甘ったるい地獄
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平成女児チョコは、覚悟して食え
バレンタイン当日。
ちゃぶ台の上に、小さな箱がちょこんと置かれていた。
「パパ!」
燈が胸を張って言う。
「はい、これ!」
「……!」
銀時の目が輝く。
「おお!? 手作りか!? マジか!? やるじゃねェか、あかりさん!!」
箱を開ける。
中にはハート型、星型、よく分からない形のチョコたち。
カラースプレー、アラザン、チョコペンの文字。
平成女児チョコ、ここに極まれり。
「すげェ……」
「ママと一緒に作ったの!」
銀時、即ひとつ手に取る。
「よし。パパ、ありがたく──」
ぱくっ。
「………………」
一瞬。
銀時の表情が、ゆっくりと真顔に戻る。
(……ん?)
噛む。
(……?)
もう一度、噛む。
(…………ジャリ……?)
口の中で、砂糖の結晶が主張してくる。
「…………」
だが、娘は見ている。
「どう? おいしい?」
「……お、おう!」
銀時、笑顔を作る。
「……うまい」
(甘ェ。甘すぎる)
噛むたびに、歯が軋むレベルの甘さ。
甘党の銀時でさえ、脳内で警報が鳴る。
──ピーーーッ
──甘味限界突破
「…………」
銀時、恐る恐る聞く。
「……あかりさん?」
「なあに?」
「このチョコさ」
「うん!」
「……チョコの他になに、入れた?」
燈はにっこり。
「パパ、甘いの好きだから」
嫌な予感。
「お砂糖、いーっぱい入れたの!」
「………………」
その瞬間、銀時の視界が白くなる。
後ろで銀時妻が困った顔をしていた。
(止めた。止めたのよ。でも……!)
「どうしても……『パパ、甘いの好きでしょ?』って……」
(…………俺の教育が……)
銀時は静かに深呼吸する。
(ここで残すか?)
────いや。
燈の期待に満ちた目。
(残せるか?)
銀時は笑って言った。
「…………最高だ」
「ほんと!?」
「ああ。パパ史上、一番甘い」
「やったー!」
燈、満面の笑み。
銀時は、父親の意地を見せることを決めた。
二個目。
三個目。
口の中が、もはや砂糖の地層。
「………………」
額に汗がうかぶ。
「パパ、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶだ」
(だいじょうぶじゃねェ)
砂糖さんが主張してくるも。
「……全部、食べる」
銀時妻「銀時……」
「これはな」
銀時は最後の一個を手に取りながら言う。
「……パパへの、愛だからな」
数分後。
銀時はちゃぶ台に突っ伏していた。
「……世界が……甘ェ……」
銀時妻がそっとお茶を差し出す。
「……無理しなくてよかったのに」
「……無理じゃねェ…………意地だ」
「……そう」
燈は少し心配そうに言う。
「……パパ?」
銀時は顔を上げて、にっと笑う。
「……最高のチョコだったぞ」
「ほんと!?」
「ああ。一生忘れねェ味だ」
(忘れられるか)
燈は嬉しそうに、ぎゅっと抱きついた。
「また作るね!」
「………………」
銀時は遠い目をした。
「……次はな」
「うん?」
「……砂糖、半分で頼む」
「え〜〜!?」
銀時妻はくすっと笑った。
今年のバレンタインは甘くて、重くて、少しだけ命懸け。
だが──それでいい。
父親とは、そういうものなのだから。
