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其々の路

1
花音が風夜達と会っている頃、継承式は無事に終わったところだった。
「あれ?姉上は?」
式が終わり、一般の人々と共に継承式を見ていた紅牙達の所へ戻ってきた光輝が声を上げる。
「……始まる前にはいたんだけどな」
「人が凄いからな。逸れてこっちに来てるのかと思ったけど」
「お姉ちゃんなら、始まる前にどっか行っちゃったよ」
「「「はっ?」」」
蒼牙の言葉に光輝、朔耶、黄牙が勢いよく彼を見た。
「行っちゃったって何処に?」
「わからないけど」
「それなら、俺も見た! 確か白亜が何処かに飛んでいって、それを追い掛けていったぞ」
「止めろよ……」
「すぐに戻ってくると思ったんだよ。なぁ、蒼牙」
「うん」
紅牙が言い、それに頷いた蒼牙を見て、光輝は小さく「まいったな」と呟いた。
「何かあったのか?」
「ああ。城に連れてくるよう言われたんだよ。だが、姉上がいないとなると、数人うるさそうだな」
溜め息混じりに言った光輝に、朔耶は苦笑する。
「……まぁ、いい。お前達だけでも来てくれ」
「わかった。花音も終わったと知れば、城に来るだろうしな」
そう言った黄牙に、光輝は諦めたように踵を返した。

「お、戻ってきたか。って、花音は?」
光輝が蒼牙達を連れて戻ってくると、出迎えた夜天が言った。
「ああ。突然何処かに行ってしまってから、戻ってきてないらしい」
「そうか、なら仕方ない。これからの話は、お前から伝えておいてくれ」
「ああ」
神蘭の言葉に光輝が頷いた時、暇そうに窓の外を見ていた風華が声を上げた。
「わああああ!」
「どうした?風華」
「見て、空兄様!」
そう言った風華が外のある方向を指す。
そこには火と水を巻き上げたような渦が二本見えた。
「あれって……」
「というか、あんな事をする奴って……」
「風兄様だ!」
火焔が言ったことに反応して、風華が嬉しそうに声をあげ、そのまま飛び出していく。
「おい、風華!」
「ああ、もう。ほら、追いかけるわよ」
「水蓮まで……」
風華を追い掛けていく水蓮に、大樹が溜め息をついた。
「……どうやら、話は後みたいだな」
「ほら、私達は待ってるから、行ってきたらどうだ?」
封魔と神蘭の言葉に、光輝達も風華と水蓮を追いかけることにした。

光輝達が風華達に追いついたのは、丁度渦が見えていたあたりだったが、既に渦は消え、先に着いていた二人が辺りを見回していた。
「……いない。さっきまでいたはずなのに」
呟いた風華が肩を落とす。
「ピイイイ!」
そこへ何処からか飛んできた白亜が風華を励ますかのように彼女の周りを飛び回った。
「白亜?ってことは、姉上も」
「うん。此処にいたよ、ずっとね」
言いながら、ゆっくりと花音は歩き、光輝達に近付いた。
「ずっとって、一人でじゃないよな?」
夜天の問いに、花音は頷く。
「うん。少し前までは、風夜がいたんだよ」
「風兄様が?」
「で、俺たちには挨拶もなしに帰ったのか?」
「引き止めたんだけどね。来たことが分かればいいだろって」
「それでさっきのあれか?」
「あはははは」
目を据わらせた雷牙に、花音は苦笑いした。
「……何とか説得しての妥協案があれだったんだよね」
「まぁ、帰ってしまったものは仕方ないさ。俺達も戻らないと」
「……そうね。残念だけど、諦めるしかないわ」
大樹に頷いた水蓮が、風華を促し踵を返す。
ついで踵を返す光輝達に気付かれないよう、花音は彼等からは死角になっていた場所を見る。
其処からは丁度翼を生やした風夜と風牙が飛び去るところだった。
「姉上?」
「どうした?何かあったのか?」
「ううん。何でもないよ」
ついてきてないことに気付いたらしい光輝と夜天にそう返し、花音はもう一度だけ二人が去っていった方向を見る。
(……またね)
そして、もう姿は見えない二人に心の中で呟くと、花音は先を行く光輝達に追いつく為走り出した。
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