キラキラはまだ早い、でもダメじゃない
それはダメ、の破壊力
夜。坂田家。
燈は、今日イオンで買ってきた小さな袋をテーブルに並べていた。
中身はボンボンドロップシール、シナモロールのぬいぐるみキーホルダー、そして子ども用のネイルシール。
……の、横に。
銀時が密かに回収しきれなかった、あの──
ギラッギラの大人用ネイルチップ(現物)。
(いや、戻したと思ってたんだけど!?)
銀時、内心で叫ぶ。
そこへ。
「ただいま」
銀時妻が暖簾をくぐり、テーブルに視線を落とす。
一瞬。
ほんの、一瞬だけ。
そして、静かに言った。
「……燈?」
「なに?」
「それ、なに?」
燈は、誇らしげにネイルチップを差し出した。
「これね! キラキラしててね! プリンセスみたいなの!」
銀時妻はチップを一枚つまみ、光の下でくるりと回す。
ストーン。
ラメ。
鋭利な先端。
──判断は、一秒。
「それはダメ」
即断。
銀時「はい終了ォ!!」
燈「え!? なんで!?」
妻は怒らず声も荒げず、ただ事実だけを淡々と並べる。
「それね、爪の形が大人用なの。先が尖ってるでしょう? 目に当たったら危ない。服にも引っかかる。転んだら、手をついたときに怪我する」
一つずつ、確実に潰していく。
燈「…………」
銀時妻は、少しだけ表情を緩めて続けた。
「きれいなのは分かるよ。ママもね、こういうの、好きだった」
銀時(過去形!?)
「でも、今の燈がつけるものじゃない」
燈は、ぎゅっとネイルチップを握る。
「……じゃあ、いつならいいの?」
銀時妻は少し考えてから、にこっと笑った。
「ちゃんと自分で爪のお手入れができて、つけたまま生活できるようになったら」
「……それって……」
「まだ先」
燈「…………」
沈黙。
銀時はここで余計なことを言うと死ぬと悟り、一切口を挟まない。
しばらくして、燈はぽつりと言った。
「……じゃあ、ママがつけて」
銀時妻「え?」
「それなら、見ていられる」
銀時妻は一瞬驚いて、それから小さく笑った。
「いいよ。特別な日にね」
燈「ほんと?」
「ほんと」
その瞬間、燈は納得したようにネイルチップを袋に戻した。
銀時(助かった……)
銀時妻は、テーブルに残った子ども用ネイルシールを指さす。
「今日はこっちにしよ?」
燈「うん」
そして、銀時妻はちらりと銀時を見る。
「……パパ。危ないもの、ちゃんと見極めてね」
銀時「はい!! すみません!! 次からは光り方だけで判断しません!!」
「キラキラ耐性が低すぎるのよ」
「娘のキラキラ圧は反則だろ……」
銀時妻は笑って、燈の手を取った。
「大人になるのは、急がなくていいの」
燈「……うん」
その光景を見ながら、銀時は思う。
(……母親ってすげぇ……俺が30分かけて説得したこと、一言で終わらせた……)
ネイルチップは棚の奥へ。
キラキラは未来へ。
イオンの戦いは終わった。
だが────
父の修行は、まだ続く。
