第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『はぁ……なんか疲れたなぁ』
今日の分の仕事を終え立ち寄ったカフェ
温かいココアの入ったマグカップを手に持ち舌を火傷しないように息を吹きかけ少し冷まし、ゆっくりと喉へと流し込むと身体に染み込むように温かさがじんわりと広がった
『……ふぅ……美味しい』
最近の彼女の生活は忙しすぎていた
MZ団の仕事だけでなくマチエールからの探偵としての仕事の依頼
夜もランクアップ戦に備えポケモン達とZAロワイヤルで鍛える日々
そしてAZからメガリングを受け取り暴走メガシンカをしたポケモンを救う仕事も増えた
そのせいで趣味であるカフェ巡りがゆっくり出来ず疲れが溜まる一方だが
『(なんか久しぶりに外でお茶したかも…そういえばこの前行ったヌーボォカフェのコーヒー美味しかったなぁ、色々種類もあるようだしクロワッサンも美味しそうだったな)』
店内に聞こえるコーヒー豆をミルで挽く音や皿がカチャカチャと鳴る音、他の客の笑い声と静かに流れるBGM…
テーブルに置いた両手でマグカップの温もりを堪能しながら目を閉じ、耳を澄ませながらぼんやりと雰囲気を楽しんでいると
コンッ、コンッ…
控えめに彼女のテーブルを誰かが叩いた
『んぁっ、はいっ!……あれ?』
何か注意されるのかと思い肩をビクつかせ目を開けると目の前には店員ではなく
「……外から見えたもので、お邪魔でしたか?」
Fだった
突然の彼との再会にナマエは嬉しさと困惑が混ざり慌ただしく頭を横に振った
『お邪魔だなんて!あ、良かったら一緒にお茶でもっ!』
つい自分から彼をお茶に誘ってしまった
彼には彼の用事があったかもしれないのにと後になって後悔するが、Fは静かに微笑みナマエの向かい側の席に腰掛けた
「それではお言葉に甘えて」
『っ、はい!』
注文をし彼の頼んだコーヒーがテーブルに運ばれるとFは静かに香りを楽しんでからカップに口を寄せた
一口飲み味を確認すると、ずっとコチラを見ていた彼女へと視線を向け直す
「先程は随分と考え事をしていたようですが…何か悩み事でも?」
『え?あ〜悩み事ってわけじゃ、ただぼんやりしてただけですよ』
ヘラヘラと笑うも彼女の顔色はいつもと違う
目の下に疲れが見え始めているのをFは見逃さずカップをテーブルへと置きながら問いかけた
「疲れているようだ……顔色が悪い」
『そ…そんな事ないです』
ココアのマグカップを傾け視線を泳がせる彼女をじっと見つめるライトグレーの瞳
その強い視線から逃げようとナマエは必死に思考を巡らせ頭に浮かんだ物を口にする
『そうだ!Fさんは普段は何をしてるんですか?』
「私ですか?」
『はい!』
彼女にとってFはいつも突然現れ消えてしまう謎の人物だ、彼が普段何をしているのか分かれば今より会えるかもしれない
期待に目を輝かせ彼を見つめるとFは自分の口元を軽く指の背で撫で困ったように…それでいて何処か嬉しそうに眉を下げた
「……君は、私に興味があるのか?」
『え?』
急な問いかけにナマエはギクリと体を揺らし頬を次第に熱くさせていった
『(今の聞き方って、そっか、そういう風にも聞こえるよね!興味?すっごくありますなんて言ったら引かれる?でもっ聞きたい!)』
顔を赤めたまま固まっているとFは黙るナマエに小さく微笑みテーブルの上で自分のカップを傾けて遊んだ
「いや、そうですね……普段はある物を探して街を歩き回ってますよ」
『ある物?』
「いつか最強のメガシンカ使いになる者の為に力になれるように…必要なピースを私は探し続ける、それが与えられた使命ですから」
Fの言葉はいつも謎に隠れている
何処か悲しみを含ませた儚げな雰囲気も時折見せる慈愛に満ちた微笑みもナマエには特別な物に見え、彼に惹かれる想いが日に日に募っていく
だがそれは彼女だけではない
どうしたらもっと親しくなれるだろう
どうしたらもっと頼ってもらえるだろう
どうしたら
異性として見てくれるだろう
「(……ナマエさんは少しは男として私を見てくれているんだろうか?)」
『(Fさんはどんな女の人が好きなんだろ?あたしじゃそんな対象にも入ってないのかな…)』
二人は口には出さないものの
同じ事を頭に浮かばせカップを傾けていた
『(なんだろ…頭が熱い…緊張してるからかな?)』
惜しみつつもカップの中身がなくなる頃だ
熱かった頬の熱は消えるどころが燃え上がり頭がふらつく程広がってくる
ふらつく意識の中、カップをテーブルに置き深呼吸をしようとするも空気を大きく吸う元気もでない
「ナマエさん?大丈夫ですか?」
彼女の異常にいち早く気がついたFが問いかけるとナマエはへらりと笑い
『大丈夫っ……だいじょ…』
電池が切れたように体から力が抜け落ちるのを感じた、自分自身の体に驚きつつも次の瞬間
ガタンっ!
「ナマエさんっ!」
テーブルに倒れ込んでしまった
早く体を戻し何でもないと彼に言いたいのに、冷たいテーブルが熱い頬には気持ちよくて頭が上がらない
すぐさま側に駆け寄ったFにより肩を抱かれると、焦ったように顔を険しくさせる彼の顔が見えたが
『Fさ…ん……』
それ以上何も言えず酷い眠気により意識を手放した
『(あれ……ここは?)』
目が覚めれば自分の使っていたホテルではなく見知らぬ場所だった
シンプルな装飾品、落ち着いた色の壁紙
そして最近知った誰かの香りがする寝具
『……この匂い……好き』
ポツリと思った事を口にすると
「目が覚めましたか?」
視界に入ってくるFの顔
ベッドで眠るコチラを見下ろすライトグレーを眺めぼんやりとした目を向けているとだんだんと靄がかかった頭がハッキリとしていき
『Fさん……Fさん?え?なっなんでっ』
慌てて上半身を起こそうとすると、彼女の体をFの大きな手が支えてくれた
「ああ…急に動いてはいけない」
『なんで…あたし、カフェにいて…あれ?』
「覚えてないのですか?カフェで倒れた事を」
Fは思い出そうと考え込む彼女の側に腰掛けベッドサイドに置かれた棚から薬を取り出した
カシュッ…と、プラスチックの乾いた音をさせ錠剤を数個取り出し振り向くと
「君が眠っている間に医者に診せましたが…過労だそうです」
『過労…?そんなに動いてたつもりなかったのに』
「人間とは夢中になりすぎると己の限界を過信するものです」
医者が用意した薬なのだろう
錠剤と水の入ったコップを彼女に手渡す
『ぅっ、すみません』
貰った薬を素直に飲み込み水を飲み終えるとFは当たり前のように受け取りそれらを棚の上に戻す
「薬が効くまで、もう少し休んで行きなさい」
もう一度彼女をベッドへと寝かせようとするとナマエは困惑したような顔を浮かべFを見つめた
『え、でもっ』
「ん?……ああ、心配しなくても…弱った女性を襲うような事を私はしませんよ」
『そっそんな心配してません!!』
突然何を言うのか
熱とは別に顔を真っ赤にさせた彼女にFはクスクスと笑い今度こそナマエをベッドへと寝かせる
毛布を首元までかけてやり、使ったコップを持ち寝室を出ていくとナマエは溜めていた緊張を吐き出すようにため息を吐き辺りを見回した
ホテルZよりも広い室内
寝室の他にもいくつか部屋があるのだろうか
少し遠くから食器を洗う音を聞きつつ壁に貼られた地図に目が止まる
『(ここ…Fさんの部屋?…大きな地図…あれは…ミアレかな?バツ印ばっかりで…なんの…地図だろ…)』
少しでも彼を知りたい
彼を知るヒントを集めたいと思い色々見たいところだが…毛布から仄かに香る彼の香水の香りと温かい温もりが眠気を誘い数回瞼を上げ下げしていると体から力が抜けていき…
次第に規則正しい寝息が彼女の元から聞こえだした
「……眠ったか」
寝室に戻ってきたFはすぅすぅと小さな寝息を繰り返す彼女を見下ろし目を細めると彼女を起こさないよう静かにベッドの上に腰を下ろした
いつも自分が使っているベッドにナマエがいる
意識してしまうとFの胸が早鐘を打ち出し、それでいて擽ったい気持ちになった
「君を見ていると…私は少年に戻ったように感情的になるようだ」
会えて嬉しい
笑った顔を見れば自分まで嬉しくて頬が緩み
彼女に何かあれば力になりたくてじっとしていられない
「何もない私の中に君という花が咲いている、それを私だけが愛でたいと思うのは…いけない事だろうか?」
特別な美人ではないが目を惹きつける魅力がある
控えめであり可愛らしい花
まるでかすみ草のようだ
大輪の花を咲かせる薔薇のように自己主張するほど輝いているわけではないが、そこにいれば確かに目を惹く存在
彼女の周りに集まる者も自分と同じ気持ちなのだろうか…とFはつい眉を寄せた
「(君の側にいる少年も…あの金髪の青年も君の魅力に気がついているのだろうな)」
ガイのようにずっと側にいることはできない
シローのように若さもない
初めから勝負にならない自分に嘲笑い悔しそうに顔を歪めるとFは眠る彼女の手を優しく持ち上げその小さな手を見つめた
薄っすらと傷跡ができている手の甲や指先
日頃バトルを頑張っているから出来た怪我だろう
弱音も吐かず見知らぬ土地で日々努力する健気さにFは心を熱くさせ
気がつけば彼女の手の甲に唇を落としていた
ちゅ…っ……
静かな室内に聞こえたリップ音
触れたのは手の甲だというのにまるで彼女の唇にするように愛しげに唇を落とした彼はライトグレーの瞳を色濃くさせ、熱いため息を一つ漏らした
「……これでは君に嘘をついた事になるな」
弱った女性は襲わないと言ったばかりだと言うのに…苦笑いを浮かべ眠る彼女に話しかけると
『ん……にぇ…へ…』
反応したのか偶然か
不思議な寝言を言いながら彼女はふにゃりと微笑んだ
「ふっ、男の前で……無防備すぎではないか?」
流石にこれ以上の事はしてはいけない
後ろ髪を引かれる思いで彼女から離れるとFはベッドの側に置かれた椅子に腰掛け読みかけだった本を開いた
するとどこからともなく、床を爪で引っ搔きながら音を鳴らし歩くジガルデが現れた
ジガルデは吠える事もなくベッドで眠る彼女の元へと近寄るとその場で体を丸めて眠りにつきFもまた本へと視線を戻す
Fにはやる事が残っている
彼女がいつ起きるか分からないが時間を無駄にはできない
頭では分かっているが…
この場を離れる気にもなれず
彼女が起きるまで側で本を読み静かに過ごした
規則正しい彼女の寝息と窓の外から聞こえる鳥ポケモンの囀り…手元から聞こえる本のページをめくる音
「(……こんな穏やかな時間もあるのだな)」
居心地のいい空間に瞳を細め、Fは静かに微笑みを浮かべた
今日の分の仕事を終え立ち寄ったカフェ
温かいココアの入ったマグカップを手に持ち舌を火傷しないように息を吹きかけ少し冷まし、ゆっくりと喉へと流し込むと身体に染み込むように温かさがじんわりと広がった
『……ふぅ……美味しい』
最近の彼女の生活は忙しすぎていた
MZ団の仕事だけでなくマチエールからの探偵としての仕事の依頼
夜もランクアップ戦に備えポケモン達とZAロワイヤルで鍛える日々
そしてAZからメガリングを受け取り暴走メガシンカをしたポケモンを救う仕事も増えた
そのせいで趣味であるカフェ巡りがゆっくり出来ず疲れが溜まる一方だが
『(なんか久しぶりに外でお茶したかも…そういえばこの前行ったヌーボォカフェのコーヒー美味しかったなぁ、色々種類もあるようだしクロワッサンも美味しそうだったな)』
店内に聞こえるコーヒー豆をミルで挽く音や皿がカチャカチャと鳴る音、他の客の笑い声と静かに流れるBGM…
テーブルに置いた両手でマグカップの温もりを堪能しながら目を閉じ、耳を澄ませながらぼんやりと雰囲気を楽しんでいると
コンッ、コンッ…
控えめに彼女のテーブルを誰かが叩いた
『んぁっ、はいっ!……あれ?』
何か注意されるのかと思い肩をビクつかせ目を開けると目の前には店員ではなく
「……外から見えたもので、お邪魔でしたか?」
Fだった
突然の彼との再会にナマエは嬉しさと困惑が混ざり慌ただしく頭を横に振った
『お邪魔だなんて!あ、良かったら一緒にお茶でもっ!』
つい自分から彼をお茶に誘ってしまった
彼には彼の用事があったかもしれないのにと後になって後悔するが、Fは静かに微笑みナマエの向かい側の席に腰掛けた
「それではお言葉に甘えて」
『っ、はい!』
注文をし彼の頼んだコーヒーがテーブルに運ばれるとFは静かに香りを楽しんでからカップに口を寄せた
一口飲み味を確認すると、ずっとコチラを見ていた彼女へと視線を向け直す
「先程は随分と考え事をしていたようですが…何か悩み事でも?」
『え?あ〜悩み事ってわけじゃ、ただぼんやりしてただけですよ』
ヘラヘラと笑うも彼女の顔色はいつもと違う
目の下に疲れが見え始めているのをFは見逃さずカップをテーブルへと置きながら問いかけた
「疲れているようだ……顔色が悪い」
『そ…そんな事ないです』
ココアのマグカップを傾け視線を泳がせる彼女をじっと見つめるライトグレーの瞳
その強い視線から逃げようとナマエは必死に思考を巡らせ頭に浮かんだ物を口にする
『そうだ!Fさんは普段は何をしてるんですか?』
「私ですか?」
『はい!』
彼女にとってFはいつも突然現れ消えてしまう謎の人物だ、彼が普段何をしているのか分かれば今より会えるかもしれない
期待に目を輝かせ彼を見つめるとFは自分の口元を軽く指の背で撫で困ったように…それでいて何処か嬉しそうに眉を下げた
「……君は、私に興味があるのか?」
『え?』
急な問いかけにナマエはギクリと体を揺らし頬を次第に熱くさせていった
『(今の聞き方って、そっか、そういう風にも聞こえるよね!興味?すっごくありますなんて言ったら引かれる?でもっ聞きたい!)』
顔を赤めたまま固まっているとFは黙るナマエに小さく微笑みテーブルの上で自分のカップを傾けて遊んだ
「いや、そうですね……普段はある物を探して街を歩き回ってますよ」
『ある物?』
「いつか最強のメガシンカ使いになる者の為に力になれるように…必要なピースを私は探し続ける、それが与えられた使命ですから」
Fの言葉はいつも謎に隠れている
何処か悲しみを含ませた儚げな雰囲気も時折見せる慈愛に満ちた微笑みもナマエには特別な物に見え、彼に惹かれる想いが日に日に募っていく
だがそれは彼女だけではない
どうしたらもっと親しくなれるだろう
どうしたらもっと頼ってもらえるだろう
どうしたら
異性として見てくれるだろう
「(……ナマエさんは少しは男として私を見てくれているんだろうか?)」
『(Fさんはどんな女の人が好きなんだろ?あたしじゃそんな対象にも入ってないのかな…)』
二人は口には出さないものの
同じ事を頭に浮かばせカップを傾けていた
『(なんだろ…頭が熱い…緊張してるからかな?)』
惜しみつつもカップの中身がなくなる頃だ
熱かった頬の熱は消えるどころが燃え上がり頭がふらつく程広がってくる
ふらつく意識の中、カップをテーブルに置き深呼吸をしようとするも空気を大きく吸う元気もでない
「ナマエさん?大丈夫ですか?」
彼女の異常にいち早く気がついたFが問いかけるとナマエはへらりと笑い
『大丈夫っ……だいじょ…』
電池が切れたように体から力が抜け落ちるのを感じた、自分自身の体に驚きつつも次の瞬間
ガタンっ!
「ナマエさんっ!」
テーブルに倒れ込んでしまった
早く体を戻し何でもないと彼に言いたいのに、冷たいテーブルが熱い頬には気持ちよくて頭が上がらない
すぐさま側に駆け寄ったFにより肩を抱かれると、焦ったように顔を険しくさせる彼の顔が見えたが
『Fさ…ん……』
それ以上何も言えず酷い眠気により意識を手放した
『(あれ……ここは?)』
目が覚めれば自分の使っていたホテルではなく見知らぬ場所だった
シンプルな装飾品、落ち着いた色の壁紙
そして最近知った誰かの香りがする寝具
『……この匂い……好き』
ポツリと思った事を口にすると
「目が覚めましたか?」
視界に入ってくるFの顔
ベッドで眠るコチラを見下ろすライトグレーを眺めぼんやりとした目を向けているとだんだんと靄がかかった頭がハッキリとしていき
『Fさん……Fさん?え?なっなんでっ』
慌てて上半身を起こそうとすると、彼女の体をFの大きな手が支えてくれた
「ああ…急に動いてはいけない」
『なんで…あたし、カフェにいて…あれ?』
「覚えてないのですか?カフェで倒れた事を」
Fは思い出そうと考え込む彼女の側に腰掛けベッドサイドに置かれた棚から薬を取り出した
カシュッ…と、プラスチックの乾いた音をさせ錠剤を数個取り出し振り向くと
「君が眠っている間に医者に診せましたが…過労だそうです」
『過労…?そんなに動いてたつもりなかったのに』
「人間とは夢中になりすぎると己の限界を過信するものです」
医者が用意した薬なのだろう
錠剤と水の入ったコップを彼女に手渡す
『ぅっ、すみません』
貰った薬を素直に飲み込み水を飲み終えるとFは当たり前のように受け取りそれらを棚の上に戻す
「薬が効くまで、もう少し休んで行きなさい」
もう一度彼女をベッドへと寝かせようとするとナマエは困惑したような顔を浮かべFを見つめた
『え、でもっ』
「ん?……ああ、心配しなくても…弱った女性を襲うような事を私はしませんよ」
『そっそんな心配してません!!』
突然何を言うのか
熱とは別に顔を真っ赤にさせた彼女にFはクスクスと笑い今度こそナマエをベッドへと寝かせる
毛布を首元までかけてやり、使ったコップを持ち寝室を出ていくとナマエは溜めていた緊張を吐き出すようにため息を吐き辺りを見回した
ホテルZよりも広い室内
寝室の他にもいくつか部屋があるのだろうか
少し遠くから食器を洗う音を聞きつつ壁に貼られた地図に目が止まる
『(ここ…Fさんの部屋?…大きな地図…あれは…ミアレかな?バツ印ばっかりで…なんの…地図だろ…)』
少しでも彼を知りたい
彼を知るヒントを集めたいと思い色々見たいところだが…毛布から仄かに香る彼の香水の香りと温かい温もりが眠気を誘い数回瞼を上げ下げしていると体から力が抜けていき…
次第に規則正しい寝息が彼女の元から聞こえだした
「……眠ったか」
寝室に戻ってきたFはすぅすぅと小さな寝息を繰り返す彼女を見下ろし目を細めると彼女を起こさないよう静かにベッドの上に腰を下ろした
いつも自分が使っているベッドにナマエがいる
意識してしまうとFの胸が早鐘を打ち出し、それでいて擽ったい気持ちになった
「君を見ていると…私は少年に戻ったように感情的になるようだ」
会えて嬉しい
笑った顔を見れば自分まで嬉しくて頬が緩み
彼女に何かあれば力になりたくてじっとしていられない
「何もない私の中に君という花が咲いている、それを私だけが愛でたいと思うのは…いけない事だろうか?」
特別な美人ではないが目を惹きつける魅力がある
控えめであり可愛らしい花
まるでかすみ草のようだ
大輪の花を咲かせる薔薇のように自己主張するほど輝いているわけではないが、そこにいれば確かに目を惹く存在
彼女の周りに集まる者も自分と同じ気持ちなのだろうか…とFはつい眉を寄せた
「(君の側にいる少年も…あの金髪の青年も君の魅力に気がついているのだろうな)」
ガイのようにずっと側にいることはできない
シローのように若さもない
初めから勝負にならない自分に嘲笑い悔しそうに顔を歪めるとFは眠る彼女の手を優しく持ち上げその小さな手を見つめた
薄っすらと傷跡ができている手の甲や指先
日頃バトルを頑張っているから出来た怪我だろう
弱音も吐かず見知らぬ土地で日々努力する健気さにFは心を熱くさせ
気がつけば彼女の手の甲に唇を落としていた
ちゅ…っ……
静かな室内に聞こえたリップ音
触れたのは手の甲だというのにまるで彼女の唇にするように愛しげに唇を落とした彼はライトグレーの瞳を色濃くさせ、熱いため息を一つ漏らした
「……これでは君に嘘をついた事になるな」
弱った女性は襲わないと言ったばかりだと言うのに…苦笑いを浮かべ眠る彼女に話しかけると
『ん……にぇ…へ…』
反応したのか偶然か
不思議な寝言を言いながら彼女はふにゃりと微笑んだ
「ふっ、男の前で……無防備すぎではないか?」
流石にこれ以上の事はしてはいけない
後ろ髪を引かれる思いで彼女から離れるとFはベッドの側に置かれた椅子に腰掛け読みかけだった本を開いた
するとどこからともなく、床を爪で引っ搔きながら音を鳴らし歩くジガルデが現れた
ジガルデは吠える事もなくベッドで眠る彼女の元へと近寄るとその場で体を丸めて眠りにつきFもまた本へと視線を戻す
Fにはやる事が残っている
彼女がいつ起きるか分からないが時間を無駄にはできない
頭では分かっているが…
この場を離れる気にもなれず
彼女が起きるまで側で本を読み静かに過ごした
規則正しい彼女の寝息と窓の外から聞こえる鳥ポケモンの囀り…手元から聞こえる本のページをめくる音
「(……こんな穏やかな時間もあるのだな)」
居心地のいい空間に瞳を細め、Fは静かに微笑みを浮かべた
