副長、気分に敗北する



聞くだけで笑う男



夜。
かぶき町の居酒屋。

カウンター席。
酒を前に、土方十四郎はどんよりとした顔で座っていた。

横には坂田銀時。

「……で?」

銀時は、すでにニヤニヤしている。

「……小春がな」

「うんうん」

「『ほんとに塗ってみてイメージ固めたい』とか言い出して……」

「うんうんうん」

「俺が……」

一拍。

「メイクの実験台にされた」

その瞬間。

「ぶはッ!!!!!!」

銀時、噴き出す。

「おっま……!! ははははは!! ちょ、待て待て待て!! 鬼の副長が!? 正座で!? 目ェ閉じて!?!?」

「……笑うな」

「無理無理無理!! 締め色入れられてる副長とか、今年一番のパワーワードだろ!!」

銀時は腹を抱えて笑い続ける。

「で!? 誰が許可出したんだ!? まさか……」

土方「……妻だ」

「っははははははは!!!! 母公認は最強カードじゃねェか!!」

「しかもな」

土方は淡々と、だが確実に追撃を重ねる。

「『パパの目にメイクブラシ刺しちゃダメよ〜』って言われた」

「死ぬ!! それ聞いただけで死ぬ!! 俺今、腹筋攣った!!」

銀時、涙を拭きながら。

「いやでもさ……それ、想像してみ? 天下の副長サマが目ェ閉じて、娘に『動かないで』って言われてんの」

「…………」

「完全に拷問じゃん」

「笑うな」

「いや、笑うだろ!! てかよ……それ、出来どうだった?」

土方、少し黙る。

「……悪くなかった」

「は?」

「……似合ってたらしい」

銀時、一瞬静かになり──

「……え」

次の瞬間。

「やっば!!!! 土方くん、夜職適性あるじゃん!!」

「殺すぞ」

「いやマジで! 俺もさ、仕事で化粧することあるけどよ」

土方「聞きたくねェ」

「いや聞け!! あれな、最初に落ちるの尊厳だから」

「…………」

「そこ超えたら、もう何でもいいゾーン入る」

「お前は何の話をしてる」

銀時はニヤッと笑う。

「なぁ副長さん」

「……なんだ」

「次はさ」

嫌な予感。

「俺もやらせろ」

「は?」

「いや、うちの燈もさ、そのうち実験台欲しがると思うんだよね〜」

「巻き込むな」

「大丈夫大丈夫」

銀時、酒を一口。

「父親はな、娘のやってみたいを顔で受け止める生き物だから」

「誰がそんな名言言った」

「今」

土方は、深くため息をついた。

「……笑っただろ」

「うん」

「……話したの、後悔してる」

「うん」

「…………」

「でもさ」

銀時は、少しだけ声を落とす。

「ちゃんと座って、ちゃんと目ェ閉じて、最後まで付き合ったんだろ?」

「……ああ」

「それ、いい父親の顔してたぞ」

土方は、少しだけ視線を逸らした。

「……二度とやらねェ」

「嘘つけ」

「……一回だけだ」

「ほらな」

二人は酒を飲む。

笑いと、尊厳と、ちょっとの誇りを一緒に流し込みながら。

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