夢短編集SS
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夕方のパチンコ店。
ジャラジャラと鳴る玉の音。
カウンターの奥で働くナマエ。
そこへ、だらけた歩き方で近づいてくる銀時。
「よォ。働いてる姿、初めて見たけど」
「何しに来た」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「嫌な予感しかしない」
銀時は台の並びをちらっと見て、声を潜める。
「釘打ちが甘い台ってどれ?」
「知らねーよ」
「いやそこをさ」
「知ってても教えるわけねーだろーが」
「冷てェな」
「当たり前だ」
「俺たちの仲じゃん」
「どんな仲だ」
「ほら、こう……人生の荒波を共に乗り越える仲」
「パチンコで人生語んな」
「ちょっとくらいいいだろ」
「ダメ」
「一台だけ」
「ダメ」
「ヒントでも」
「ダメ」
「せめて方向だけ」
「みなさま、あちらの方に歩いていかれますね」
「交換所の場所聞いてるわけじゃねーんだけど!? つか特殊景品持ってねーし!! 悲しいこと言わせないでくれる!?」
「くそォ……」と呟き、銀時は台の列を眺める。
「じゃあ逆に聞くけど、一番ダメな台どれ?」
「全部」
「夢も希望もねェ」
「パチンコに夢見てる奴の方が怖い」
「俺は夢を買いに来てんだよ」
「玉で?」
「玉で」
ナマエはため息をつく。
「ちなみに、今日の銀時の軍資金は?」
「……千円」
「帰れ」
「なんでだよ!!」
「うちの店、そんな慈善事業じゃない」
「千円で奇跡が起きる可能性だってあるだろ!」
「ない」
「断言すんな!」
「銀時が来た時点で期待値マイナス」
「店員が客に言うセリフじゃねーだろ!!」
銀時の背後の台からジャララララララ!!! と、大当たりの音。
ゆっくりと振り向く銀時。大当たりしているのは銀時の隣の台に座っていた客。
「ほら、奇跡」
「俺じゃねーじゃねーか!!」
「だから言った」
「くそォォォ!!」
「千円あるんだろ」
「ある」
「夢見てこい」
「くそ……」
銀時は台へ歩く。そして三分後。
「終わった」
「早すぎるだろ」
「設定が辛すぎる」
「だから言った」
「お前絶対知ってただろ!! 千円が三分で消えたぞ!?」
「優秀な客だ」
「褒めんな」
銀時はカウンターに肘をつく。
「お前さァ、さっきから夢壊すことばっか言いやがって」
「夢?」
「そうだよ。パチンコには夢があるんだよ」
ナマエは鼻で笑う。
「だいたい、パチンコで稼ごうなんて考えが甘いんだよ。あんたらの負けが、私らの給料になってんだから」
「夢も希望もねーこと言うんじゃねーよ!!」
「現実だ」
「もっとオブラートに包めよ!!」
「じゃあ言い方変える」
「おう」
「あなたの負けが、私の生活を支えています。本日も私の糧になっていただき、誠にありがとうございます」
「同じだろ!!」
「優しく言った」
「優しくねェ!!」
ナマエは肩をすくめる。
「まあ、また来いよ」
「……慰め?」
「私の給料のために」
「客をATM扱いすんな!!」
ジャララララララ!!! と大当たりの音。
ゆっくり振り向く銀時。また別の客が大当たりフィーバー。
「ほら、夢」
「うるせェ」
「あっちには希望」
「うるせェ」
******
パチンコ店で、台の前で放心している銀時
財布、空。
玉、ゼロ。
「千円が三分で蒸発した」
ふらふらとカウンターへ歩く。
そこにいるのは働いているナマエ。
「終わった?」
「終わった」
「早いな」
「夢ってこんな早く終わるもんなの?」
「うん」
「うんじゃねーよ」
銀時はカウンターに寄りかかる。
「なんで当たんねーんだよ」
「そもそもパチンコで稼げる人ってのはな、台のクセや設定状況を毎日データ分析できて、一日で10件以上のパチ屋巡ったり、そういう地道な努力ができる人じゃねーとできねーんだよ」
「マジレスやめろよなお前!!」
「現実だ」
「もっとこう、夢とかロマンとかあるだろ!!」
「ない」
「即答すんな!!」
「パチンコは、統計と資金管理と情報戦」
「大学の講義みてーな説明すんな!!」
「ちなみに銀時の軍資金」
「千円」
「論外」
「言い方ァ!!」
「その資金じゃデータ取りすらできない」
「俺は研究者じゃねーんだよ!!」
「ギャンブルは研究だ」
「パチンコ学者じゃねーか!!」
別の台がジャララララララ!! と、大当たり。くたびれたスーツのサラリーマンのオッさん、フィーバー中。
「……あいつ努力してんのか?」
「してない」
「じゃあなんで当たってんだよ!!」
「運」
「最初からそれ言えェェェ!!」
「でも、長期的には負ける」
「夢を殺すなァァァ!!」
「まあ、また来いよ」
「慰め?」
「データが増える」
「俺をサンプル扱いすんな!!」
******
パチンコ店。
台の前で項垂れている銀時。
財布の中、もちろん空。
ゆっくり立ち上がり、カウンターへ歩く。そこにいるのは働いているナマエ。
「もう終わった?」
「終わった」
「早いな」
「千円が三分で蒸発した」
「いつも通りだ」
「慰めろよ!!」
銀時はカウンターに寄りかかる。
「なんでこんな当たんねーんだよ」
「そもそもの話、パチンコ打ってラクに金稼ごうとする方が間違ってんだよ。あんなもん、ただの万札吸い込みマシーンだからな」
「夢壊すなァァ!!」
「現実だ」
「客の前で言うセリフじゃねーだろ!!」
銀時は台の列を指差す。
「じゃあ何か? この店に並んでるの全部、万札吸い込みマシーン?」
「そう」
「店員が、んなこと言っていいのかよ」
「いいんだよ。給料そこそこ高いから仕事しているだけだしな」
「最低だなお前!!」
「現実主義と言え」
「夢売る商売の店員が言うことじゃねー!!」
「夢は客が勝手に見るもの」
「哲学語るな!!」
「世の中には『まどかちゃん、お年玉だよ〜』って言って、正月早々まどマギの台に万札ぶっ込むオッさんもいるんだからな」
「知りたくなかった!!」
「そのオッさん、惜しげもなく万札ぶっ込んでいたんだぞ。資金力においてはお前、そのオッさんより下だからな」
「知りたくなかった!!!」
******
パチンコ店。
なおもフィーバーしている客を、銀時が親指で指す。
「見ろよ。あいつ、めっちゃ出てるぞ」
「出てるな」
「夢あるじゃねーか」
「ない」
「否定早ェよ!!」
「ああやって大当たりしている客だって、トータルで見れば負けてることがほとんどだからな。一時的な10万の勝ちはよく覚えているのに、合計50万の負けは覚えてねーんだからよ」
「夢も希望もねェ分析やめろォ!!」
「現実だ」
「なんでそんな詳しいんだよ!!」
「仕事だからな」
「仕事で人の夢ぶっ壊すな!!」
「ちなみに銀時、パチンコで当たった最高金額覚えてる?」
「……5万」
「過去合わせていくら負けてる?」
「…………覚えてない」
「ほらみろ」
「やめろ」
「典型的なパターン」
「やめろ」
「人間は勝った記憶だけ残る」
「やめろって!!」
大当たりしていた客の玉終了。店員が箱を回収し、客が席を立つ。
「ほら。あいつは勝っただろ」
「違う。今日はたまたま勝っただけ。人生では負けてる」
「言い方ァァァ!!」
「統計だ」
「パチンコで人生語るな!!」
「ちなみに」
「まだあるの?」
「パチンコは、客の記憶力の弱さで成り立っている。あと射倖心をさりげなく煽ること」
「恐ろしい商売だな!!」
「そうだ」
「なんでそんな冷静なんだよ!!」
「給料高いから」
「そればっかりか!!」
「で」
「何」
「また打つ?」
「…………千円貸して」
「帰れ」
「くそォォォ!!」
パチンコ店に銀時の叫びが響いた。
******
パチンコ店で財布の中身を確認する銀時。
残金:千円。
「くっそ……」
「まだ打つのか」
「当然だろ」
「懲りないな」
銀時は台の並びを見て、決意した顔で言う。
「とりあえずジャグラー打ってくるわ」
「オッさんって絶対にジャグラー打つよな」
「誰がオッさんだ、誰が」
「あとハナハナか海物語」
「偏見だ!!」
「偏見じゃない。その三種類を好んで打つのはオッさんしかいないって相場は決まっているんだよ」
「うるせーよ!!」
ナマエは店内を指差す。
「見ろ」
ジャグラーコーナー。
ほぼ全員、中年男性。
「ほら」
「……たまたまだ」
「じゃあ海コーナー」
海物語コーナー。
オッさんの海。
「次、ハナハナ」
「やめろ」
ハナハナコーナー。
完全にオッさんの花畑。
「やめろ」
「どう見てもオッさんゾーン」
「俺は違う!!」
「じゃあ何」
「若者だ」
「目死んでる」
「パチンコ屋で輝いてる若者なんていねーよ!!」
「じゃあ若者は何打つ?」
沈黙する銀時。
「正解はスマスロ」
「知らねェよ!!」
「時代についてこい」
「うるせェ!!」
その時ジャグラーコーナー、ペカる。
「俺を呼んでる」
「呼んでない」
「俺を呼んでる」
「ジャグラーは誰も呼ばない」
「運命だ」
「錯覚」
「行ってくる」
「行くのか」
「おう」
銀時は歩き出す。
ジャグラーコーナーへ。
オッさんたちの中へ。
ナマエが小さく呟く。
「完全にオッさん」
「聞こえてんぞ!!」
ジャグラーの椅子に座った銀時、周囲のオッさんたちにちらっと見られる。
オッさんA「新人か」
オッさんB「頑張れ」
「なんで仲間扱いされてんだよ!!」
「歓迎されてるな」
「オッさんコミュニティやめろォォォ!!」
******
パチンコ店・ジャグラーコーナー。
おっさんたちに囲まれて台を打つ銀時。
レバーオン。
しかし何も起きない。
どんどんメダルが消えていく。
またレバーオン。
しかし何も起きない。
「順調に吸われてるな」
「見物すんな!!」
ナマエはふと思いついた顔をする。
「……なあ。サンドがクレカ使用可になったら面白くなりそうじゃね?」
「しれっと恐ろしいこと言うな!!」
「今は現金のみだからな」
「それで十分怖ェよ」
「でもクレカなら、財布空でも打てる」
「やめろ」
「無限に玉もメダルも出せる」
「やめろ」
「夢のシステム」
「地獄のシステムの間違いだろ!!」
「しかも」
「まだあるの?」
「決済方法はリボ払いのみ」
「悪魔か!!」
「安心」
「何が」
「月々の支払いは少額」
「その代わり一生払い続けるやつだろ!!」
「パチスロ一生打ち続けられる」
「地獄の永久機関!!」
その時、銀時のジャグラーがペカる。
「!!」
「お」
「光った!!」
「ボーナス」
「見ろ!! 夢あるだろ!!」
「それクレカだったら、借金の光」
「やめろォォォ!!」
隣のオッさんがぼそっと「リボはやめとけ」と言う。
「経験者か!!」
「まだ五十万残ってる」
「リアルな警告やめろォォォ!!」
「ほら、教育」
「身体張った教育すんな!!」
******
パチンコ店・ジャグラーコーナー。
GOGOランプが光り、テンションが上がっている銀時。
「見ろ!!」
「見てる」
「やっぱジャグラーは夢あるんだよ!!」
「数分後に回収される夢」
「言い方ァ!!」
銀時がメダルを流す。
まだ少し出ている。
「ほら見ろ。俺は勝つ男だ」
「たぶんトータル負け」
「黙れ!!」
ナマエは少し考え込む。
「あとさ」
「まだなんかあんの?」
「消費者金融カードローンがパチ屋の近くにできても面白いと思うんだ」
「お前客のこと、なんだと思ってんの!?」
「
「最悪なルビふるな!!」
「でも便利じゃん」
「どこがだ!!」
「負ける」
「うん」
「金借りる」
「うん」
「また打てる」
「永久機関やめろ!!」
「夢が続く」
「借金が続くだけだろ!!」
「しかも」
「まだあんの!?」
「ATMと直結」
「悪魔のインフラ整備すんな!!」
隣のオッさんがぼそっと言う。
「もうあるぞ」
「え?」
「駅前の店」
「マジかよ」
「負ける」
「うん」
「借りる」
「うん」
「また打つ」
「お前らそのループ好きすぎだろ!!」
「理想のビジネスモデル」
「理想じゃねぇ!!」
「客も楽しめる」
「未来が楽しめねェよ!!」
銀時のジャグラー、GOGOランプ消灯。
メダルも消滅。
「ほら。そろそろ借りる?」
「借りねェよ!!」
オッさん「最初はみんなそう言う」
「怖ェよこの店!!」
******
別のパチンコ店。
店内に響くジャラジャラ音。
海物語の島でハンドルを回す銀時。
どんどん吸い込まれていく銀色の玉。
「くそ……」
隣の台に座ろうとしていた人物、ナマエがいた。
「げっ。なんでいんの」
「そりゃパチ屋だからな」
「答えになってないし」
「じゃあ聞くけど、お前こそ何してんだよ」
「何って」
「パチスロのこと金吸い込みマシーンとか言ってたくせに」
「言った」
「打つのな」
「まあな」
ナマエは台に座る。
「少し高いゲーセンみてーなもんだからな」
「金のかかるゲーセンすぎるだろ」
「ゲーセンだって金かかるだろ」
「100円だろ」
「こっちは千円」
「桁違いだよ!!」
「その代わり、当たれば増える」
「それに騙されてる奴がここにいるんだよ!!」
「誰」
「俺」
「知ってる」
「即答すんな」
ナマエはハンドルを回す。
玉が発射され、海の生き物たちが回転する。
「ほら、ただのゲーム」
「玉減ってる」
「ゲーム」
「減ってる!!」
「ゲーム」
「現実見ろ!!」
ナマエの台が激しい音と光を放つ。
銀時「!!」
「お」
「おい」
「当たった」
「おい!!」
「ゲーセン」
「違う!!」
「ちょっと高いゲーセン」
「勝ってる奴が言うセリフじゃねー!!」
「運」
「くそォ……」
銀時の台では、銀色の玉たちがどんどん吸い込まれていく。
銀時「…………」
「ほら。金吸い込みマシーン」
「お前さっきゲーセンって言ってただろ!!」
「人による」
「俺だけ機械扱いすんなァァァ!!」
******
パチンコ店・ジャラジャラと玉の音がする。
隣同士で台を打っている銀時とナマエ。
台を睨む銀時。
しかし何も起きない。
「あー、くそ……」
席を立とうとする銀時に、ナマエが声をかける。
「どうした。もう打たないのか?」
「金がねーんだよ」
「もったいねーな」
「何が」
「貸してやろうか?」
「……どういう風の吹き回し?」
「気まぐれ」
「絶対裏あるだろ」
「ない」
ナマエは千円札を差し出す。
「……マジで?」
「打て」
「神か?」
「違う」
「天使か?」
「違う」
「悪魔?」
「近い」
「怖ェよ」
千円をサンドに入れると、台に玉が流れ始める。
「頼むぞ……」
数秒後に突然、キュインキュインキュイン!! と大音量で鳴り響く銀時の台。
銀時「うお!?」
画面が派手に光る。
大当たり演出。
銀時「うおおおおお!!」
「ほらな」
「すげーな、お前!!」
「運だ」
「神じゃねーか!!」
銀時の台、フィーバー開始。
ジャラララララ!! と、勢いよく玉が出る。
銀時「見ろ!!」
「見てる」
「奇跡だ!!」
「千円の奇跡」
「返す! あとで倍返しする!!」
「期待してない」
しかし、玉が止まる。
銀時「……?」
「あ。玉詰まり」
「なんで大当たり中に玉詰まるんだよ!!」
「運だな」
「さっきから運の使い方おかしいだろ!!」
店員「申し訳ありません」
台を開ける店員。
「早く!!」
店員「すぐ直します」
「落ち着け」
「落ち着けるか!!」
画面ではフィーバー演出が進んでいる。
玉は出ていない。
「減ってる!!」
「減ってるな」
「俺のボーナス減ってる!!」
「パチンコあるある」
「あるあるじゃねー!!」
店員「直りました」
玉が再び出てくる。
「おおお!!」
「良かったな」
「心臓止まるかと思った」
「ちなみにその千円、トイチで返せよ」
「ヤクザか!!」
******
パチンコ店。
玉がカンカン跳ねる中、台を睨む銀時。
その隣にはナマエ。
玉が釘に引っかかり、まとまってワープ釘へ流れ始める。
「……?」
玉が連続で入る。
さらに入る。
さらに入る。
「お?」
玉の流れが止まらない。
回転数がどんどん上がる。
「うおっしゃラッキー!!」
「……」
「このまま回転数が上がれば……神台じゃねーか!!」
ナマエは静かに立ち上がり、店員に向かって手を上げる。
「すいまっせーん! ブドウ状態になったんで直してくださーい」
「お前悪魔なの!?」
「うるせーな」
「今めちゃくちゃいい流れだったのに!!」
「店的には異常状態」
「客的には神状態だろ!!」
店員「失礼します」
台を開ける。
「待て!!」
店員「調整します」
「俺の楽園が!!」
「ほっといたら、ゴト行為と間違われて出禁になるぞ」
「俺何もしてねーよ!!」
「店はそう思わない」
「理不尽!!」
ブドウ解消され、銀時の台は通常状態になる。
全然入らない。
「はい」
「はい、じゃねーよ」
「正常」
「夢返せ!!」
「夢じゃない。不具合」
「客の夢を不具合扱いすんな!!」
「ちなみにブドウで当たっても、店員来るぞ」
「今それ体験したよ!!」
「つまり、最初から勝てない」
「夢も希望もねェ!!」
「パチンコだからな」
「名言みたいに言うな!!」
