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理由はいらない日
土方家の居間。
土方は、ちゃぶ台の前に正座させられていた。
背後には小春。
手にはパステルカラーのヘアゴムと、小さな花のヘアピン。
「……動いたらダメだよ」
「……ああ」
頭の横でカチ、と音がする。
土方「……なあ、こはる」
「……なに?」
土方はできるだけ平静を装って言った。
「……なんでパパの髪なんだ?」
一拍。
「ママの方がこういうの、似合うだろ」
背後で、小春が少し考える気配。
「んー……」
ゴムを引っ張る手が、一瞬止まる。
「今日はね、パパにやってあげたい気分なんだよね」
土方「………………」
言葉が喉まで出て──全部飲み込まれる。
(理由が、可愛すぎる)
「……そうか」
それだけ言って、土方は動かなくなった。
数分後。
「……できた」
「…………」
土方は、恐る恐る鏡を見る。
・左右にちょこんと留められたピン
・無理やりまとめられた前髪
・明らかにやられている副長
土方「……どうだ?」
小春は、少し首を傾げてから言う。
「……うん」
「……?」
「ちゃんと、パパ」
土方「…………」
(それでいい)
その様子を、少し離れた場所で見ていた妻が言う。
「……似合ってるわね」
土方「そういう問題じゃねェ」
小春がにこっと笑う。
「パパ、今日はされる日だから」
土方「……そういう日があるのか」
「あるよ」
即答。
土方はゆっくり息を吐いた。
「……了解した」
その日。
土方十四郎は真選組副長でも、剣の達人でもなく──
ただ、娘に選ばれた練習台だった。
だが。
それを誇りに思ってしまうあたり、もう完全に──父親だった。
