不器用な距離


参話 九夏三伏 〜かき氷では冷えないもの〜


波が寄せては返す音が静かに反響している。

世の中は夏休み、というものに突入している。しかし、遠くからでも波の音が聞き取れるほどの静けさを持ち合わせている。人の話し声よりも、カモメの鳴き声らしきものの方が大きく聞こえる。

南国の砂浜というほど美しい景色ではなく、プライベートビーチというほど人がいないわけではなく、避暑地というほど爽やかではなく、かといって漁村の海辺というほどごちゃごちゃとしているわけでもない。

良くも悪くも普通の、数多くある、一般的な江戸の海水浴場である。


現在の時刻は午前八時。


夏休みという集客が見込める期間ではあるが、海水浴するにはあまりにも早すぎる時間帯と、今日が世間的には平日いうこともあり、海岸にはほとんど人がいない。しばらく経てば客は徐々に集まり、水着を着た人たちで溢れるだろう。だが、そんな格好をしている人物は今のところ見当たらない。

いるのは大学生くらいの年齢なのだろうか。サークルだか同好会だか、それともただの友達関係なのだろうか。若々しくも黒く日に焼けたサーファーたち。それと、海の家の準備をしている従業員くらいだ。


『海の家 パラダイス』という看板が掲げられている屋根の下で、銀時と神楽は横並びになって海の方向を見つめていた。

二人はお揃いの白いTシャツを着ている。胸の辺りに黒字で『真夏の天使』という気の抜けた文字が寂しそうにしている。

神楽の頭上には日射対策なのだろう。いつもの傘に加えて、水玉模様のほっかむりを被っている。銀時はというと、サウナにでも入っているかのように、畳まれていない状態のタオルを頭に乗せている。

二人の視線は行ったり来たりを繰り返している波打ち際でもなく、陽の光を反射してキラキラと輝いている海でもなく、これから灼熱になるだろう砂浜でもなく、青く高い空にそびえる大きく白い雲でもなかった。その更に遠くの景色。いや、景色すら目に入っていないのだろう。別の次元を見ているような、死んだ目をしている。

神楽がしゃべるのも億劫だ、という雰囲気で口を開く。

「銀ちゃん。なんで夏って暑いアルカ」

「それはな、太陽が薄着の女の子を見たいからだ。暑いと身も心も開放的になるだろ。ノースリーブからのぞく肩と脇、下着が見えない程度の足の露出、谷間が見えるほどのネックライン。それらを拝みたいがために太陽は馬鹿みたいに暑くなるんだよ」

「銀ちゃん。なんで夏って日差しが強いアルカ」

「それはな、薄着の女の子を見て太陽が興奮してっからだ。人間も興奮すると体温が上がるのと同じように、太陽も無防備な女の子のボディラインを見て鼻血出してっからクソみたいに日差しが強くなるんだよ」

「マジでか。太陽とんでもない変態アルナ」

「そーだよ。とんでもない変態なんだよ。だから夏の甲子園には魔物がいるんだよ」

「甲子園には魔物がいるって、そういう意味だったアルか」

「働けェェェェェェ!!!」

新八のツッコミが響く。

周囲に人がいないため、ツッコミ声が喧騒に紛れるなんてことはない。そのおかげで、よく響く。スピーカーにも負けない声量だったのだが、二人には何のダメージもなかった。


万事屋の三人は海の家のアルバイトとして駆り出されていた。曰く、人手が足りないから手伝ってほしい。ごくごくありふれた依頼内容だ。

聞けば何人かはバイトとして雇っているのだが、いかんせん、ほとんどが大学生だという。一部の大学は未だ前期の授業途中。もしくは試験期間中というところが多く、流石に単位を捨ててまでバイトに来いと言えるはずもない。

舞い込んできた仕事だったが海とはいえ、こうも暑いとやる気が削がれるのも事実だ。二人はわかりやすく現実逃避をしていた。

「なに二人してサボってんすか!? 口じゃなくて手を動かしてくださいよ!!」

「そうは言ってもよ。こんな暑い中、働いたら余計暑いだろーが」

「働きにきてんだよ」

巫山戯ふざけてんじゃねーよ社会人。

そんなニュアンスを含めた怒りの声だった。

新八の怒りをなんのそのと受け流し、銀時はいつもの飄々とした調子で言う。

「だいたいよ、水着のチャンネーと一緒に働くならともかく、ガキんちょと枯れたジジイしかいねェじゃねーか。なにがパラダイスだ。パラサイトの間違いだろーが」

「誰がパラサイトだ。水着の姉ちゃんなら来るっつってんだろ」

雇い主であるじいさんが怒りを滲ませながら言う。

「ジジイが呼ぶ姉ちゃんほど信用ならねェモンはねェんだよ。どうせアレだろ。チェンジ不可のババアが来るんだろ」

「ピッチピチの美人だっつってんだろ」

「カッサカサの間違いだろーが」

「じゃあ、おめ、ピッチピチの美人だったら三百円払えよな」

「いいじゃねーか。上等だ」


「おじ様。杉本さんところのお手伝い終わったわよ」

聞こえてきた声は明らかに若い女性のものだ。

じいさんの方を見ると、勝ち誇った顔をしている。

「あら。応援って銀時たちのことだったのね」

銀時たちと同じTシャツを着た、よく見知った女性が現れた。

違う部分といえば、Tシャツを胸の下あたりで縛っておりへそとくびれが丸見えなところと、太ももの付け根辺りまでしかない短いホットパンツを穿いている点だ。普段ここまでの肌の露出をしない人物であるため服を着用しているのにも関わらず、そこはかとなくエロスみを感じる。

ポニーテールがよりアクティブなものに魅せている。

餡子あんこ!? お前こそなんで」

「ここって、わたしの師匠の弟さんのお店なのよ。毎年、夏になると手伝っていてね」

餡子が鬱陶しそうに首にかかった髪の毛を払いのけるると、指についている何かが光る。

「あれ。餡子さん、ご結婚していたんですか?」

餡子の左薬指には、キラリと光るシルバーリングがはめられていた。飾りや装飾なんて何もない、シンプルなものだ。

銀時たちの身近な人物でいえば、長谷川さんが似たようなデザインの指輪をしていた。

「ああ、違うわよ。虫除けのためにしておけって師匠に言われてるのよ。手伝い始めた頃、男性に声掛けられることが多くて仕事にならなくてね。海の家でなら指輪してても、とやかく言う人はいないだろうからって」

「ま、こんな別嬪ならナンパしたくなる気持ちもわからないでもないけどな」

パンッ、とじいさんが餡子の背中を叩く。

「やだもう、おじ様ったら。お上手なんだから」

「いやいや、ほんとのことだって。俺がもう十、二十若かったら、餡子ちゃんのことナンパしてたよ」

「あら。そんなこと言ってると、師匠に言いつけちゃいますよ」

「それは勘弁してくれ……姉貴、クソ怖いんだから。大事な弟子に手ェ出したと知られたら、命がいくつあっても足りねェよ」

どうやら何歳いくつになっても、弟という存在は姉にはうだつが上がらないものらしい。


一時間も経つと徐々に人が増え始め、更に一時間が経つと海水浴客で砂浜が溢れかえっていた。

それはすなわち、海の家にも客が増えるということだ。

ひと泳ぎして小腹の空いた客、早めの昼食を食べる客、灼熱の太陽に熱せられた体を休ませる客と、その目的は様々だ。

他の海の家で調理台のトラブルが起こったとかで、じいさんが店を任せて飛び出していった。どうやらライフライン系には滅法強く、この辺りでは頼りにされているようだ。餡子の店のガスや水道なんかも、このじいさんにやってもらったらしい。

海の家はこれからの時間が本番だ。

ただでさえ足りない人手を、なんとか踏ん張って回すしかない。お客はこちらの人手不足など知ったこっちゃないのだから。

じいさんと交代しながら行っていた鉄板作業は自然と、銀時一人で背負うことになった。

海の家に居るかぎり日差しが直接射してくることはないが、熱せられた空気は容赦なく入り込んでくる。おまけに銀時の手元には、常にジュウジュウと音をたてる鉄板がいるのだ。サウナで作業しているかのような感覚に陥る。

「銀時、あんた顔が真っ赤よ。わたしが代わるから、裏で休憩してきなさい」

「いや、でも……」

鉄板周りはただでさえ熱いうえに、休みなく腕を動かし続けなければならない。力がいる作業だ。だからこそ、己から進んで鉄板係に立候補したのだ。

神楽は論外。新八は力こそあるが、クソ暑い中、クソ熱い作業をやらせるには気が引けた。

言い淀む銀時にどこか呆れたような、愛しむような顔を見せる。

「間違えてかき氷、余分に作っちゃったのよ。捨てるのも勿体無いから、食べてくれるとありがたいわ」

あくまで休憩はおまけ、というスタンスだ。

こうでも言わないと、頑として休憩しないと見越してのことだろう。ここまでお膳立てされて、甘えないわけにもいかない。

「あーー……じゃあ、休憩行ってくらァ」

裏に引っ込むと、一人分のかき氷が置かれていた。ご丁寧に、銀時が丁度食べたいと思っていた色のシロップまでかかっている。

誰もいなくてよかった。

ニヤけたような、変な顔になっているのが自分でもわかった。

どこかむず痒いような、それでいて嬉しくてたまらない。形容し難い感情が、胸中を乱している。

その熱を誤魔化すようにして、かき氷を掻っ込んだ。

「っ!!」

かき氷特有の、鋭い頭痛に襲われる。

「あ゛ぁ゛〜〜……クッソ痛ェ……」

今は、その痛みがありがたかった。
高まった胸の鼓動を誤魔化せるから。
意識の方向を逸らせるから。

かき氷の突き刺さるような冷たさで、火照った体が冷やされていく。


「あーーーー!!」


突然の静寂を破ったのは、神楽のバカデカい声だった。つかつかと銀時との間合いを詰め寄る。

「銀ちゃんだけかき氷ズルいアル!! 私もかき氷食べたいアル!! かき氷ィィィ!!」

「わかったからひっつくな! 暑苦しい!」

いつもの神楽なら銀時の手から遠慮なくひったくりそうなものなのに、銀時の手には溶けかけたかき氷が未だ顕在している。

そこで神楽の両手に皿が乗っていることに気付く。片方は大盛り、片方は店で提供しているものと同程度の量だ。

「神楽、その手に持っているのはなんだ?」

「焼きそばアルヨ。銀ちゃんと休憩しておいでって餡子がくれたアル」

「こっちが銀ちゃんの分アルヨ」と、普通盛りの方を渡してくる。

「って、餡子と新八の二人で店回してんのか!?」

あの二人なら接客関連のことは心配ないが、いかんせん二人も欠けるとなると人数が足りないのではないか。そう思って銀時が急いで立ち上がろうとする。

Tシャツの裾が引っ張られる。ここには銀時と神楽しかいないから必然的に、神楽しかできない。神楽は焦ることなく、むしろ平時より落ち着いた声で言う。

「じいさん戻ってきたし、客の数も落ち着いてるから心配ないって餡子が言ってたアル。私が裏行ったら、銀ちゃんが休憩せずに戻ってくるだろうから、そう伝えてって言われたヨ」

「そ、そうか……」

ストン、と先程まで座っていた椅子に、尻を落ち着かせた。


銀時の行動を完全に見透かされていた。

そういえば昔からアイツは、そういうところのフォローが誰よりも上手かった。二重三重に予防線を張って、痒いところに手が届く。それに何度も助けられた記憶がある。

視線を感じてそちらの方を見やる。神楽が焼きそばをもっさもっさ食べながら、半眼で見ていた。

「……あんだよ」

「ニヤけ面がキモいアル」

少女の率直で飾り気のない悪口は、時にクリーンヒットする。その矢印が成人男性に向いているならば尚更だ。

「ぐっ……お前なァ……キモいとか言っちゃいけませんって、何回言ったらわかるんだ。特にオッさんは、お前が思っている以上に繊細な生き物だからね!?」

「ニヤけ面の方は否定しないアルナ」

神楽が鬼の首をとったような顔をする。

しまった。先にそちらを否定しておくべきだった。そう思ったが、時すでに遅し。新しい玩具を手に入れたような表情でニヤニヤ笑っている。

それは純粋無垢なものではなく、面白いものを見つけたドS王子こと沖田くんのような笑顔だ。変なところだけ真似しやがって。

「ずっと気になってたけど、銀ちゃんって餡姐あんねえのこと好きアルか?」

食べていた焼きそばが変なところに入って、激しく咽せる。

「おまっ……なに、突然……」

「汚いアルナ」と神楽がぼやく。誰のせいだと思ってんだ。

手早く水を嚥下えんげして、喉に張り付いたキャベツの切れ端を胃袋へと送る。

「アネゴとか、九ちゃんとか、さっちゃんとか、ツッキーとかを見る目とは、なんか違う感じするアル」

神楽の口からはつらつらと、知り合いの女性陣の名前が挙げられていく。どれもこれも、かぶき町に住み着いてから知り合った人たちばかりだ。

「……そりゃあ、アイツとは幼馴染みだからな。見る目も違うだろうよ」

単純な歴だけで言えば、十年以上の年月がある。それは桂や高杉らと同じ期間だ。

とある出来事から一時期、餡子と寝食共にした期間もある。だからこそ、他の誰よりも距離が近い。それだけの話だ。

「そういうもんアルか」

「そういうもんなの」焼きそばをもう一口食べる。

そもそも俺なんかが餡子に恋慕なんて。許されるわけがない。

いや、違うな。想いを寄せるだけなら構わない。想うだけなら、心の中だけは何者にも囚われないから。問題は、それ以上の関係になることだ。

本来ならば、こうして再会することすら叶わなかったのだ。お互い大人になった身で言葉を交わして、同じ場所で働いて、食事を共にし、横に並んで歩く。ともすれば当たり前とも取れる行動すら、できるはずがなかったのだ。

あんな事がなければ、彼女はこんなところにいるべきではない人間なのだ。

「大人って難しいアルナ」

俺の胸中を読んだかのように、神楽が呟いた。

「ま、そのうちお前にもわかるさ」

頭にポン、と手を置く。

いつもなら「子供扱いすんじゃねーヨ」とむくれっ面で銀時の手を跳ね除けそうなのだが、無言でもさもさと焼きそばを食べていた。

銀時のかき氷は、いつの間にか空っぽになっていた。



*****



「餡子。鉄板代わるわ」

餡子の体から垂れた汗が首筋を伝い、Tシャツの隙間に吸い込まれていった。

ウェイターとして動き回っていた時よりも汗をかいていたが、汗臭さは感じなかった。それよりも焼きそばソースの芳醇な匂いが、餡子を包み込んでいた。

汗のせいだろうか。それとも鉄板から立ち込める湯気のせいなのだろうか。餡子のTシャツは肌に張り付いており、たわわに実った果実の形がよく観察できる。

めちゃくちゃデカい、という大きさではないが、男の手ですら全てを包みきれないサイズくらいはありそうだ。餡子の腕の動きに合わせて、たゆんたゆんと揺れ動いている。

それと同時に、下に着ているものがうっすらと透けていた。形からすると下着ではない。夏という季節にふさわしい、爽やかな水色のビキニだった。

「もういいの?」

「ああ。おかげさまでな。次とっとと休憩行ってこい」

「わたしはまだ大丈夫だから、後でもらうわ」

「シャツ。透けてっから着替えてこい」

そう指摘して、新品のタオルを肩にかけてやる。


「……えっち」


ジト目でそう言われた。

『エッチ』でもなければ『スケベ』でもなく、ひらがなで『えっち』だ。

その可愛らしい言い方の破壊力に一瞬くらっとダメージを受けるが、なんとか言葉を続けた。

「不可抗力だっつーの」

餡子の手にあるヘラを受け取る。

別に本気でそう思っているわけではないだろう。

その証拠に特段顔を赤くする様子もなく、かといって蔑むような視線を送ることもない。

「じゃ休憩行ってくるわね。何かあったらすぐ呼んでちょうだい」

銀時の背中を、ぽんと軽く叩いて去っていく。

「おじ様、新品のTシャツってまだあったかしら」

そうじいさんに声を掛けると、裏へ引っ込んでいった。



*****



日はまだ明るいが、海辺の人は少しずつ減っていっている。夏場のこの時間帯は時間感覚がどうしても狂ってしまう。


時刻は午後四時。


太陽はまだ照っているが、海水浴するには遅い時間帯だ。周囲の海の家もちらほらと店仕舞いの準備をしている。それはここ、『海の家 パラダイス』も例外ではない。


調理器具を洗い、テーブルを消毒し、床の掃除も済ませた。あとは着替えて帰るだけ、という状況だ。

海に入っていないとはいえ、海岸に長時間居座れば体中は砂まみれ。水着の中にも砂が入り込む始末だ。

女子二人は体に付いた砂を洗い流すため、シャワーを浴びに行った。無論銀時たちも体を一通り水で濯いだのだが、そこは男女差なのだろう。女子二人を待つかたちとなった。

砂と同時に汗も洗い流し幾分かさっぱりしたのだが、未だに元気な太陽のおかげで汗が復活してしまった。


「銀ちゃん、見てヨ! スイカ、ゲッツしたアル!!」

神楽が興奮気味に元気よく駆けてくる。その後ろから、立派なスイカを持った餡子が歩いてくる。

「どうしたの、そのスイカ」

「もらったアル」

新八の質問に対し、エヘンと神楽が胸を張る。

「笹嶋さん……おじ様がガスを直しに行った海の家の人がくれたのよ。あそこのお宅、スイカ農園経営しているから」

「ああ、なるほど。それで……」

「このスイカ、あんたたちで持っていっちゃって」

「え? でも、おじさんへのお礼の品なんですよね?」

「おじ様、スイカ苦手なのよ。それで笹嶋さんも、おじ様に直接渡さなかったんだと思うわ」

「でも、それじゃあ餡子さんの分が……」

「いいのよ。このじゃあ切り分けることもできないし。それに、わたしにはまだ最後の手伝いが残っているから」

「そのじいさんからの伝言だ。今日の手伝いはもういいから俺らと一緒に帰れ、だとよ」

餡子と神楽を待っている時に、じいさんに頼まれたのだ。帰る方向が同じなら、ついでに送ってやってくれ、と。

いい顔しいしているわけではないが、この幼馴染みは桂以上に生真面目なところがある。自分のことは劣後し、他者を優先してしまう。

いつか、それで潰れてしまわないか心配していた。

だから彼女の限界がくる前に、誰かがガス抜きさせていた。今は銀時たちの番だ。

「つーわけで、ーるぞ」

餡子の手から、半ば奪うようにしてスイカを持つ。

男の銀時でさえ少し重いと感じるほど立派なものだった。味の方は期待できそうだ。


戸惑う餡子の背を新八が押し、神楽が腕を引っ張る。

「餡子さんを送り届けることが、今日の万事屋僕たちの最後の仕事なんですから」

「早く帰って、スイカ食べるアルヨ!」

「スイカは逃げねェから、もう少しスピード落とせ。餡子がついていけてねェだろ」

「わたしなら大丈夫よ。合わせられるから」

「俺らに肩肘張る必要ねーよ」

コツン、と餡子の額を軽く叩く。

「お前が我儘言ったって、誰も見限ったりしねェよ」

「そうですよ。遠慮は言いっこ無しですよ」

「少しは私を見習うがヨロシ」

「おめーは餡子の謙虚さを、ちったァ見習え」

即興コントのようなやり取りに、クスッと餡子が笑う。


「なんだか、暖かくて良いものね」


四人の影が並ぶ。

それはさながら、家族のようにも見えた。

ヒグラシが夏の訪れを知らせるように、静かに鳴き始めた。

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