ZA短編集
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※シロー→→→夢主
「ナマエさん!今から自分とデートしましょう!」
ムクに借りた本を返しに立ち寄ったジャスティス会の本拠地、用件を終え帰ろうとしたナマエの目の前に立ち塞がるのはここのリーダーであるシローだった
『デート…ですか?バトルじゃなくて?』
聞き間違いだろうか?と、確認をしてしまうのは仕方がない
普段の彼とは会えばバトルばかりしていたからだ
「バトルもしたっいえいえ!デートです!お互いをもっと知る為に自分とデートしてください!」
バトルをしたい気持ちを振り払うように頭を左右に振り腰に手を当てたまま、ニッコリと笑う彼は返事を貰うまで動く気がないのだろう
周りの門下生に助けてくれと視線を送るが彼女達も何故かシローを応援しておりナマエに断る選択肢を与えない雰囲気だ
『……………分かりました』
「ありがとうございます!では!まずはお茶でも飲みに行きましょう!」
なんともカフェが似合わない男だ
案内されたオープンテラスのカフェ、椅子からはみ出た巨体の男と小柄な少女の組み合わせは自然と視線を集めてしまう
だが当の本人は何やら真剣にカップを恐る恐る持ち眉間にしわを寄せていた
取っ手ではなくカップ本体を持つ彼の大きな手のせいか通常のコーヒーカップもオモチャに見えるから不思議だ
『……ぷふっ!』
「むっ!どうして笑うんですか!」
『だってシローさんったら、凄い緊張しながらカップを持つから』
口元を押さえるが耐えられずクスクスと笑ってしまうと、シローは笑われた事にムッと口を尖らせ拗ねたようにカップを勢いよく傾け一口で全て喉へ流し込む
「力加減を間違うと割ってしまうのです、家でも毎回食器を割ってしまいムクに何度怒られたか」
『あ〜ムクちゃんから聞いた事あります、買ってもすぐ壊されるって』
「ぅ、ですからこうして努力を積んでいます」
プルプルと手元を震えさせながらコーヒーカップを扱う頑張りは確かに認めるが、外に出てまで何故頑張っているのだろうか?
練習なら家でもできるだろうし
デートをしたいというわりに彼らしくない場所だ
ちょっとした疑問の答えが知りたくなりナマエは素直に彼に問いかけた
『でも…どうしていきなりデートなんて言い出したんですか?普段のシローさんならもっとアウトドアなデートしそうだし…今だって無理してるじゃないですか?何か理由があるんですか?』
「あ…いえ……理由は…」
ハッキリと理由を言えない彼がカップをゆっくりとテーブルに戻そうとすると正面に座る彼女から予想外な声が飛び出た
『あ!もしかして好きな人ができたんですか?』
パリンっ!!
「えッ!」
心が乱れたのか彼の手の中にあったカップは残念な事に割れてしまった
割れたカップも気になるがナマエの目を引いたのはシローの顔だ
急激に顔を紅潮させ戸惑う彼の姿を初めて見たせいもあり新鮮だったのだ
『わぁ!顔真っ赤!やっぱりそうなんですね!じゃあその好きな人の為に練習がしたくてカフェに!』
「いえっ!あのっ自分はっ!」
『そういう事なら任せてください!女の子が喜びそうなデートコースを一緒に考えましょう!』
突然やる気になってしまったナマエにシローは困ったように眉を下げ手元の割れたカップを見下ろした
あれほど慎重に持っていたというのに一瞬の心の乱れで割れてしまったカップを見ていると自分の中の何かが弱くなっていくようだった
「(……やはり…自分には無理なのか?)」
しょんぼりと落ち込み俯いていると彼の手元に気が付きナマエが声をかけた
『シローさん?もしかして怪我しましたか!見せてください!』
「いえ、怪我は」
大丈夫だと言う前に触れてきた彼女の手
鍛えることばかりしてきたシローのゴツゴツとした手とは違い細く弱々しい手が重なると彼の顔はまた赤くなり喉が大きく上下した
「大丈夫です!自分はこのくらいでは怪我なんてしませんから!」
ガタンっ!と、勢いよく立ち上がり油の切れたロボットのようにぎこちなく歩き出してしまい
ナマエは小首を傾げながらもシローを追いかけ二人は街へと並んで歩く事にした
「ん?なんの匂いでしょうか?」
『あ、ここのお店の匂いじゃないですか?色んな香水を売ってるみたいです』
香りにつられ立ち寄った店は香水の専門店のようだ
カラフルな瓶が並び他の女性客達はテスター用の小瓶を傾けては香りを楽しんでいるようだ
「香水……こんなに種類があるんですね」
『女の子は結構香水好きな子多いですから、このお店もコースにいれるといいかもですね』
「………………ナマエさんは」
『ん?』
「ナマエさんはどんな香りが好きですか?」
真っ直ぐにコチラを見つめるシローの瞳
長いまつ毛の影を作りながら見つめてくる彼の瞳は何処となく熱を孕み、普段と違う雰囲気にドキンと胸を鳴らしたナマエは言葉が詰まりすぐには答えられなかった
「ナマエさん?」
『ぁ、……あたしですか?どうして聞くんですか?』
「自分はその、汗臭いでしょうから…女性はどんな香りの男が好きなのかと」
苦笑いし自分の首の後ろを擦る彼に漸くホッとしナマエの肩から力が抜けた
『(びっくりした…シローさんってあんな顔もするんだ)』
今はいつものシローだ
さっきのは自分の見間違いかもしれないと決め話に意識を戻した
「ムクにもよく言われるのです、シローは汗臭いから近寄るなって」
たははっ、と力なく笑う彼にナマエはキョトンと目を大きくさせ
『シローさん別に汗臭くないですよ?』
突然なんの確認もせずナマエが彼の胸元の近くに顔を寄せた
「なっ!」
肌が触れたわけではないが、こんなに至近距離に来たのは初めてだ
不意打ちをくらいシローが固まっていると匂いを嗅ぎ終えた彼女が顔を上げヘラリと微笑んだ
『……うん、汗というよりシローさんの匂いって感じであたしは今のままでも好きですけどね』
「〜〜っ!で、では!貴女がもし贈り物として貰うならどんな香りがお好きですか!」
胸元を手のひらで強く抑えた彼は数歩素早く後ろへ下がり早口で問いかける
暑いのか道着から出ている彼の肌は紅潮しており、こめかみを少量の汗が流れているようだった
『(暑いのかな?)そうですね〜』
シローを背に商品を探し始める事にした彼女は沢山並ぶ瓶を眺め、一つの小瓶を手に取ると軽く手首にかけ匂いを確かめた
『あ、これとか好きかも』
甘過ぎず爽やかな香りは普段使いにも適しており好ましい、すぐに気に入ったそれを買おうかと考えていると
「これは、確かにいい香りですね」
妙に近くから声が聞こえた
振り返れば彼女の顔のすぐ横に背中を屈めた彼の顔があったのだ
『いい…で…す…よね…』
「ええ、爽やかな香りがとても貴女に似合う」
いつの間に側に来ていたのだろうか
匂いを確かめ終えた彼は背筋を戻しナマエの使った香水の棚を見つめ何かを決めた様に小さく頷いている
『(びっくりした!急に顔が近くてっ!)』
「ではそれは自分が買います」
『え!なんでですか!』
「今日のお礼です、受け取ってくれますか?」
『ぁ…ありがと…ございます』
結局断る事もできず買ってもらった香水
綺麗にラッピングされた彼からの初めての贈り物は嬉しいというのに、何処か素直に喜べなかった
『(ただのお礼なのに、なんだろ…モヤモヤする)』
「(……デートと思って貰えなかった、何が足りないのだろうか?ムクのアドバイス通りに全てやったつもりだが)」
並んで歩く彼女をチラリと盗み見るとナマエは心ここにあらずなのかぼんやりとしている
プレゼントを持っていない彼女の手は隣りにいるシローが少し手を伸ばせば触れそうなほどすぐ近くにあり、彼は人差し指をぴくりと揺らすと無防備な細い手にその指を伸ばすが……
あと少しというところで手を引っ込め拳を作った
「(………情けない)」
その後も特に話す事もせず歩き続ければ空は藍色に染まりだし今日という日が終わりを迎える
家路へと足が進むにつれシローはドキドキと胸を騒がしく鳴らし落ち着きなく彼女を盗み見た
あと少し
次の角を曲がったら別れなくてはいけない
「あの!ナマエさんっ!」
『はい?』
突然大きな声で呼ばれ足を止めるとシローは視線を泳がせ、自分の大きな手を揉み合わせ必死に言葉を探しているようだった
「ぁ、じ、自分っ、……ぅ、〜〜っ」
『シローさん?』
何かあったのか?と彼を心配そうに見上げるとシローはギクリと肩を揺らし、泣きそうに顔を曇らせるが……
すぐに苦笑いを浮かべ直した
「いえ、今日は…ありがとうございました」
『……いいえ、ではまた』
「はい、おやすみなさい」
手を振り彼女を見送り今日は終わり
そう決めたのに
彼女の小さな背中を見た途端シローはその場にじっとしている事が出来なくなり気がつけば地面を蹴り
グイッっ!!
『えっ?』
咄嗟に彼女の服の裾を掴み引き留めてしまった
シロー自身も自分の行動に驚いたのか目を見開き自分の手元を見つめたが、どうしても離す事ができず……眉を力なく下げた
「……………好き……です」
『シロー……さん?』
消え入りそうな小さな声で呟いた彼の顔は首まで真っ赤に染まっており涙目だった
どうしたのかと声を出そうとすると彼はナマエの服の袖を掴んだまま力なくその場にしゃがみ込み俯いた
「……好きです…好きですっ!!貴女がっ好きなんです!」
急に地面に向かって叫びだす彼、金色の髪の毛の隙間から見える耳は真っ赤でナマエまで頬を赤めてしまう
『……え、ええ?あ、ちょっ、え?あたしを…ですか?嘘?』
「嘘なんかじゃありません!自分はずっと貴女を慕ってました!でも自分はこの通り女性の扱いなんて知りません…だからムクにアドバイスを貰いデートを…」
だんだんと小さくなる声
掴んでいた手を下ろし小さな子供のように膝の上で腕を組み合わせた彼は体を小さくし黙り込む
筋肉のがっちりした大きな体の男からは想像できない程、繊細な心の持ち主なのかもしれない
『じゃあ…誰かの為の練習じゃなくて、本当にあたしとのデートだったんですか?』
同じようにしゃがみ込み顔を腕の中で隠している彼に問いかけると、シローは漸く顔を上げた
見えてきた彼のまつ毛は濡れて光っており鼻先は少し赤くなっていた
「……っ、…はい」
『……じゃあやり直しましょうか?』
「え?」
『デート!今度はちゃんとムクちゃんじゃなくてシローさんが考えたデートしてくれますか?』
まさかの提案にシローは驚き目を大きくさせてしまう
「いいんですか?自分はっカップさえ上手く持てない…貴女と手を繋ぐのだって傷つけてしまわないかと臆病になる男ですよ!」
『怖くてできないなら、あたしから繋げばいいだけじゃないですか?』
そっとシローの手をとり握ってきた彼女の手
『ね?』
ずっとずっと触れたかった彼女の手は温かく柔らかくて…シローは喜びに溢れ涙を滲ませた瞳を細めてふにゃりと笑った
「〜〜っ、はいっ!」
数日後ー
「さあ!もっと触ってください!」
『あの、シローさん?限度があります』
あれからシローは所構わず彼女と触れ合いたいと叫ぶようになった
門下生の前でも汚い物を見るようなジト目を向けるムクの前でも構わない
両手を広げ求愛するシローの愛の重さにナマエは今更気がつく
「まだ力加減の練習中で自分からは触れないのです!だから貴女にお願いしてるのです!さあ!もっと自分を隅から隅まで触ってください!さあ!さあ!さあ!」
『…あ、あはは………間違っちゃったかも?』
「ナマエさん!今から自分とデートしましょう!」
ムクに借りた本を返しに立ち寄ったジャスティス会の本拠地、用件を終え帰ろうとしたナマエの目の前に立ち塞がるのはここのリーダーであるシローだった
『デート…ですか?バトルじゃなくて?』
聞き間違いだろうか?と、確認をしてしまうのは仕方がない
普段の彼とは会えばバトルばかりしていたからだ
「バトルもしたっいえいえ!デートです!お互いをもっと知る為に自分とデートしてください!」
バトルをしたい気持ちを振り払うように頭を左右に振り腰に手を当てたまま、ニッコリと笑う彼は返事を貰うまで動く気がないのだろう
周りの門下生に助けてくれと視線を送るが彼女達も何故かシローを応援しておりナマエに断る選択肢を与えない雰囲気だ
『……………分かりました』
「ありがとうございます!では!まずはお茶でも飲みに行きましょう!」
なんともカフェが似合わない男だ
案内されたオープンテラスのカフェ、椅子からはみ出た巨体の男と小柄な少女の組み合わせは自然と視線を集めてしまう
だが当の本人は何やら真剣にカップを恐る恐る持ち眉間にしわを寄せていた
取っ手ではなくカップ本体を持つ彼の大きな手のせいか通常のコーヒーカップもオモチャに見えるから不思議だ
『……ぷふっ!』
「むっ!どうして笑うんですか!」
『だってシローさんったら、凄い緊張しながらカップを持つから』
口元を押さえるが耐えられずクスクスと笑ってしまうと、シローは笑われた事にムッと口を尖らせ拗ねたようにカップを勢いよく傾け一口で全て喉へ流し込む
「力加減を間違うと割ってしまうのです、家でも毎回食器を割ってしまいムクに何度怒られたか」
『あ〜ムクちゃんから聞いた事あります、買ってもすぐ壊されるって』
「ぅ、ですからこうして努力を積んでいます」
プルプルと手元を震えさせながらコーヒーカップを扱う頑張りは確かに認めるが、外に出てまで何故頑張っているのだろうか?
練習なら家でもできるだろうし
デートをしたいというわりに彼らしくない場所だ
ちょっとした疑問の答えが知りたくなりナマエは素直に彼に問いかけた
『でも…どうしていきなりデートなんて言い出したんですか?普段のシローさんならもっとアウトドアなデートしそうだし…今だって無理してるじゃないですか?何か理由があるんですか?』
「あ…いえ……理由は…」
ハッキリと理由を言えない彼がカップをゆっくりとテーブルに戻そうとすると正面に座る彼女から予想外な声が飛び出た
『あ!もしかして好きな人ができたんですか?』
パリンっ!!
「えッ!」
心が乱れたのか彼の手の中にあったカップは残念な事に割れてしまった
割れたカップも気になるがナマエの目を引いたのはシローの顔だ
急激に顔を紅潮させ戸惑う彼の姿を初めて見たせいもあり新鮮だったのだ
『わぁ!顔真っ赤!やっぱりそうなんですね!じゃあその好きな人の為に練習がしたくてカフェに!』
「いえっ!あのっ自分はっ!」
『そういう事なら任せてください!女の子が喜びそうなデートコースを一緒に考えましょう!』
突然やる気になってしまったナマエにシローは困ったように眉を下げ手元の割れたカップを見下ろした
あれほど慎重に持っていたというのに一瞬の心の乱れで割れてしまったカップを見ていると自分の中の何かが弱くなっていくようだった
「(……やはり…自分には無理なのか?)」
しょんぼりと落ち込み俯いていると彼の手元に気が付きナマエが声をかけた
『シローさん?もしかして怪我しましたか!見せてください!』
「いえ、怪我は」
大丈夫だと言う前に触れてきた彼女の手
鍛えることばかりしてきたシローのゴツゴツとした手とは違い細く弱々しい手が重なると彼の顔はまた赤くなり喉が大きく上下した
「大丈夫です!自分はこのくらいでは怪我なんてしませんから!」
ガタンっ!と、勢いよく立ち上がり油の切れたロボットのようにぎこちなく歩き出してしまい
ナマエは小首を傾げながらもシローを追いかけ二人は街へと並んで歩く事にした
「ん?なんの匂いでしょうか?」
『あ、ここのお店の匂いじゃないですか?色んな香水を売ってるみたいです』
香りにつられ立ち寄った店は香水の専門店のようだ
カラフルな瓶が並び他の女性客達はテスター用の小瓶を傾けては香りを楽しんでいるようだ
「香水……こんなに種類があるんですね」
『女の子は結構香水好きな子多いですから、このお店もコースにいれるといいかもですね』
「………………ナマエさんは」
『ん?』
「ナマエさんはどんな香りが好きですか?」
真っ直ぐにコチラを見つめるシローの瞳
長いまつ毛の影を作りながら見つめてくる彼の瞳は何処となく熱を孕み、普段と違う雰囲気にドキンと胸を鳴らしたナマエは言葉が詰まりすぐには答えられなかった
「ナマエさん?」
『ぁ、……あたしですか?どうして聞くんですか?』
「自分はその、汗臭いでしょうから…女性はどんな香りの男が好きなのかと」
苦笑いし自分の首の後ろを擦る彼に漸くホッとしナマエの肩から力が抜けた
『(びっくりした…シローさんってあんな顔もするんだ)』
今はいつものシローだ
さっきのは自分の見間違いかもしれないと決め話に意識を戻した
「ムクにもよく言われるのです、シローは汗臭いから近寄るなって」
たははっ、と力なく笑う彼にナマエはキョトンと目を大きくさせ
『シローさん別に汗臭くないですよ?』
突然なんの確認もせずナマエが彼の胸元の近くに顔を寄せた
「なっ!」
肌が触れたわけではないが、こんなに至近距離に来たのは初めてだ
不意打ちをくらいシローが固まっていると匂いを嗅ぎ終えた彼女が顔を上げヘラリと微笑んだ
『……うん、汗というよりシローさんの匂いって感じであたしは今のままでも好きですけどね』
「〜〜っ!で、では!貴女がもし贈り物として貰うならどんな香りがお好きですか!」
胸元を手のひらで強く抑えた彼は数歩素早く後ろへ下がり早口で問いかける
暑いのか道着から出ている彼の肌は紅潮しており、こめかみを少量の汗が流れているようだった
『(暑いのかな?)そうですね〜』
シローを背に商品を探し始める事にした彼女は沢山並ぶ瓶を眺め、一つの小瓶を手に取ると軽く手首にかけ匂いを確かめた
『あ、これとか好きかも』
甘過ぎず爽やかな香りは普段使いにも適しており好ましい、すぐに気に入ったそれを買おうかと考えていると
「これは、確かにいい香りですね」
妙に近くから声が聞こえた
振り返れば彼女の顔のすぐ横に背中を屈めた彼の顔があったのだ
『いい…で…す…よね…』
「ええ、爽やかな香りがとても貴女に似合う」
いつの間に側に来ていたのだろうか
匂いを確かめ終えた彼は背筋を戻しナマエの使った香水の棚を見つめ何かを決めた様に小さく頷いている
『(びっくりした!急に顔が近くてっ!)』
「ではそれは自分が買います」
『え!なんでですか!』
「今日のお礼です、受け取ってくれますか?」
『ぁ…ありがと…ございます』
結局断る事もできず買ってもらった香水
綺麗にラッピングされた彼からの初めての贈り物は嬉しいというのに、何処か素直に喜べなかった
『(ただのお礼なのに、なんだろ…モヤモヤする)』
「(……デートと思って貰えなかった、何が足りないのだろうか?ムクのアドバイス通りに全てやったつもりだが)」
並んで歩く彼女をチラリと盗み見るとナマエは心ここにあらずなのかぼんやりとしている
プレゼントを持っていない彼女の手は隣りにいるシローが少し手を伸ばせば触れそうなほどすぐ近くにあり、彼は人差し指をぴくりと揺らすと無防備な細い手にその指を伸ばすが……
あと少しというところで手を引っ込め拳を作った
「(………情けない)」
その後も特に話す事もせず歩き続ければ空は藍色に染まりだし今日という日が終わりを迎える
家路へと足が進むにつれシローはドキドキと胸を騒がしく鳴らし落ち着きなく彼女を盗み見た
あと少し
次の角を曲がったら別れなくてはいけない
「あの!ナマエさんっ!」
『はい?』
突然大きな声で呼ばれ足を止めるとシローは視線を泳がせ、自分の大きな手を揉み合わせ必死に言葉を探しているようだった
「ぁ、じ、自分っ、……ぅ、〜〜っ」
『シローさん?』
何かあったのか?と彼を心配そうに見上げるとシローはギクリと肩を揺らし、泣きそうに顔を曇らせるが……
すぐに苦笑いを浮かべ直した
「いえ、今日は…ありがとうございました」
『……いいえ、ではまた』
「はい、おやすみなさい」
手を振り彼女を見送り今日は終わり
そう決めたのに
彼女の小さな背中を見た途端シローはその場にじっとしている事が出来なくなり気がつけば地面を蹴り
グイッっ!!
『えっ?』
咄嗟に彼女の服の裾を掴み引き留めてしまった
シロー自身も自分の行動に驚いたのか目を見開き自分の手元を見つめたが、どうしても離す事ができず……眉を力なく下げた
「……………好き……です」
『シロー……さん?』
消え入りそうな小さな声で呟いた彼の顔は首まで真っ赤に染まっており涙目だった
どうしたのかと声を出そうとすると彼はナマエの服の袖を掴んだまま力なくその場にしゃがみ込み俯いた
「……好きです…好きですっ!!貴女がっ好きなんです!」
急に地面に向かって叫びだす彼、金色の髪の毛の隙間から見える耳は真っ赤でナマエまで頬を赤めてしまう
『……え、ええ?あ、ちょっ、え?あたしを…ですか?嘘?』
「嘘なんかじゃありません!自分はずっと貴女を慕ってました!でも自分はこの通り女性の扱いなんて知りません…だからムクにアドバイスを貰いデートを…」
だんだんと小さくなる声
掴んでいた手を下ろし小さな子供のように膝の上で腕を組み合わせた彼は体を小さくし黙り込む
筋肉のがっちりした大きな体の男からは想像できない程、繊細な心の持ち主なのかもしれない
『じゃあ…誰かの為の練習じゃなくて、本当にあたしとのデートだったんですか?』
同じようにしゃがみ込み顔を腕の中で隠している彼に問いかけると、シローは漸く顔を上げた
見えてきた彼のまつ毛は濡れて光っており鼻先は少し赤くなっていた
「……っ、…はい」
『……じゃあやり直しましょうか?』
「え?」
『デート!今度はちゃんとムクちゃんじゃなくてシローさんが考えたデートしてくれますか?』
まさかの提案にシローは驚き目を大きくさせてしまう
「いいんですか?自分はっカップさえ上手く持てない…貴女と手を繋ぐのだって傷つけてしまわないかと臆病になる男ですよ!」
『怖くてできないなら、あたしから繋げばいいだけじゃないですか?』
そっとシローの手をとり握ってきた彼女の手
『ね?』
ずっとずっと触れたかった彼女の手は温かく柔らかくて…シローは喜びに溢れ涙を滲ませた瞳を細めてふにゃりと笑った
「〜〜っ、はいっ!」
数日後ー
「さあ!もっと触ってください!」
『あの、シローさん?限度があります』
あれからシローは所構わず彼女と触れ合いたいと叫ぶようになった
門下生の前でも汚い物を見るようなジト目を向けるムクの前でも構わない
両手を広げ求愛するシローの愛の重さにナマエは今更気がつく
「まだ力加減の練習中で自分からは触れないのです!だから貴女にお願いしてるのです!さあ!もっと自分を隅から隅まで触ってください!さあ!さあ!さあ!」
『…あ、あはは………間違っちゃったかも?』
