夢短編集SS
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薄暗い部屋で、銀時は満足げに頷いた。
窓には鉄格子。
扉には頑丈な鍵。
逃げられないよう、食事も寝床も全部用意した。
銀時「これで……これでお前はずっと俺と一緒だ」
完全にヤンデレの顔である。
部屋の中央では、ナマエが毛布にくるまっていた。
ナマエ「…………」
銀時「もう危ねぇ目にも遭わねぇし、嫌なこともしなくていい。俺だけ見てりゃいい」
ナマエ「…………」
銀時「な?」
ナマエ「…………うん」
銀時「…………よし」
その返答に、手応えを感じる。
ちょろい。
もう完全に依存しかけてる。
銀時「ちょっと飲み物取ってくる」
ナマエ「いってらっしゃい」
【数分後】
銀時「戻ったぞ〜…………あれ?」
部屋、空。
毛布だけ。
銀時「…………は?」
鉄格子そのまま。
鍵も閉まったまま。
でも、いない。
銀時「えっ!? 待て待て待て!! なんで!?」
【居間】
ナマエ「みかんあった〜」
銀時「いたァァァ!!!」
ナマエ「おかえり」
銀時「なんで出てんの!?」
ナマエ「なんか出れた」
銀時「なんかで出るな!!」
ナマエ「いや〜隙間あったから」
銀時「どこに!?」
ナマエ「ここ」
ナマエ、壁際を指差す。
銀時「いや無理だろ!! ハムスターじゃねぇんだから!!」
ナマエ「にゅるるって」
銀時「にゅるるじゃねぇ!!」
ナマエ「でも出れたよ」
銀時「おかしいだろ!!」
銀時、急いで確認。
銀時「…………マジで通れる隙間じゃねぇ……」
ナマエ「頑張った」
銀時「頑張るな」
ナマエ「あと針金あったから」
銀時「なんで見つけるんだよ!!」
ナマエ「なんか落ちてた」
銀時「監禁向いてなさすぎる……」
ナマエ「というか、監禁するならもっとちゃんとしなよ」
銀時「ダメ出しされてる!?」
ナマエ「愛が足りない」
銀時「愛はあるだろ!!」
ナマエ「詰めが甘い」
銀時「監禁犯に対して使う言葉じゃねぇ!!」
【数日後】
銀時「今度こそ完璧だ……」
強化された檻。
二重ロック。
隙間ゼロ。
銀時「フフ……」
銀時「これで逃げられ——」
ナマエ「銀時〜お茶どこ〜?」
銀時「なんで外にいるんだよォォォ!!!」
【薄暗い監禁部屋(五回目)】
銀時「…………なんで……なんで毎回脱走できんだよ……」
ナマエ「いや〜、今回ちょっと難しかった」
銀時「攻略感覚で言うな!!」
ナマエ「でも換気口広かったよ」
銀時「広くねぇよ!!」
ナマエ「にゅるるって」
銀時「その擬音やめろ!!」
銀時、ガシッと肩を掴む。
銀時「お前、監禁って知ってる!?」
ナマエ「知ってる」
銀時「共依存快楽堕ちって知ってる!?」
ナマエ「知ってる」
銀時「ヤンデレって知ってる!?」
ナマエ「あー、うんうん。1735年に起きたアレね」
銀時「てきとーに言ってるだろそれ!!」
ナマエ「え、違うの?」
銀時「違うわ!! 歴史用語みてぇに言うな!!」
ナマエ「じゃあ1842年?」
銀時「年号から離れろ!!」
ナマエ「共依存の乱」
銀時「起きてねぇよ!!」
ナマエ「ヤンデレ事変」
銀時「幕末みたいに言うな!!」
ナマエ「監禁維新」
銀時「もうただの日本史なんだよ!!」
銀時、頭を抱える。
銀時「違うんだよ……こう……もっとあるだろ」
ナマエ「なにが」
銀時「『お前がいなきゃ生きていけない……』とか」
ナマエ「うん」
銀時「『俺だけ見ろ……』とか」
ナマエ「うんうん」
銀時「『逃げたらダメだ……』とか」
ナマエ「でも逃げれたよ」
銀時「逃げるなァァ!!」
ナマエ「いや閉じ込められてたし」
銀時「そこをなんとか!!」
ナマエ「なんとかとは」
銀時「空気読め!!」
ナマエ「監禁されてる側に求める空気じゃない」
銀時「くそ……これ夢小説だよ!?」
ナマエ「知ってる」
銀時「なんでそんなドライなんだよ!!」
ナマエ「いやだって、監禁されてもお腹空くし」
銀時「現実的!!」
ナマエ「あとお風呂入りたい」
銀時「生活感!!」
ナマエ「それに、普通に会いに来ればいいじゃん」
銀時「…………それじゃヤンデレにならねぇだろ」
ナマエ「難儀だねえ」
銀時「お前が言うな!!」
【監禁部屋・改】
銀時「……フフ。今度こそ完璧だ……」
鉄格子強化。
電子ロック導入。
換気口補強済み。
銀時「これで逃げられねぇ……」
【数時間後】
銀時「戻ったぞ」
部屋、空。
銀時「…………は?」
机の上にはメモ。
『紅茶ありがとう。クッキーおいしかった』
銀時「違うそうじゃない。なんでいねぇんだよォォォ!!!」
【居間】
ナマエ「おかえり〜」
みかん食ってる。
銀時「なんで外にいるの!?」
ナマエ「いや〜今回ちょっと凝ってたね」
銀時「凝ってねぇよ!! 監禁だよ!!」
ナマエ「最初ちょっと苦戦したんだけど」
銀時「苦戦するな」
ナマエ「このベッド、とある順番で叩くと道具が出てきて」
銀時「出てこねぇよ」
ナマエ「色が違う床に差し込むと隠し扉が開いて」
銀時「開かねぇよ」
ナマエ「そこに掘られてた暗号を解くと隠し鍵の居場所が——」
銀時「脱出ゲーム組んだ覚えねーんだけど!?」
ナマエ「あと本棚の本の並び順がヒントになってた」
銀時「なってねぇ!!」
ナマエ「フェイクも多くて苦労した」
銀時「存在しない苦労をするな!!」
ナマエ「でも最後のギミックは綺麗だった」
銀時「ギミックじゃねぇ!!」
ナマエ「特に壁の数字」
銀時「ただの施工番号!!」
ナマエ「ちなみに三回くらいバッドエンド入った」
銀時「人生をゲーム感覚で監禁されるな!!」
ナマエ「でも今回のルート好きだよ」
銀時「ルート制じゃねぇんだよ!!」
銀時、頭を抱える。
銀時「なんでこうなるんだ……」
ナマエ「銀時、才能あるかも」
銀時「何の!?」
ナマエ「脱出ゲーム制作」
銀時「監禁犯として見てくれよ!!」
ナマエ「でも監禁にしては遊び心ある」
銀時「ねぇよ!!」
ナマエ「あと換気口のところ、風が来てたから怪しいなって」
銀時「ただの換気だよ!!」
ナマエ「監禁下での違和感演出かと」
銀時「演出じゃない!! 生活環境!!」
ナマエ「次はもっと難しくしてね」
銀時「次がある前提で話すなァァ!!!」
【監禁三日目】
ナマエの様子がおかしい。
いつもなら「暇〜」とか、「お茶〜」とか、「脱出ゲーム始めるか」とか言い出すナマエが妙に静かだ。
銀時「おい」
ナマエ「んー……」
銀時「顔色悪くね?」
ナマエ「そう?」
銀時「そう」
なんかだるそう。
熱でも出たかと思い額に手を当てる。
銀時「熱は……ねぇな」
ナマエ「なんか痒い」
銀時「痒い?」
ナマエ「手首」
手首を見ると、拘束具の当たっている部分が真っ赤。
銀時「!?」
ナマエ「おー」
銀時「おーじゃねぇ!!」
銀時、慌てて拘束具を外す。
ナマエ「痛くはないけど痒い」
銀時「なんだこれ」
ナマエ「さあ」
銀時「待て。まさか……金属アレルギー?」
ナマエ「えっ」
銀時「えっ」
ナマエ「私?」
銀時「お前」
ナマエ「そんなの今までなかったけど」
銀時「俺も知らねぇよ!! 病院行くぞ」
ナマエ「そこまで?」
銀時「そこまで」
ナマエ「監禁中なのに?」
銀時「監禁どころじゃねぇんだよ!!」
【病院】
医者「金属アレルギーの可能性がありますね」
銀時「可能性」
ナマエ「可能性」
医者「検査してみないと断定はできませんが」
銀時「……」
ナマエ「……」
【帰宅】
銀時「……監禁失格だ」
ナマエ「何の資格だよ」
銀時「監禁対象のアレルギーすら把握してねぇ」
ナマエ「普通把握しないから」
銀時「いやでも、なんかあったらどうすんだよ」
ナマエ「別に死んでないじゃん」
銀時「そういう問題じゃねぇ」
ナマエ「……なんか今さらだけど、監禁犯とは思えない発言してるね」
銀時「うるせぇ」
その後、銀時は金属製の拘束具を全部撤去。
銀時「これなら大丈夫だろ」
ナマエ「布?」
銀時「布」
ナマエ「監禁する気ある?」
銀時「ある」
ナマエ「ないだろ」
銀時「くそっ……」
ナマエ「ところでこの布、解けそう」
銀時「やめろ」
ナマエ「解けた」
銀時「早ぇよ!!」
結局その日のうちに脱走された。
病院から帰宅後。銀時はテーブルに肘をつき、深いため息を吐いていた。
監禁した。
アレルギー反応出た。
病院行った。
脱走された。
監禁犯としてもヤンデレとしても散々である。
ナマエ「ねえ」
銀時「なんだ」
ナマエ「見て見て」
手首を差し出すと、そこには赤く残ったアレルギーの跡。
ナマエ「アレルギーの跡さ、夏祭りでつける光るブレスレットみたい」
銀時「俺の心の傷を無意識に抉るな。何が『見て見て』だ」
ナマエ「きれい」
銀時「きれいじゃねぇ」
ナマエ「ほら、緑に光りそう」
銀時「光らねぇよ」
ナマエ「パキッて折ると」
銀時「それ化学反応だから」
ナマエ「シャカシャカ振ると」
銀時「だから違うって」
ナマエ「でもちょっと似てない?」
銀時「似てねぇ」
ナマエ「似てるよ」
銀時「似てねぇ」
ナマエ「似てる」
銀時「似てねぇ」
新八「小学生の喧嘩ですか」
神楽「銀ちゃん余裕なさすぎアル」
ナマエ「というか私、金属アレルギーだったんだね」
銀時「俺も初めて知った」
ナマエ「びっくり」
銀時「俺の方がびっくりだよ」
ナマエ「なんで」
銀時「監禁三日目で発覚したからだよ!!」
ナマエ「タイミング悪かったねえ」
銀時「悪かったねえじゃねぇ!!」
ナマエ「でもさ、普通に生活してたら気付かなかったかも。監禁のおかげで発見できた」
銀時「監禁を健康診断みたいに言うな」
新八「前向きすぎる!!」
神楽「ポジティブモンスターアル」
ナマエ「結果オーライ?」
銀時「よくねぇよ」
ナマエ「なんで」
銀時「俺がめちゃくちゃ焦ったからだよ」
ナマエ「そうだった?」
銀時「病院まで全力で連れてっただろ」
ナマエ「確かに」
銀時「監禁犯が『先生! これ大丈夫ですか!?』ってなってんだぞ」
新八「今考えると絵面ひどいですね」
神楽「設定崩壊アル」
ナマエ「まあでも、心配してくれてありがと。おかげで金属アレルギーだってわかったし、今後アクセサリーとか気を付けられる。監禁もたまには役に立つね」
銀時「役に立ってねぇよ!!」
ナマエ「あはは」
銀時「笑うな!!」
しかし少しだけ安心した顔をしていたのは、たぶん銀時の方だった。
