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副長、そのまま出る
朝。
真選組屯所。
土方はいつも通り隊服に袖を通し、刀を腰に差していた。
完璧だ。
──頭以外は。
廊下を歩く。
すれ違う隊士が一瞬、目線を上げて──即、逸らす。
「…………」
(…………?)
二人組の隊士が、少し後ろで足を緩める。
「……なあ」
「……見た?」
「……見た」
「……副長の」
「……頭」
ひそひそ。
必要最小限の声量。
土方(……何だ)
さらに進む。
今度は、別の隊士が咳払い。
「……コホン」
視線が明らかに上。
執務室前。
土方はふとガラスに映った自分を見て、止まる。
前髪の横。
すみっコぐらしの小さなヘアピン。
淡い水色。
丸っこいキャラ。
(………………)
沈黙。
(……外し忘れた)
だが。
今さら廊下で外すのも、それはそれで何かだ。
(……このまま行く)
副長は腹を括った。
朝礼。
土方は隊士たちの前に立つ。
「……本日の巡回だが」
視線が微妙に揃わない。
誰もピンの話をしない。
誰も、だ。
それが一番きつい。
「六番隊は北区。三番隊は市場周辺」
完璧な指示。
完璧な声。
完璧なすみっコ。
解散後。
廊下。
後ろから小さな声。
「……副長」
「……かわいいの、ついてません?」
土方は歩みを止めずに言う。
「……見間違いだ」
「……了解です」
(了解するな)
昼。
部下が書類を持ってくる。
視線が一瞬だけ上に行き、即戻る。
「……副長」
「……何だ」
「……その」
一拍。
「……お子さん、大事にされてるんですね」
土方「………………」
(最短で核心突いてくるな)
「……仕事の話をしろ」
「……はい」
その夜。
帰宅。
玄関で小春が駆け寄ってくる。
「パパ!」
土方「…………」
小春、土方の頭を見て言う。
「……つけてってくれたんだ」
土方「……ああ」
「……いやだった?」
土方は一瞬だけ考えてから答えた。
「……いや」
「……?」
「……ヒソヒソされた」
小春「…………」
「……だが」
一拍。
「……外さなかった」
小春は少し驚いてから、にこっと笑った。
「……じゃあ、またつけてあげるね」
土方「……休日限定にしろ」
その日。
真選組では「副長はすみっコ派」という噂が、静かに、だが確実に広まった。
だが副長は知っている。
規律より、威厳より──
一番外せないのは、娘の今日の気分だということを。
そして明日も隊士たちは、見て見ぬふりをする。
それが、一番の忠誠だった。
