五条悟
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【夢子視点】
「チョコレートならいつでもウェルカム!」
近づいてきた五条先生がいつもの軽いノリで両手を広げた。廊下で一緒に話をしていた私と野薔薇と真希先輩は、先生のセリフの意図を理解するまで数秒かかった。
「あぁ、そういえばバレンタイン。私、本命にしかあげない主義。義理とか金の無駄」
「悟はいっつも大量に五条家の実家に届いているだろうが。知ってんぞ」
辛辣な野薔薇と真希先輩を前に、
「え、ちょっ、僕の教え子たち冷たい。一人くらいくれたっていいよね」
ぶりっ子の仕草で五条先生がチョコをねだると、真希先輩は溜め息をついた。
「私も野薔薇も、悟にやるチョコはない」
そう言った後で、先輩は私を見た。
「夢子は、本命いるしな」
ニヤニヤする先輩が指で優しく私の頬をつついてくる。思わず私は目を見開いた。
「ま、真希先輩!」
好きな人がいるって人前でバラしているようなものじゃないか!しかも、私の好きな五条先生の前で言わなくてもいいじゃないか、真希先輩!
私がアワアワしながら先輩に縋って、「言わない約束だったでしょ」と視線で抗議すると、フッと影が落ちる。顔を上げると、
「……で、夢子は誰が好きなの?」
屈んだ五条先生の顔が迫る。目隠しをしているから、表情は分からないが、少しだけ怒気をはらんでいるのは気のせいだろうか。
香水なのか、先生から良い香りがする。急激にブワッと自分の顔が熱を帯びるのを感じた。
「い、言いません!」
先生の顔が近付くのに耐えきれず、私はダッシュで逃げ出す。
「あーあ、無理矢理迫る男は嫌われるぞ」
「チョコが欲しいって、先生も素直に本人に言えばいいのに」
「えー、いや、だって、教師がガチで生徒にチョコ欲しいって言ったら引かれない?」
「アイツ押しに弱いから、引く前に押し込めばいいだろ」
「真希先輩……なんかよく分からないけどカッコイイ」
「じゃあ、真希のアドバイス通り、チョコ欲しいってグイグイ押してみよっかなー」
「悟が夢子に嫌われても、私らのせいじゃないからな」
そんな会話を3人がしてるなんて、私は知る由もない。
結局、五条先生のチョコ欲しい攻撃に負けて、持っていたチョコを奪われるような形で差し上げた。
「ホワイトデー期待しててね」と、とびきりの笑顔を見せられて、心臓が跳ね上がる。先生の笑顔が眩しすぎて、生きてて良かったと思いながら涙が出てしまった。
通り掛かった悠仁と恵に盛大に誤解され、なにやら先生が責められていた。そんな今年のバレンタインデー。
ホワイトデーに先生から告白されるのは、また別なお話。
END.
【五条視点】
「バレンタインねぇ……」
バレンタインデーの本日。
他の術師や補助監督からゴチャゴチャッとバレンタインチョコをもらった。もらったというか、いつの間にか教員室の僕のデスクに積み上げられていたというのが正しいか。
伊地知が要らない気を利かせて、コレは誰から、ソレは誰からとチョコの包装紙にメモが貼られている。
「面倒だな。ホワイトデーのお返しは、全員一緒の菓子詰め合わせで返すかな」
片手でチョコの山を崩しながら、片思いの相手の名前が無いか探す。
「分かっちゃいるけど、無いよねぇ」
本命のあの子が頭に浮かぶ。
いい年した大人が、一回りも下の生徒に熱を上げるなんて、自分でも気持ち悪いんじゃないかと苦笑する。
幼さが残る顔立ちに似合わず、戦う時は勇ましいあの子。笑うと、花が咲いたような可憐さで周りを魅了してやまない可愛い生徒だ。
ついでに、胸の大きさにこだわりはないが、腰から尻にかけてのラインが理想ドンピシャで目を奪われる、性欲に従順な自分に嫌気が差す。体術の授業でヘソがチラリと覗いた日にゃあ、下半身が反応しそうになった。
そう、彼女の色んな所が好きだ。
「教師と生徒でも、双方同意で真剣に付き合うんなら問題ないだろ」
と、生徒の真希には鼻で笑われた。何気なく悩みを洩らす相手を間違えたと思ったが、
「私の可愛い後輩を弄んで泣かしたら、絶対に許さないからな」
と言いながらも、僕に情報をくれたりする。
そして、夢子がどうやらチョコを買っていたらしい。誰に渡すのかは、さすがに真希も教えてくれなかったが、ニヤニヤしながら視線を送られた。
もしかして、僕も貰えたりするかもしれない。自惚れながら少しの期待を込めて、彼女の呪力の気配を探す。
「わ、五条先生」
廊下を曲がると同時に、ターゲット発見。少し驚いたように後退るあの子が、何かを体の後ろに隠したのを見逃さなかった。
「ねー、僕にチョコくれないの?」
「五条先生いっぱい貰ってますよね。伊地知さんから聞きましたよ」
「僕は君から貰いたいんだけど?後ろに隠してるソレ」
「え、あ、先生……よく見てますね」
「僕は手段を選ばない質なんだ」
そんな会話の果てに、彼女の手にあるチョコが入ってると思われる箱に、僕は手を伸ばす。
手が触れ合った瞬間に、ピクンと相手の手が震えた。動揺した隙に、僕よりも小さい手から薄いピンク色の包み紙の箱を奪う。
「先生、それ強奪ですからねっ」
ぴょんぴょん飛び跳ねつつ、僕の手から箱を取り返そうとする可愛い意中の相手の頭に手を置き、奪い返しを阻止する。思わず口元が緩んでしまう。
「……ほら、やっぱり『五条先生へ』って書いてある。ホワイトデー期待しててね」
箱に貼られた可愛いシールに書かれた「五条先生へ」を見て、自分でも驚くほどに自然と笑顔になっていたと思う。
むしろ、締まりの無い顔をしてしまっていたかもしれない。好きな相手から無理矢理チョコを奪った形になったが、ゲットできた喜びに浸っていると、
「……う、っ、うう……」
急に彼女が顔を赤くして泣き出してしまった。ヤバイ、やり過ぎて泣かせてしまった。そんなに僕にチョコを渡すのが嫌だったのかと焦ったが、
「五条先生いっぱい貰ってるから、私の要らないんじゃないかと思った……」
今日中に渡せて良かった、と。小声でこぼれた彼女の本音を、僕は聞き逃しはしなかった。
「先生、ホワイトデーは美味しいお菓子くださいね」
涙目で頬を膨らませる彼女に、僕は絶対だらしない顔でニヤけていたと思う。
それから、通り掛かった悠仁と恵に、彼女を虐めていると誤解されて責められる事態になった。多分、二人が来なかったら、廊下で堂々と彼女を抱き締めて口付けていたかもしれない。
「僕と付き合って下さい」
と、ホワイトデーに伝えたら彼女は頷いてくれるだろうか。一ヶ月後に向けて、告白とお返しのアイデアを練る。
今日は彼女のチョコを食べることだけを楽しみに、午後の任務を頑張ろうと思った。
END.