぐに睨み付けてきた。
「なんでいつもあなたの周りにばかり ……、どうして私ばかり失わないといけないの!!どうして……、どうしてよ!! 」
睨み付けてきてはいるが、泣き出しそうにも見えてくる。
「……麗玲」
「……引き上げるわ。次こそ、あなた達、……天奏も魔王も消し去ってやるから」
そう言って、麗玲は姿を消す。
「……もう来なくていいんだがな」
緋皇がポツリと呟いたことに思わず舞は苦笑いする。
「……とにかく、奴等は全員引き上げたみたいだな。追いかけていった奴等もじきに戻ってくるだろ」
緋皇が言いながら、天奏の方を見る。
それが麗玲達が来る前、天奏が話そうとしていたことを話すよう促しているように見えた。
4
緋皇の言う通り、十人衆を追っていった闘神達が戻ってくる。
それだけでなく、風夜と火焔の姿も彼等の中にあり、舞は目を丸くした。
思い出してみると、風夜は麗玲が現れる直前、力を奪われたままの夜天達を連れて何処かへ姿を隠していた筈だった。
風夜はその後、飛影達に合流したのかもしれないが、火焔は何故なのか。
よく見れば彼は酷く疲れているようで 、少しだが怪我も負っている。
火焔と目が合うと、彼は舞が不思議に思っていることがわかったのか、横にいる風夜を指した。
「俺はこいつに無理矢理連れて行かれたんだよ」
それに対して、風夜も口を開く。
「こいつはもう力が戻ってるからな。戦力はあればあるだけいいだろ? 」
「……なら、水蓮、雷牙、凍矢を置いていった理由を聞かせてもらおうか? 」
「……まぁ、一人で四人は抱えていけないからな」
火焔が恨めしげに向ける視線から風夜は顔を背ける。
「その時、お前の近くにいたのは雷牙で、俺は一番離れていた筈だけどな」
「んー、まぁ、一番掴みやすかったのがお前だったんじゃないか」
「どう考えても雷牙だろうが!! 」
「……ふふ」
二人のやり取りに舞が我慢出来たのはそこまでだった。
「あはははは」
突然笑い出した舞に視線が集まる。
それでも二人のやり取りにそれまでの緊迫していたものが壊れた気がして、笑いが止まらなかった。
飛影達が呆気にとられているような表情をしているのもわかったが、笑い続けていると緋皇が溜め息をついたのが見えた。
「……仕方ない。怪我してる奴もいるし、休息も必要だろ。話を聞くのは後日にしよう」
その言葉に反対の声はなかった。
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