五条悟
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「夏油先生、手合わせお願いできますか」
「構わないよ。では、まずお手並み拝見といこうか。呪力強化無し。弱点、改善点はまとめて最後に伝える」
一年二年合同体術訓練にて、一年の伏黒くんが夏油先生の前で棍を構える。険しい表情で気合いが入りまくりの伏黒くんに対し、夏油先生は涼しい顔で肩をすくめた。
すると、まさかの得物を持たない状態で、指をチョイチョイと動かして夏油先生が挑発する。
伏黒くんが一歩踏み込んだ。砂埃が舞い上がった次の瞬間には、二人は互いの間合いに居た。
「躊躇がないな。若いっていいね」
伏黒くんの棍の猛攻を軽やかに躱し、夏油先生が鋭い蹴りを繰り出す。
寸でのところでそれをガードして弾いた伏黒くんに、そのまま流れるように右の拳を叩き込む。間一髪で反応した伏黒くんの頬を掠る。
「恵、動きは良いね。が、攻めの一手一手が浅いな。まさか私が丸腰だから遠慮してる?」
ふふっと笑いながらも、攻撃の手を緩めない夏油先生は、どこか楽しげに見える。
実際、伏黒くんはやり辛いだろうな。こちらの攻撃はあっさり受け流され、そのくせ向こうは遠慮なく急所を狙ってくるんだから。
「くっ……!」
じわじわと距離を詰められ、あっという間に防戦一方へと追いやられたのは伏黒くんだった。間合いを取る余裕がなく、後退しながら徐々に追い詰められている。
その様子を見て、石畳の階段に座る五条先生がため息をついた。
「恵さぁ……傑には毎回手合わせ申し込んでるのに、僕に体術を教わりたいって言ってくれたのは、今まで数えるくらいしか無いんだよねぇ」
アラサーの成人男性が、脚を投げ出して頬を膨らませている。拗ねて不機嫌になっている五条先生に、私と同級生の真希とパンダがツッコミを入れる。
「あーわかるわー夏油さんの方が先生って感じだよな。アドバイス的確だし、私もこの後手合わせ頼もうかな」
「だな。俺も真希も効率重視の手合わせお願いするなら、そうなるわ。悟は無駄話が多いからな」
「っていうか、なんだかんだ余裕ある大人って感じで、高専の内外からモテモテだろ夏油さん。バレタインの時とかデスク埋まるくらいチョコもらってたな」
「しゃけしゃけ!」
辛辣な二人に合わせて、私の隣に居た棘も頷いていた。そんな私たちニ年生ズからの物言いに、五条先生の口がへの字になる。
「皆冷たいな!五条先生傷ついちゃうよー?悲しんじゃうよー?……で、憂太は誰派?」
「ええ!? ぼ、僕!?」
突然矛先を向けられた憂太は、ビクッと肩を跳ねさせた。
「「憂太、正直に言っちまえよ」」
「ツナマヨ」
周囲から一斉に視線を浴びて、明らかに動揺したように憂太の目がキョロキョロと泳いだ。心優しい彼は、誰も傷つかない答えを頭の中で秒速で探っているに違いない。
「えーっと、そうだな、うーん……ご、五条先生かな」
「憂太は優しいな」
「目が泳いでっけどな」
ははは、と真希とパンダに弄られて、二年の輪に笑いが起きる。その様子を見やってから、五条先生は隣に居る私の頭にポンッと手を乗せる。
「それで、夢子はどっち派?僕?それとも僕?GTGでもイイヨ」
「えっ!?……うーん、それ、五条先生しか無いやつ。私に選択肢は無いんですか」
さり気なく髪を撫でるような五条先生の手の動きに、不覚にもドキドキしてしまった。先生が隣で身じろぐ度に、なんだかすごく良い香りがする。
なんて答えるのが正解なのだろう。
指導の仕方がうまくて生徒からの信頼が厚い夏油先生か、はたまた気軽に冗談も言える距離の近さとルックスの良さで人気を集める最強の五条先生か。
二人の先生の姿を交互に見比べて私が唸っていると、
「何やら楽しそうだね」
汗をタオルで拭きながら、二年と五条先生の話の輪に夏油先生が参加してくる。いつの間にか伏黒くんの手合わせ相手は虎杖くんに変わっていた。それを見て、芝生の斜面に座っていた一年の野薔薇ちゃんが立ち上がった。
伸びをしてからグラウンドへと駆け下りて、こちらへと手を振ってくる。
「真希先輩、次は私とやりません?」
「いいぞ。構えな、野薔薇」
「じゃあ棘は俺とやるかー?」
「しゃけ」
生徒同士で次々とペアができ、休憩がてら夏油先生が五条先生の隣に座った。
冷たいペットボトルの麦茶を手に一本ずつ持って、二人の先生が仲良く並んで休憩していた。五条先生がさっき自販機で買ってたのは、このためだったのか。
「憂太は私と手合わせしてくれる?」
あぶれたもの同士、近くにいた憂太に私が声を掛けると、その質問が嬉しかったのか満更でもなさそうに目を輝かせた。
「も、勿論僕で良ければ……夢子ちゃん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。じゃあ真剣の代わりに竹刀で訓練しようか」
石階段に座って見学していたからお尻が少し痛い。よっ、と声を上げて立ち上がり、服の砂埃を手で払う。
ふと、視線を感じて目を向けてみると、夏油先生とバチリと目が合う。
それはほんの一瞬の出来事だが、私の顔を見てにこりと笑いかけられたかと思えば、すぐに背を向けられてしまう。
「傑、久しぶりに素手で手合わせするか?術式も呪力強化もなしの一本勝負」
五条先生はいつもの目隠しを取り去り、楽しそうに笑って夏油先生に声をかける。
「いいね。悟が目隠しを取ったということほ……手加減抜きでもいいかな? 」
そう言葉を返す夏油先生は、どことなく張り切った声のトーンに感じる。静かな闘志を纏う先生方の周りの空気がピリつき始めた。
「……そう言えば、先生二人ってどっちが強いんだろうね?特級術師同士の対決だし、ちょっと気になる」
そんな光景を眺めつつ、私の手合わせ相手の憂太に話題を振る。竹刀を構えたまま、僅かな隙を探り、私を見据える彼からは曖昧な答えが返ってきた。
「確かに気にはなるけど……二人とも天才って感じだし……僕は想像出来ないよ」
「ま、外野があれこれ言うもんじゃないか」
じゃり、と憂太の足元から踏みしめる音がする。来る。その直感に、首が粟立つ。憂太は攻撃で動く直前、ほんの少し眉間に皺が寄る。
それを、私は知っている。
次の瞬間、繰り出される彼からの渾身の一撃を竹刀で受け止めて、踏み込んだ力が弱くなるタイミングで鍔迫り合いを押し返して弾いた。
一年の時とは見違えるようなその動きに、素直に感心した。当初は腰が引けていて、一撃が中途半端。恐る恐る攻撃していたフシがある。
「憂太、全力で突っ込みすぎ。もっと動きをコンパクトにして、急所を正確に狙うことに集中」
間合いを取って体勢の整えると、向こうから歓声が上がった。恐らく、夏油先生と五条先生の手合わせが始まったのだろう。
そちらにちらりと視線を配ると、久しぶりに生で見る特級呪術師二人の格闘術の応酬に、私も憂太も目を奪われる。
二人の長身を活かした軽快な身のこなし、要所に絞った的確な体術による瞬間の攻撃に目が釘付けになった。
目にも止まらぬ速さで打ち込まれる打撃、防戦するも蓄積されたダメージにより体勢を崩しそうになる相手を逃すはずもなく追撃が加わる。
無駄のない流れ、形勢逆転を狙うような洗練された戦法。それでいて相手の隙を的確に突いてくるのは流石だな。
「すごいなぁ……五条先生もそうだけどさ。やっぱり二人共別格だ」
純粋な賞賛で感動している様子の憂太の目には、尊敬と闘志が見え隠れする。
辛い出来事を乗り越えて呪術師として大きく成長したが、相変わらず彼は感情が顔に出やすくて分かりやすい。
「傑、息が上がってるよ?」
「……悟も随分お疲れに見えるけど」
二人の言葉の応酬に、会話の内容とは裏腹にどこか喜びが溢れているような気がするのは私だけだろうか。
人間ならざるスピードで夏油先生との間合いを詰めた五条先生の拳は空を切り、その腕を背後から掴みとられる。
「っ……!?」
ぐい、と五条先生の体を引き寄せながらの勢いで、今度は夏油先生の足払いが襲う。バランスを崩して転ぶかと思われた五条先生は、難なく飛び退いて体勢を立て直している。
「傑さぁ、涼しい顔して足癖の悪いところは変わんないね」
「そういう悟も、相変わらず猿みたいに跳ねるのが得意だね」
呪力を使わない生身の戦闘とはいえ、特級同士の動きを目で追うのがやっとな私たちからすれば、目の前で繰り広げられるこの組手の応酬にはただただ圧倒される。
仕切り直すかのように拳を構える二人。
いつ終わるとも分からない予感に、遠目から見ていたパンダと棘が呆れたようにその様子を見つめていた。
「互角だな。終わんねぇわコレ」
「しゃけ」
「どっちが勝つか、ジュース賭けるか?」
「俺は夏油にコーラを一本賭ける。真希は?」
「じゃあ私は最強バカに賭けるか」
夏油先生との手合わせの順番待ちをしていたはずの真希とパンダに、一年も混ざって見学するようになっていた。
「さっき、先生たち自身も何か賭けて勝負になったみたいだよ。小声で何か話してた」
すっかり集中力が切れてしまい、手合わせの空気が無くなってしまった憂太が私の隣に来る。
「前みたいに、お昼ご飯どっちの奢りかどうか賭けてたとかかな?」
「えー、単純というか子供っぽいというか……懲りないね、本当」
クスリと私が笑みを零すと、「お、始まる」
とパンダが声をあげる。
視線を戻すと、再び向き合った先生二人が同時に踏み込む。拳や足技だけではなく、体術は一通りこなせる動きに、ブレや隙は無い。日頃から体幹を鍛えているのが分かる動きだ。
間髪入れずに攻撃を繰り返してはいるが、お互いに中々決定打となる一撃を決めあぐねているようだった。
「……で、夢子は五条派?夏油派?」
腕組みしたままパンダが問うてくる。
「え……うーん……どっちかだったら、五条先生派かな。話しやすいし。夏油先生は何考えてるか分からない時あるから、少し苦手」
とっさの質問に、少し焦った。ちらりと視線を向けて答えを呟くと、パンダがどこかニヤニヤした顔をしていた。
「パンダ、なにその顔」
「いや?なんでもなーい」
まるで意味深な視線と含みのある言葉に、私は怪訝な表情をしてしまった。
そんな私の顔を見ると、パンダは嬉々としながらも口を閉ざした。何となく納得いかない気持ちになっているその間にも、あの二人の手合わせに興味深々といった様子で、「五条先生ガンバー」と虎杖くん始め一年生が集まった方から声が上がっている。
しかし、それもすぐに止んでしまう。次に聞こえてきたのは、皆の息を呑む音だった。
「あちゃーやっちまったな」
パンダの声で前を見ると、先生のお二方は双方の拳が頬に入ってしまった絶妙なタイミングだった。
どっちの声だか分からないけれど、「ヘブッ」と漏れた声が衝撃を物語っていた。
「っ、は……やり過ぎてしまったかな」
「ま、ダイジョブ、ダ……うへぇっ、血の味がすんだけど!傑、思いっきし殴っただろ」
「悟は反転術式使えばいいんじゃ……あ、私も鼻血出てるな」
気を抜いて構えを解いた先生方は、取り巻く生徒たちの声に全く気にも留めず呑気に言葉を交わしている。
五条先生は口端が切れてるし、夏油先生は鼻血も出ていて頬がほんのり赤くなってしまっている。
辺りに響いた鈍い殴り合いの音から、とんでもない威力の打撃を受けているはず。体が頑丈なせいか、二名ともにそれほどダメージを受けた様子はなかった。
ペッと口から血を吐き出して、手の甲で口端の血を拭った五条先生が生徒側の方に歩み寄ってくる。
「久しぶりの手合わせなのに、随分ガチになったなぁ」
「つい本気になってね、悟に久々に思い切りやられたよ」
どこか楽し気に顔を見合わせて会話をする二人の間には、そこには気心知れた相手にしか見せない、やわらかく穏やかな空気が流れていた。
すっかり落ち着いた様子だったかと思えば、次の瞬間にはふと喧嘩をふっかけてしまう五条先生と、余裕ありげに難なく回避して涼しい顔をする夏油先生。
学生みたいなじゃれ合い。対照的な二人だけど、根底のノリは一緒なんだと思うとなんだか面白い。
「今回は勝負ってほどの結果じゃないけど、まずはこれで痛み分けかな。生徒の前で我を忘れて喧嘩するわけにはいかないしね」
「負けたくせになんでそんなドヤ顔なの。てか、僕が勝ったのに」
「悟、しれっと勝利宣言しないでくれないか。どう見てもドローだ」
またも軽口の言い合いの応酬が繰り広げられ、こちらも自然と笑顔になってしまう。
五条先生と夏油先生は高専時代から一緒らしい。本当に楽しそうで、そういう昔馴染みの関係って良いなぁと憧れる。
「大体、学生時代から一緒に居るくせに、ケンカばっかでよく飽きねぇな」
真希は苦い顔をして二人を見つめていた。確かに毎回のことで見慣れた光景だけど、二人は何かしら小競り合いをしている気がする。
「本当のところ、先生たち二人は仲悪いの?」
「私じゃなくて、本人たちに聞いてみろ」
私と真希の声に、上着を羽織りながら歩いてきた先生方二人が、こっちに顔を向ける。二人の顔を交互に見つつ、私は言葉を続けた。
「先生たちって同期なんですよね。喧嘩ばっかりしてるのはどうしてですか?」
純粋な私の疑問に、五条先生も夏油先生もきょとんとした顔をする。その後、無言でお互いに目を見合わせると、ふっと呆れた顔で二人揃って笑った。
「そういえば、私たちは学生時代の任務はペアですることが多かったね。あの頃の悟は『俺たち最強』とか、ダサいこと言ってたっけか」
「最強宣言は傑が先でしょ。若気の至りで、イキってた感はあったけど……まぁ、でもそこまで長い関係だと、好きか嫌いかって話じゃなくなるもんだよ。腐れ縁?」
戯れ言を交わしながらも、長年培ってきた関係性はそんなに単純に作り上げられるものではないようだ。
出血するほどの真剣な手合わせをしたばかりだと言うのに、彼らはヘラっとした顔で笑い合う。
その穏やかな様子からは険悪な空気は全く感じない。傍から見ると、馬が合わなさそうな二人だなと思うけれど。
「しいて言えば……」
目隠しを付け直しながら、楽しげな五条先生はピッと人差し指を立てた。
「僕たち、あることでライバルなんだよね」
「……ライバル?何のですか?」
「あー……私からは言えないかな……」
苦笑した夏油先生は顎に手をあてて考え込む姿勢をとり始める。これ以上教える気は無いと、五条先生も無言で私に圧力をかけていた。
「可愛い生徒に教えてくれないんですか?」
少し唇を尖らせて抗議すると、先生が私に背を向ける。
「僕たちは厳しい先生だからね~」
振り返ってぺろりと舌を出して、おどけてみせる五条先生。意地悪だなぁと思い、私は頬を膨らませる。二人の諍いの原因はこれ以上教えてもらえなさそうなので、諦めざるを得ないようだ。
私が心底残念そうな表情をしたからか、五条先生はひとつ溜息を吐く。
「そんな顔されると弱いなー……しょうがないから、教えてあげよっか」
不意に、先生二人が私の隣に立った。そして、私の頭と肩に手を置く。
その動作はあまりにも自然で、私は何の違和感も覚えなかった。
ハッと我に返った瞬間、耳のすぐ横で五条先生の声がした。他の生徒に聞こえないようにか、囁くような声を出されて耳が熱を持つ。
「どっちが先に夢子の彼氏になるか、勝負してんの」
予想だにしない言葉に、私は思わず「へ?」と気の抜けた声を出してしまう。
「え……それ、どういう……」
「だぁからー、どっちが先に夢子に告白されて彼氏になるかって勝負」
私の頭の上で五条先生がケラケラと笑っている。触れてる箇所から、その振動が伝わってきて少しくすぐったい。
「なんで、そんなことしてるんですか……」
「だって傑のやつ、ずーっと僕に黙って夢子のこと狙ってたんだもん。知ってる?」
「え、えぇっ?」
驚きの声をあげると、今度は反対側の隣に居た夏油先生が私の肩に回した手に力を込める。
「悟は、前から夢子に隙あらばちょっかい出してるから困ってたんだよ」
「お前だって同じだろ?僕がいない時にこっそり夢子に声かけてたくせに」
「あれは物事を円滑に進めるためのコミュニケーションだよ。悟みたいに、余裕なく下心満載じゃない」
「はぁ?僕だって……まぁ、半分くらいは下心だったけど」
「ほら見ろ。やっぱりあるんじゃないか」
頭上と隣で繰り広げられる二人の言い合いに、私は唖然とするしかない。
五条先生は、私が一年生の時から色々と気にかけてくれていたし、入学したての頃はよく何かにつけて食事や買い物にも連れて行ってくれていた。まさか、そんな意図があったなんて思いもしなかったけれど。
「ま、でも傑に負ける気はしないけどね。僕、最強だから」
「悟が私に勝てる要素なんて、何かあったかい?」
「は?何それ。また喧嘩売ってんの?」
「先に仕掛けてきたのはそっちじゃないか」
またも睨み合いを始めてしまう二人。しかし、そんな二人の言い合いを他所に、私は少し考え込んでいた。
先生二人が私を想ってくれていたことは素直に嬉しいと思うし、それを知って胸が高鳴ったのも事実だ。
でも、どこか釈然としない自分もいる。一回り年上のイケメン二人から迫られるって、そんな非現実、ゲームの中でしかお目にかかれない。
「夢子、難しい顔して何考えてんの?」
「え?いや……先生二人とも私と違って大人だし、からかわれてるのかなぁって思って」
少し上の空で考えていたせいで、私はつい思ったことをそのまま口にしてしまった。
私の言葉を聞いた途端、五条先生と先生はお互いに顔を見合わせる。そして次の瞬間には二人は同時に不敵な笑みを覗かせた。
「じゃ、試してみよっか」
「そうだね。どっちが夢子にふさわしいか、分からせてあげよう」
背筋に寒気が走る程、素敵なイケメン二人の笑顔が恐ろしい。焦る私が疑問の声をあげる間もなく、次の瞬間にはふわりと体が浮いた感覚に襲われた。
「ちょ……っ!先生たち!?」
突然の浮遊感に驚いて声を上げるが、五条先生に抱えられているせいで身動きが取れない。逞しい腕で肩に担ぎ上げられたまま、二人の先生は校舎に向かって歩き出してしまう。
「夢子〜頑張れよ。骨は後で拾ってやるから」
「パンダ!ちょっと!笑ってないで助けて」
「おかか」
パンダと棘は、まるで他人事のように私たちを見送る。私は二人に助けを求めたが、どちらともニヤニヤしながら手を振ってくるだけだ。
まさか、さっきのパンダの憎らしい笑いは、コレを予想していたからだろうか。
「じゃあね、みんな。今日の訓練はこれで終わり!夢子とデートしてくるから、また後でね」
そう言って、五条先生は私を抱えたまま廊下を進んでいく。
「ちょっと!先生!」
「こら、暴れない。お尻触っちゃうよ?」
堂々とセクハラ予告されて、抵抗を止めた。私の反抗も虚しく、先生たちはそのまま足を進めていく。
仮眠室と書かれた部屋の前で止まると、五条先生は器用にその部屋のドアノブを片手で回した。
「え……五条先生、ここって……」
「僕たちがいつも使ってる仮眠室だよ」
そう言いながら、五条先生は部屋の中へ入っていく。そしてそのままベッドの前まで行くと、私をそっとシーツの上に下ろした。
「さてと……ここなら邪魔は入らないよ」
ここぞとばかりに目隠しの布を外しながら、こちらを見下ろしてくる。五条先生の瞳はいつも通り青くて綺麗だけど、どこか怪しく光っているように見えた。
「選ばせてあげる。どっちがいい?」
唐突な問いに、私は目を白黒させる。
ベッドに腰掛けている私の目の前に、五条先生がしゃがんで視線を合わせてくる。顔を傾けて、こちらをじぃっと覗き込んでくるので、何となく恥ずかしくて視線を逸らした。
後ろには、相変わらず笑顔の夏油先生が腕を組んで立っていた。
「ねーねー、夢子。どっちが好きか、早く選んでよ」
「え……選ぶって……」
私は二人の顔を交互に見る。
どちらもニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべてはいるが、その瞳は笑っていない。まるで獲物を狙う獣のような視線に射抜かれて、身動きができなくなる。
「夢子が好きなのはどっち?もちろん僕だよね」
「私は悟みたいに強引に迫るようなことはしないけど、夢子の口から私の名前が聞きたいな」
ああ、これは答えるまで帰らせてもらえそうにない。ごくりと唾を飲むと、二人の顔を交互に見比べた。
「私が好きなのは……」
END.