限界社畜の夢主が高杉に飼われる話
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元社畜にとって、いきなりの三食昼寝付き不労所得の生活は劇物だったそうです。
私に課された仕事は、
診察を毎日受けること。
以上。
診察そのものはいい。困るのは必ず晋助さんが同席すること。男性の目の前で服は捲られるし、体重もその場で確認されるため恥ずかしい。
社畜いえども立派な成人女性。羞恥心まで捨ててはいない、はず。多分。
それでも何も言えないのは、晋助さんが医者と何やら話し合っているからだ。
健康状態はどうか。不調はないか。病気はないか。などなど。
動物病院に連れて行かれたペットってこんな気分なのかなと他人事のように思っていた。
お医者さんのお決まり言葉は「栄養のあるものを食べて、このままゆっくり休養していてください」だ。
つまり、「この部屋で気ままにゴロゴロしていろ」ということらしい。あとは「睡眠時間をもう少し取ってください」とも言われた。
でも私の体はすっかり社畜属性が備わってるため朝六時前には自然と目が覚めてしまうし、零時を超えるまで寝れる気がしない。それでも最近は早く寝れるようになった方なんだけどな。
ちなみにご飯は決まった時間に運ばれてくる。毎日違うメニューが出るものだから驚きだ。朝はご飯の時もあればパンの時もある。お昼や晩の時には生姜焼きとかパスタとか、すき焼きが出た日もあった。グラム千円超えていそうなお肉、初めて食べた。おいちい。
食事は私の部屋で、晋助さんと一緒にとることもある。
……箸の運びがやたら上品なんだよな、この人。丁寧というか、品があるというか。私を飼えるだけあってお金持ちなのかな。お金持ちじゃないと人間なんて飼えないか。人間を飼うって言葉自体、ちょっと危ないけど。
飼われているといっても所詮は元社畜。
「お仕事……何かお仕事ください……」と血肉を求めるゾンビのように訴えてみたら、「おとなしくしてろ」の無感情の一言だけだった。
次の日からゲーム機が与えられた。島を好きにクリエイトできるゲームだった。時間が溶けた。
そして毎日掃除係の人が来ることになった。自分の部屋くらいは自分で掃除すると言ったのだが、すげなく却下された。洗濯物も係の人が持っていってしまう。家事もどきですら取り上げられてしまった。
ダメ人間になっていく音がする。
そんなダメ人間の私は、日中は人をダメにするソファーに体を預けてだらだらと映画を観たりゲームをしたりして、真祖ダメ人間への道を着実に登っていっている。
今日もダメ人間レベルが上がった。
ついでに島のレベルも上がった。
そりゃ三食昼寝付き不労所得の生活がしたいって願ったのは私だけどさ、いざ現実にお出しされると戸惑うんだね。勉強になった。活用できるところがないと思うけど。
いつものように起きた時だった。
なんだか頭がぼんやりする。
部屋もじっとりと暑い気がする。
空調が壊れたのだろうか。
ベッドから立ちあがろうとしたのだが、力が抜けて床に座り込んでしまった。
あ。これ、ヤバいかも。
どうしたらいいんだっけ。
どうすればいいんだっけ。
そうだ。スマホ。どこに置いたっけ。
確か、机の上────。
視界がぐにゃりと揺れる。耳の奥がキーンと鳴り、手に力が入らない。
座っていることさえできなくなって、私の視界の縁が暗く縮んだ。
*****
高杉side
ナマエが倒れた。
ベッドのそばで、ぐったりと座り込んでいたらしい。
給仕の者からそう報告を受けた。
医者によればストレス性の発熱のようだった。ウイルス性のものではなくて、ひとまず安心する。
良い方向であれども環境が劇的に変化したわけだから、体調を崩さないわけがない。
だからこそ全ての雑務を取り上げた。
いつ体調を崩してもいいように。定期的にナマエの部屋に入れる機会を増やすことによって、動けなくなっても誰かがいち早く気付けるように。
本当は隠しカメラを設置したかったのだが、私室にそれはやりすぎだと止められた。
部屋に入ると、バランスボールの上に座っていた。ぽよんぽよんと跳ねていた。
つかつかと歩み寄り、首根っこを捕まえる。
そして、ただ一言。
「寝ろ」
それだけ言う。
「いや、あの、でも、ご飯食べて少し寝たら元気になりまして……むしろ、何かしていないと落ち着かないといいますか、つまり、その、」
「寝・ろ」
「…………はい」
威圧すれば、すごすごとベッドに戻っていった。
机にはきれいになったお皿が鎮座している。食欲があるならばそれなりの体力を有しており、そこまで重篤でないということの証左だ。
問題は、本人がおとなしくしないことだろう。
症状が比較的軽微というのもあるが、こればかりは気質だと言わざるを得ない。じっとする、ということができない性分らしい。
これが銀髪バカなら、軽口のひとつでも叩いてなだめすかして寝かしつけることができるのだろう。
これがロン毛バカなら、柔らかい物言いで毒気を抜いて緊張を和らげることができるのだろう。
生憎だが、そんな器用な真似はできない性質だ。そっとナマエの頬に手のひらを添える。
微熱程度の熱があるらしく、一般的な体温より幾分か高いのが分かった。
「眠れなくても横にはなっとけ」
ナマエの目線は俺の手のひらに注がれる。そのまま辿るようにして腕、そして胸、最後に顔へと視線が動く。
「……あったかい」
とろんとナマエの目が少し溶ける。
それは安心しきっている者の顔だ。
……そういう顔を、俺の前で見せるな。
そう思いながらも、手を離せなかった。
我ながらの理不尽に呆れてしまう。
「今は体を休めることだけを考えてろ」
頬に触れていた手のひらを目の上に移動させて、目隠しのようにする。今のコイツに足りないのは、体と精神を休息させる行為だ。
何もしない時間があってもいいのだと教え込む必要がある。だからこそ死にそうな顔をして「お仕事ください」と言ってきた時は、時間を消費するうえにほのぼのとしたゲームを与えた。あまり考え込まなくてもいいように。余計なことを考える隙間を与えないために。
「全て忘れろ。頭ン中からっぽにしろ」
「から、っぽ……」
「そうだ。何も考えなくていい」
「でも、どんどんダメ人間になっていくようで……ほんとに何もしなくていいのかなって……」
「俺がそう望んでいる。だから、とっとと堕ちろ」
そう囁いてやれば、ナマエからの返事はなかった。
しばらくしてから手を退ければ、まぶたは閉じられていた。まだ熱のこもっている額に冷感シートを貼ってやれば眉間に一瞬だけ皺が寄ったものの、起きることはなかった。
*****
目を開けるたび、視界の隅に必ずあの人の姿がある。
熱がひくまでの数日間、寝ても覚めても晋助さんが側にいた。
なんでそんなことが分かるのかというと。起きている間は晋助さんの姿が常にあるし、寝ている時でも布団とは違う温かさを薄っすらと感じているからだ。
そして、やたらスキンシップしてくる。
スキンシップといっても、ほっぺに触れられたりとか、手を握られたりとか、そういう軽いものしかない。私は基本ベッドの上だから、それぐらいしか触れられないからだと思うけれど。
というか、触診って言った方が正しいかも。
恋人のように触れるのと少し違う。かと言ってペットを愛でるように触れるのも少し違う。何かを確かめるようにして触れてくる。時折じっと目を覗き込んでくるものだから思わず目を逸らすと、許さないとでも言うように強引に視線を合わせられる。
そんなもんだから常に緊張している。
イケメンに触れられてドキドキしないやついる? いないよなぁ??
熱がなかなか下がってくれないのって、これのせいでは? なんて思うものの、元凶に追及できる気概を持ち合わせているわけがない。そんなもの持っていたら、私はこの場にきっといない。
「他に体調悪いところはあるか?」
「え、っと……なんとなく、体が怠い、かも……?」
「それだけか?」
「は、はい……」
獲物をつけ狙う猛禽類のような眼差しで見つめられれば嘘なんてつけるはずもないし、言葉がつっかえてしまうのも致し方ないだろう。まあ、自分の体調不良がよく分からないってのが一番の理由だけど。
心配してくれているんだなっていうのは伝わる。伝わってくるんだけども……!!
一時間おきに確認するのはやめてもらえないかな!? スヌーズ機能でも付いてんの、この人!? 私の心臓に一時間ごとに負荷がかかっていることが、なによりも不調な証なんですけど!?
でも、触れられるのが嫌だと感じていない自分もいるわけで……うう、私は所詮、意志の弱い貧弱な種類の人間。長いものには巻かれてしまうのが常。
ちなみに超寝かしつけられる。
朝六時前に目が覚めたら、なぜか同じベッドに横になっていて二度寝を強要される。お昼ご飯食べて暫くすれば昼寝と称されてgo toベッドで晋助さんの手のひらアイマスク付き。夜の十時には布団に放り込まれて密着からの背中とんとんで夢の世界へご案内。
……園児かな? 知らない間に体がちっちゃくなる薬でも飲まされたのかな。じゃあ晋助さんは保育士さん……? いや、こんな色っぽい保育士さんいたら、女児の初恋をことごとく奪ってしまう。
みんなそろって将来の夢が『晋助先生のお嫁さん』という事態になってしまうだろう。もしくはママさん達のハートを撃ち抜き、コンビニに置いてあるレディコミのようなドロドロ展開になってしまう。いくつのご家庭が壊れてしまうのだろうか。
誰だ。美人は三日で飽きるとか言ってたの。飽きるどころか三日間私の心臓はビートを激しく刻んでいますが?
熱が下がりきると、一時間ごとのスヌーズ触診はなくなった。その代わりに朝、昼、晩という、日に三回の触診が固定になった。私の部屋を訪れる時間も減った。減ったといっても、熱を出す前の時期に比べれば多い方なんだけれども。
「あの、どうして私にここまで構ってくれるんですか?」
それは、すごく気になっていたことだ。
めちゃくちゃ美人というわけでもなければ、スタイルが良いとは言い難いし、特別仕事ができるわけでもない。ただのその辺に転がっているモブKあたりが私の配役だろう。CVが付くわけでもなく、背景を通りすがるただの一般人。私はそんな立ち位置にある人間だ。
「別に……ただの気まぐれだ」
「……そっかぁ」
ため息のようにして、そんな相槌が私の口からこぼれ落ちる。
私を拾ったのがただの気まぐれなら、いつか『ただの気まぐれ』で捨てられちゃう日も来るってことなのかなぁ。そうなる前に、この生活をエンジョイしておかないと。
ペットの遺棄は犯罪だけど、赤の他人という関係性にある人間の遺棄は犯罪じゃないもんね。
そう思ったところで、腰に手を回されて抱き寄せられる。
誰にって?
勿論、晋助さんに。
いや、ほんとに何事? いつも距離近いけど、腰に触れられることは少ない。
「悪ィが、捨てる気はさらさらねェからな」
顎に手をやられ、顔をしっかりと上げさせられる。私を触診していた時は隙を伺うような捕食者の目をしていたのに、今は普段は凶暴な肉食獣が自身の家族に向けるどことなく温かい瞳で見つめてくる。
というか、私の思考を読んだ? 実はエスパーだったり?
「ちょくちょく口に出てんぞ」
え? マジ? ヤバい人じゃん私。
思わず両手で口を抑える。
そんな私の手をそっと引き剥がし、手の甲に唇を落とされる。軽いリップ音が鳴る。
わ、わぁ……イケメンしか許されない所業だ。しかも様になっているから、籠絡される気分になる。
「テメェは一生、籠の中の鳥でいりゃいい」
うん? トンデモ発言されてるよね? 飼い殺ししてやる宣言ってコト? 赤の他人である私を? 伴侶でもない私を?
「変なヒト、ですね……」
「あァ、そうだな。変なヤツに好かれちまったテメェも、十分酔狂なヤツだがな」
そう言って、もう一度手の甲にキスをする。
唇じゃないとはいえ、頬でもないとはいえ、異性に口づけされる行為には慣れていなくて心臓が跳ねる。
「これは俺の自己満足だ。お前さんが気にする事ァねェ」
彼のことは分からないことが多い。私の頓珍漢なお願い事を叶えたこととか、私を連れてきた理由とか、彼が何をしている人かとか。
分からないことだらけだけど、私を側に置きたいことだけは伝わった。それならば私は、彼に甘えるべきなのだろう。甘えてしまっても、いいのだろう。
彼の意志に返事をするように、ライトキスするために添えられた手をきゅっと握った。
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