戻れない単語 ― 仕事中につき使用不可 ―
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
副長、パパが出る
真選組屯所。
昼下がり。
土方はいつも通り腕を組み、隊士たちを前に指示を出していた。
「四番隊は北区の巡回。七番隊は市場周辺を重点的に──」
空気は張り詰め、誰一人私語はない。
副長の声は低く的確で、いつも通りだった。
──その、次。
「……パパは────」
一瞬。
土方「………………」
隊士たち「………………?」
時間が、止まる。
土方(……今俺は、何を言った……? 『パパは』? ……なぜ、ここで?)
最初に反応したのは、一番若い隊士だった。
「……え?」
その一音で、世界が動き出す。
「……副長?」
「今……」
「『パパ』……?」
ざわっ。
土方「……ッ」
即座に咳払い。
「……違う。言い間違いだ。パトロールだ。『パトロールは』と言おうとした」
沈黙。
誰も突っ込まない。
それが、一番きつい。
土方は視線を逸らさず続ける。
「……パトロールは、日没前に一度戻れ。異常があれば、すぐ報告。以上だ」
隊士たち「……了解!」
号令は揃っている。
だが──
(絶対、後で広がる)
解散後。
廊下。
後ろを歩いていた隊士たちの小声が耳に入る。
「……今の聞いた?」
「……聞いた」
「副長……」
「……パパ……」
土方「…………」
(聞こえている。全部、聞こえている)
その夜。
帰宅。
小春が玄関に飛び出してくる。
「パパ、おかえり!」
土方「…………」
一瞬、目を閉じる。
(……やめろ)
だが、小春は無邪気に続ける。
「今日ね、パパって言うの、いっぱい練習した!」
土方「……そうか」
(練習すんな)
妻が奥から顔を出す。
「お疲れさま」
「……ああ」
「今日、何かあった?」
土方は一拍置いてから言った。
「……仕事中に」
「……?」
「『パパは』って言った」
妻「…………」
次の瞬間。
「……あら。ついに無意識に出るようになったのね」
「……不本意だ」
妻はくすっと笑った。
「でも」
「……?」
「それだけ、ちゃんとパパやってるってことでしょ」
土方「…………」
返す言葉が、ない。
翌日。
真選組屯所。
隊士が、妙に元気よく言う。
「副長! 本日の巡回、パパっと終わらせます!」
土方「…………帰れ」
だが口元が、ほんの少しだけ緩んでいた。
副長・土方十四郎。
剣より、規律より、最近いちばん強い影響力を持つ言葉は──
『パパ』
それを認める日は、まだ少し先らしい。
