キラキラはまだ早い、でもダメじゃない
パパのキラキラは、秘密だった
夜。
坂田家の押し入れ。
銀時はひっそりと動いていた。
(…………あった……)
押入れの奥の奥。
『雑巾』『よく分からん紙袋』『封印したい過去』の奥。
出てきたのは──
小さなポーチ。
中身は、
・下地
・ファンデ
・ラメ入りアイシャドウ
・つけま
・グロス
・そして、やたらキラキラしたチーク
(……久々だな、パー子セット……)
明日はオカマバーのヘルプ。
必要なのは覚悟と、このキラキラ。
銀時がポーチを閉じた──その時。
「……パパ?」
背後。
声。
銀時「ッッ!!?」
振り返るとそこにいたのは、眠そうな目をこすりながら立つ燈。
「……なにしてるの?」
(終わった)
「いや、あのな、これは……」
燈の視線が、銀時の手元のポーチにぴたりと吸い寄せられる。
「……キラキラ」
「……」
「……パパが……キラキラ持ってる……??」
沈黙。
心臓バクバク。
銀時「あ、ちが、それは……あ゛〜〜……」
言い訳を探すも、化粧品という物証が強すぎる。
燈はそっとポーチを指差す。
「それ……ママの?」
「いや……違う……」
「……じゃあ……」
ゆっくり。
ゆっくりと、核心に近づく。
「……パパの?」
銀時「…………はい」
観念。
燈の目が、まんまるになる。
「……パパ……プリンセス……?」
「違う!!!! 方向性が違う!!」
銀時は慌ててしゃがみ、目線を合わせる。
「いいか、あかり。これはな、仕事なんだ」
「おしごと……?」
「そう。人を楽しませる仕事」
燈は、少し考えてから言った。
「……キラキラで?」
「……キラキラで」
「…………」
しばしの沈黙。
銀時は、覚悟を決めた。
「……パー子っていう名前でな」
燈「……パー子」
「オカマバーで……ヘルプやってる……」
燈「…………」
(泣くか……? 引くか……? 『パパこわい』とか言われるか……?)
だが。
燈は、ぽつりと。
「……それ、かわいい?」
「……は?」
「パパが、キラキラして……たのしくなる?」
銀時、言葉に詰まる。
「……まぁ……仕事だからな……」
燈は少しだけ笑った。
「……じゃあ、いい」
「いいの!?」
「だって、パパだもん」
その一言で、胸の奥がぎゅっとなる。
燈はポーチの中を覗き込む。
「……これ、さっきのネイルよりキラキラ」
「比較対象がおかしい」
「パパ、これつけるとき、鏡見る?」
「……見る」
「……そのとき、ちょっとドキドキする?」
「……する」
燈は、満足そうにうなずいた。
「じゃあ、おしゃれ」
「……その理論やめろ」
翌日。
銀時妻が銀時に声をかける。
「……あら、そのポーチ……」
銀時「……見られた」
「ふふ。燈、なんて言ってた?」
銀時「……『パパのキラキラは秘密』だって」
銀時妻は、やさしく笑った。
「いい娘ね」
「……俺の立場は?」
「ちょっと減った」
「減ったのかよ!!」
その夜。
燈は布団の中で、こっそりつぶやいた。
「……パパ、ほんとのプリンセスじゃないけど……キラキラ、持ってていいと思う」
銀時は聞いていない。
聞いていないが──
そのポーチを前より少しだけ、大事にしまった。
