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そのまま行くな
朝。
万事屋の玄関。
銀時は木刀を腰に差して、ブーツを履いていた。
「行ってくるわー」
奥から妻の声。
「いってらっしゃ……」
一拍。
「……銀時」
「ん?」
妻は言葉を選ぶ前に指をさした。
「……その頭、なに?」
銀時、きょとん。
「……頭?」
指先で触る。
カチ。
「……?」
鏡を見る。
そこには──
前髪の横に、燈のピンクの星型ヘアピン。
銀時「………………」
(やった)
燈が居間からひょこっと顔を出す。
「パパ!」
「…………」
「そのまま行くの?」
銀時「行かねェよ!?」
燈「えー。かわいいのに」
妻は肩を震わせている。
「……今さら外す?」
銀時「外す!! 今すぐ外す!!」
燈がむっとする。
「やだ」
「……は?」
「今日は、パパかわいい担当の日でしょ」
銀時「担当制やめろ!!」
数分後。
万事屋の前。
お登勢が、銀時の顔を見て一言。
「なんだい。今日は随分おしゃれじゃないかィ」
銀時「違ェよ!! これは……事故だよ!!」
燈が玄関から叫ぶ。
「いってらっしゃーい! パパ!」
銀時「…………」
(……外しそびれた)
道中。
通行人、二度見。
子ども「ねえママ。あのおじちゃん、かわいい」
銀時「おじちゃん言うな」
現場。
新八「…………」
神楽「…………」
二人、言葉を失う。
新八「……銀さん?」
神楽「その頭、何アルか」
銀時「聞くな」
新八「……燈ちゃん?」
銀時「聞くなって言ってんだろ!!」
神楽、じっと見てから言う。
「……似合ってるアル」
銀時「フォローになってねェ!!」
仕事終了後。
銀時はようやくヘアピンを外した。
指先でそれを見つめる。
(…………)
家に帰ると、燈が駆け寄ってくる。
「パパ、ちゃんとつけてた?」
銀時「……ああ」
燈「えらい!」
銀時「不本意だけどな」
燈はにこっと笑って言った。
「またつけてあげるね」
銀時「次は休みの日限定な!!」
その日。
かぶき町では「星のヘアピンをつけた侍がいた」という噂が、ひっそり流れた。
だが銀時は知っている。
それが──
一番外せない仕事道具だったことを。
(※本人の社会的ダメージは考慮しない)
