父性、ログインしました



知らぬは子ども、焦るは父


お茶を飲んでいた銀時に、燈がふと聞く。

「ねえ、パパ」

「ん?」

「『よしわら』ってなに?」

銀時、盛大にお茶を吹く。

「ぶっ!!」

妻「汚い」

銀時「げほっ……今、なんて?」

燈「よしわら」

銀時(終わった。どこまで言う? 何を言う? どう誤魔化す?)
「え、えっとぉ……女の人がたくさんいてぇ……」

妻の視線が刺さる。
銀時、即修正。

「いや違う、正確には……昔の、大きな大人の遊び場みたいな町で!」

燈「遊び場?」

銀時、必死に続ける。

「お芝居とか、踊りとか、音楽とか! 今で言うと…………テーマパーク!」

妻「雑」

燈、少し考える。

「……じゃあ、おまつりみたいな?」

銀時「そうそう! おまつりがずーっと続いてる場所!」

妻が静かに補足する。

「昔はね、特別な場所でしかできない文化や芸能を楽しむところだったの」

燈「ふーん」

銀時、そっと胸を撫で下ろす。

(助かった)

しかし、疑問が残る。

「ところで燈サン? なんで吉原って言葉知ってんの……?」

燈はあっさり答える。

「お友達のママ同士が言ってたの」

銀時「……なんて?」

燈は無邪気に言う。

「『燈ちゃんのお父さん、よしわらで見たよ』って」

再びお茶を吹く銀時。
妻、すっと視線を銀時に向ける。

「…………へえ」

その声が、やけに静か。

銀時「違うからな!?!?」

即立ち上がる。

「浮気とか! そういうの! 断じて! ない!! 仕事!! 万事屋の!! 仕事!!」

燈「……パパ?」

銀時「違うから!!」

妻が芝居かかった動きで湯のみを置く。

「ふうん……吉原で見たのね」

銀時「仕事!! 依頼!! 巻き込まれ!! 戦闘!!」

妻、にこり。

「そう」

銀時「ほんとに、ほんとに、ほんとに仕事だからな!?」

妻「知ってるわよ」

銀時「……え?」

妻「あなたが隠し事できないの、知ってるもの」

銀時「…………」

妻「それに仮に浮気するなら、もっとバレないようにするでしょ」

銀時「俺、信頼低くね!?」

燈がぽつり。

「パパ、あせってる」

銀時「焦るわ!!」

妻はわざとらしく首を傾げる。

「でもね、見たよって言われるくらいには目立ってたのね」

銀時「そこは否定しねェ!!」

数秒の沈黙。
妻は楽しそうにお茶を飲む。

銀時「……怒ってねェの?」

妻「怒る理由ある?」

銀時「……ない」

妻「でしょう?」

妻は、少しだけ意地悪に続ける。

「ただ『吉原で見た』って、インパクト強いわよね」

銀時「だから仕事だって言ってんだろ!!」

燈「パパ、有名人?」

銀時「違う!! 違わねーけど!!」

妻は(ちゃんと焦るのね。かわいい)と思うのだが、もちろん口には出さない。

その夜。銀時は何度も言い訳を繰り返し、妻は知っているのにあえて何も言わず、燈は「よしわら=テーマパーク」だとまだ思っている。

そして銀時は悟る。
真実よりも、言い訳してる自分の姿の方がダメージがでかい。
妻は今日も、静かに面白そうに見守っていた。
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