戻れない単語 ― 仕事中につき使用不可 ―
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仕事中に出るな、その単語
夕暮れのかぶき町。
裏路地。
「ニャーッ!!」
塀の上を疾走する、迷子の子猫。
それを追う影──万事屋。
「逃がすな!」
坂田銀時が叫ぶ。
「神楽ァ! 裏通り回れ!」
「アイアイサー!」
「新八はこのまま真っ直ぐ!」
「はいっ!」
二人が動く。
「パパは横道から行って──」
一瞬。
空気が止まる。
神楽、全力疾走しながら振り向く。
「……パパ!?」
新八、眼鏡がずれる。
「今、パパって言いました!?」
銀時「言ってねェ!! 言ってねェから今の忘れろ!!」
神楽「いや言ったアル!! はっきりパパって!」
新八「条件反射で出ましたよね!?」
銀時「仕事中だァ!! 猫見ろ猫!!」
子猫、方向転換。
「ニャッ!」
神楽「逃げたアル!!」
新八「左です!」
銀時「ちっ……!」
(……クソ、完全に集中切れた)
十分後。
路地の奥。
神楽が、そっと子猫を抱き上げる。
「捕獲成功アル」
新八「よかった……」
銀時「……ふぅ」
沈黙。
新八が、恐る恐る言う。
「……銀さん」
「なんだ」
「さっきの『パパ』って」
銀時「聞くな」
神楽、にやにや。
「無意識アルね〜。完全に家庭用語アル」
銀時「戦闘用語だわ!!」
新八「どんな戦闘ですか!?」
そこへ。
燈が、銀時妻と一緒に駆け寄ってくる。
「パパ!」
銀時「…………」
燈「ねこちゃん、つかまえた?」
銀時「…………ああ」
神楽が子猫を見せる。
「はい、パパの活躍アル」
銀時「やめろォ!!」
銀時妻は、くすっと笑って言った。
「……仕事中でも出ちゃうのね」
銀時「出したくて出してねェよ!!」
燈は嬉しそうに言う。
「でも、パパかっこよかったよ」
銀時「…………」
新八「……まあ」
神楽「……これは、仕方ないアルね」
三人、なぜか納得。
その日。
かぶき町では、
「迷子猫を捕まえたパパ侍がいた」
という噂が流れた。
銀時は頭を抱える。
(……もう戻れねェな)
だが。
燈が、銀時の袖を掴む。
「また、いっしょにおしごとしよ?」
銀時は、小さくため息をついて言った。
「……ああ」
『パパ』は、もう隠せない立場らしい。
