不器用な距離
漆話 慎始敬終 〜手をいたわる贈り物〜
「
定休日のお店に来て、神楽ちゃんがそう言ってきた。
大食漢の彼女のことだから、作った方が安くたくさん食べられる、と思ってのことなのだろうか。それとも銀時が作っているのを見て、自分も作ってみたくなったのだろうか。
以前、銀時がホールケーキを作っているところに出会したことがある。すいすいと淀みなくケーキを作り上げていく手腕は、何度も作り慣れている者の動きだった。
「銀ちゃんのバースデーケーキ作りたいアル」
ああ、なるほど。だから、わたしにケーキの作り方を請いにきたのか。
間近に迫った十月十日は彼の、銀時の誕生日だ。
ここ数年は祝うことがなかったため、すっかり失念していた。昔は、彼の好物である甘いものをよくあげていたなあと思い出していた。
「いいけれども、西洋菓子は素人に毛が生えた程度のものよ?」
わたしは俗に言う、お菓子職人というやつだ。お菓子はお菓子でも、和菓子専門である。レシピさえあれば作れるが他ジャンルのものとなると、ちょっとお菓子が作れるレベル程度だ。
「僕らで試しに作ってみたんですが、どうにも上手くいかなくて」
ばつが悪そうに、新八くんは言う。
確かにコツを知らなければ、スポンジもクリームも上手に作ることは難しい。今はスーパーに行けばケーキの土台となるスポンジもホイップも売っているが、それでは意味がないだろう。
バースデーケーキもといホールケーキをゼロから作った経験は殆どないが、基本的なものであるならば教えられるはずだ。
「わたしも作った経験はあまりないけど、それでよければ手伝うわ」
そう言うと、二人は嬉しそうな表情で口々にお礼を言ってくれる。
「まず、材料を……」
買いに行きましょうか。
そう言おうとしたら、満面の笑みで買い物袋を掲げられる。そこには薄力粉をはじめとしたケーキの材料が入っている。その他にも苺や色とりどりのチョコペン、チョコプレートにカラースプレーチョコやアポロチョコなんてものまである。
「あら、まあ。準備が良いのね」
「伊達に万事屋やっていませんから」
新八くんが得意げな顔で言う。
「じゃあ、早速作りましょうか」
二人を厨房へ案内すると持参したエプロンを着用し出したので、餡子自身も襷掛けをして愛用のエプロンをする。店の甘味を作る時に使用しているものだ。
餡子自身は手を出さず、指示をするだけに留めた。彼らの手で作らなければ意味がないからだ。
力のいる作業は神楽ちゃんに、少しテクニックのいる作業は新八くんに任せた。わたしがアドバイスをすると、その通りに筒がなく動いてくれる。流石は何でも屋をやっているだけあって器用だ。
デコレーション型に生地を流し込み、それをオーブンへ入れてタイマーをセットする。業務用の大きなものではなく家電量販店でも売っているような、一般家庭の台所にでも置いてある普通のものだ。
甘味処リコリスで提供している甘味の殆どには、オーブンを使う必要がない。しかし、そばぼろうや月餅などといった一部の和菓子には必要なものなので、それほど大きなものでなくて十分なのだ。
「焼いている間に、デコレーションに使う苺を切りましょうか」
使っていた道具を一旦流しに置くと、まな板と少し小さめの包丁を出す。
ざっと苺を洗い、ペーパータオルで水分と汚れを拭き取る。その後は、苺のヘタ取りだ。ヘタが付いたままでは、ただでさえ短い消費期限のケーキの足が更に早まってしまう。衛生的にも、あまりよろしくない。
半分はそのままにして、ケーキのデコレーションに使う用。もう半分はケーキにサンドするために、スライス状にする。
二人が苺に取り掛かっている間に、わたしは別のものを作る。
アーモンドプードルに、粉砂糖に、卵白、そして食用色素。それらを混ぜて、こねて、形を作っていく。
「餡子、何作っているアルか?」
苺の作業を終えたらしき神楽ちゃんが覗き込んでくる。神楽ちゃんの口から、フルーティーな香りがする。少しつまんだわね。
「マジパンを作っているの」
「マジパン? マジカルなパンアルカ?」
「ある意味合っているかもね」
神楽ちゃんの可愛らしい言い方に、思わずくすりと笑ってしまう。
「食べられる粘土細工みたいなものね。クリスマスケーキにサンタさんとか乗っているでしょう? あれと同じものよ」
「もしかしてこれ、僕たちですか?」
「ええ。よければケーキのデコレーションに使ってちょうだい」
銀時と、新八くんと、神楽ちゃんと、定春くん。万事屋の三人と一匹をディフォルメしたマジパンを並べる。でも、こんな手を込んだものをケーキのデコレーションに使ったら、わたしが手伝ったってことがバレちゃうかしら。
オーブンが加熱終了の合図の音を出す。オーブンの扉を開けると、ふわっと甘い香りが充満する。竹串を刺して生地が付いていないことを確認すると、軽く落とすようにして型から生地を外す。
「ごっさいい匂いネ!」
型から外したスポンジを、ケーキクーラーの上に移す。熱を持っている状態でスポンジを切ってしまうと上手く切れない。それに、このままクリームを塗ってしまうと、折角のクリームがドロドロに溶けてしまう。ケーキとはかけ離れたものになってしまう。
そのため、一旦冷ます必要があるのだ。
「スポンジ冷ましている間に、少し休憩しちゃいましょうか」
場所を飲食スペースに移して、お茶請けを出す。
余り物で申し訳ないけれど、すぐに出せるお茶請けがこれしかなかった。辰馬からもらったお土産のお菓子だ。
それは白いお饅頭で、宇宙怪獣ステファンというマスコットの顔が焼き印されているものだ。小太郎がたまに連れ歩いているエリーちゃんとそっくりな気がするが、兄弟なのだろうか。
「そういえば、気になっていたアルけど……銀ちゃんと寝たことあるって、ほんとアルか?」
新八くんがお茶を吹き出す。
「かかかか神楽ちゃん!!? なな、なんてことを聞いて……!?」
「新八も気になるって言ってたアル」
「そりゃあそうだけど、いきなり本人に聞くのは心の準備がいるというか」
「ぎ、銀時が言ったの……? その、わたしと寝たって……」
神楽ちゃんの不意をつく発言に一瞬で顔に熱が集まってしまって、そう言葉を紡ぐのが精一杯だった。
「言ったっていうか、口を滑らしたと言いますか……」
「ち、違うのよ。子供の頃だし、一回だけだったし、子供の頃っていうのも微妙な
思わぬ言葉に動揺してしまった心臓をひとつ、咳払いをして落ち着かせる。
「わたしの家が襲われたっていうのは話したかしら」
「はい」と、新八くんが相槌を打つ。
「逃げ出した後、昔お世話になっていた私塾まで無我夢中になって向かったのよ。そこには銀時も住んでいてね。心細くて寂しくて、その晩だけ銀時に一緒に寝てほしいってお願いしたのよ。今考えても軽率だったなとは思うのよ。婚前の女性が、許嫁でも婚約者でもない男性の寝所に潜り込むなんて。それでもあの時は、一人で眠るのが怖かったの」
一緒に寝てほしい。
そうわたしが言葉を発した時の銀時の顔は驚愕の二文字を携えていた。
それはそうだろう。銀時と会うのは久しぶりだった。わたしが誘拐されて、松下村塾に通えなくなって以来の再会だったからだ。あの誘拐事件から、数年の月日が経っていた。
そのうえ年頃の、思春期真っ盛りの男女が同じ布団で寝るなんて、昔の常識からしたら考えられないことだ。現代でも、そうそうやらないだろう。
けれど、あの時のわたしの精神状態はまともなものではなかった。何もかもを置いてきて、命からがら逃げ出して、一人だけでは歩いたことのない夜の道を裸足で行き、朧げな記憶だけでようやく辿り着いた見知った場所。
誰かの側にいたかった。
誰かの温もりを感じたかった。
ひとりになりたくなかった。
初めこそ渋っていた彼だったが、結局は同じ布団で寝てくれた。不安がって怖がるわたしを、壊れものを扱うかのように優しく抱きしめてくれた。全てを失ってしまったわたしの心の隙間を埋めるかのように。
「そういうわけで下心があったとか、疚しい気持ちとかはなくて、気心の知れた友人に側にいてほしくて、つい甘えちゃったというか……今思い出しても、自分の軽はずみな行動が恥ずかしいわ」
視線を二人に向けると、手のひらで両目を覆っていた。
「ど、どうしたの二人共」
「いえ……すみません。感慨深さと甘酸っぱさが同時に襲ってきて、感情が渋滞しているだけです」
「さっき食べた苺より甘酸っぱいアルヨ〜」
あ。やっぱり苺、つまみ食いしたのね。
「さ、さて。そろそろスポンジが冷めた頃だと思うから、続きをしましょうか」
そう話を切り上げスポンジの確認をすると、いい感じに冷めていた。
「このパン切りナイフでスライスできそう?」
「できればサポートしてもらえると助かります」
わたしの質問に、新八くんが自信なさげにそう答えた。
新八くんのスポンジを押さえる手とナイフを持つ手の上に、わたしの手を添える。後ろからだと新八くんの体が大きくて手元が見れないため、新八くんの右側から手を伸ばす。
「力はそんなに入れなくていいわ。ゆっくり、確認しながらね」
半分ほどナイフが進んだところで、そっと手を離す。この短時間で覚えてくれたようで、最後まで綺麗にやり切ってくれた。
「うん。とても綺麗な切り口ね」
「餡子さんのサポートのおかげですよ」
「ありがと。次の段階に進みましょうか」
ケーキクーラーに置いてあったスポンジは、回転台へと移動させる。
「それじゃあ、クリームを作っていきましょうか」
二つのボウルを取り出し、片方のボウルに氷水を入れる。
「新八くん、ハンドミキサーは使える?」
「はい。一応使えます」
「じゃあ、このクリームを七分立て状態になるまでかき混ぜてちょうだい」
「七分立てって、どれくらいですか?」
「泡立て器ですくえるけど、先っちょが垂れるくらいね」
「が、頑張りますっ」
ガガッ、とミキサーとボウルがぶつかってしまい、生クリームの飛沫が新八くんのエプロンや眼鏡に飛び散ってしまう。
慣れてないと、よくやってしまうことだ。
餡子自身も初めの頃は加減がわからず、クリームの飛沫をあちこちに飛ばしていたのは懐かしい思い出だ。
「わわっ。すみませんっ」
「大丈夫よ。表面を撫でるイメージでゆっくりと回してみて」
液状だった生クリームが、段々と質量を増していく。
「よく見るクリームっぽいアル」
「ハンドミキサーはここで終わりにしましょうか」
新八くんからハンドミキサーを受け取り、代わりにパレットナイフを二人に渡す。
「これでクリームを好きなように塗ってみて。クリームは後で使うから、三割くらい残しておいてね」
「クリームペタペタ塗るの楽しいアルな。この回る台も面白いネ」
「あら。神楽ちゃん、クリーム塗る才能があるみたいね」
「マジアルか! これで私も工場長ネ!」
次第に黄色い部分が見えなくなり、白一色に覆われた。
「神楽ちゃん、泡立て器でわたしがストップって言うまで混ぜてちょうだい。ボウルの中に水が入らないように気をつけてね」
「任せるアル!」
流石は夜兎族。女の子でも、その力は猛威を振るっている。これからもクリームを混ぜる時に欲しいなと、つい思ってしまう。
クリームが丁度いい頃合いになったところで、神楽ちゃんの動きを止めさせる。
絞り袋をセッティングし、クリームを詰める。
クリームの絞り方が心配だというので、練習を何回か行うことにした。初めこそ上手く絞り出せなかったが、回を重ねるうちにホイップクリームとして認識できるレベルにまで上達した。ケーキの右側を新八くん、左側を神楽ちゃんが担当する。
「それで、あの、餡子さん。もうひとつお願いが……」
新八くんが申し訳なさそうに訊いてくる。
「このチョコプレートに文字って書けますか?」
差し出したのは何も書かれていないホワイトのチョコプレートだ。
「何回か挑戦したんですけど、どうしてもうまく書けなくて」
「美味かったアル」
「あら。失敗しちゃったやつ食べちゃったのね」
新八くんからチョコプレートとチョコペンを受け取る。
「いいわよ。なんて書く?」
「『銀ちゃん、おたんじょうびおめでとう』って書いてほしいアル」
「わかったわ」
しばらくチョコプレートを見つめ、文字のレイアウトを想像する。文字の大きさのイメージが固まったので、神楽ちゃんの言葉通りにするすると書いていく。
「和菓子職人って、こんなこともできるんですか?」
「基本的にはやれない人が多いわよ。やる機会がないもの。わたしの場合は友達にケーキ屋やっている人がいてね、そのお手伝いに何回か参加させてもらったことがあるのよ。こんな感じでどうかしら」
「ありがとうネ!」
神楽ちゃんがチョコプレートを、そっとケーキの中央に置く。
「おおー! バースデーケーキみたいアル!」
「わっ。お店に売っているやつみたい」
「あなたたちが頑張った結果よ。銀時もきっと喜ぶわ」
そう言うと、二人は照れくさそうに笑った。その笑い方が、なんだか銀時に似ている気がした。
*****
「餡子さん。今日は本当にありがとうございます」
「わたしも久々に洋菓子を作れて楽しかったわ」
「お礼に、いつでも餡子さんのお店を手伝わせてもらいますので……」
「お礼なら、このお店の甘味を食べに来てちょうだい」
そう言うと、二人は目を丸くする。
「そんなことでいいアルか?」
「飲食店だもの。うちのお店の売り上げに貢献してくれたら嬉しいわ。ついでにお店の宣伝もね」
「はい! 今度はお客として来ますね!」
「バイバイヨ〜」
二人は何度も振り返っては手を振ってくれた。その様子を微笑ましいと思いながら、二人の背中が見えなくなるまで手を振った。
さて。ここからはわたしの問題だ。
銀時の誕生日に何を贈ろう。
新八くんと神楽ちゃんが手作りのケーキを贈るならば、ケーキは控えた方が良いだろう。甘味好きの彼であれば二台くらいペロッと食べてしまえるだろうが、血糖値が高めだとぼやいていたのを覚えている。彼は太く短く生きると公言しているが、それでも彼の健康被害を助長させるのは気が進まない。
昔から特定の物に執着する素振りはなかったから、形に残る物も案外難しい。彼のことだから、それなりに考えて贈ったものであれば喜んでくれるだろうが。
よく使う物となれば、下着類か? いくら知己の間柄でも、彼氏でもない相手に下着を贈るのは
一般的な男性への贈り物となれば。
時計。ネクタイ。ハンカチ。
そのあたりが定番だろう。だが、どれもこれもピンとこない。
時計は持っている様子はないが、困窮している万事屋の経済環境のことだ。質に入れられてしまうかもしれない。
ネクタイは、そもそもスーツを持っているのかどうかすら不明だ。それに日常的に着用しているわけでもない。
ハンカチは、彼が持って出かけることすら想像できない。箪笥の奥隅に追いやられそうだ。
甘味以外で、彼が喜びそうなもの。
現金なら喜びそうなものだが、なんだか生々しい。
そういえば、形に残る物を贈ったことはないなと思い返していた。昔は甘味自体が高級で入手しづらいものだったから、それで事足りていた。
町を歩けば、何か見つかるかもしれない。
そう思い戸締りをしっかりとして、早速町を出歩いていく。
最近男性に贈った物といえば、と思い返す。
小太郎には足袋、晋助には香、辰馬には名刺入れをあげたっけ。辰馬に至っては、去年のことになってしまうけれども。
誕生日当日に渡せるかどうかあやしい人たちばかりなので、腐るようなものはあげられない。それなのになぜか誕生日になると、自らわたしのところへ赴いてくれる。わたしの誕生日の時もだ。
何はともあれ。
日常的に使える物の方が良いだろう。
なるべくなら消耗品。
ボールペン、メモ帳、付箋紙あたりだろうか。流石にそれらを誕生日プレゼントとしてあげるには物足りない気がする。
ふわり、と漂う香りに鼻腔をくすぐられる。
それは、甘い甘い匂い。
砂糖成分から漂うような甘い匂いではなくて、人工的に付与されたような匂い。これと似たような匂いが、時たま彼から香ってきていたのを思い出した。
匂いの発生源であろう売り場に立つと、より一層香りが強まる。それを手に取って考え込む。
これならば、彼へ贈るのに丁度良いのではないか。
*****
「あら、銀時じゃない。どうしたのよ。お店がお休みの時に来るなんて」
銀時に誕生日プレゼントを渡そうと万事屋へ向かおうと玄関を出たところで、銀時とバッタリ遭遇していた。
「それがよォ、バルサン焚くからっつって追い出されちまってよ。夕方まで帰ってくんなって」
そう言う彼は、どこか拗ねたような感じだ。
「よかったら、あがってく?」
「どっか行く途中だったんじゃねェのか?」
「気分転換に散歩でも行こうとしていたところだから構わないわよ」
「……いや、遠慮しとくわ」
「そお?」
「散歩って、どこまで行くんだ?」
「特に決まってないわよ。その辺をふらふらするだけ」
わたしが歩き出すと、それに倣うようにしてついてくる。どうやらお散歩にはついてきたいらしい。
「新八も神楽もよォ、邪魔だからどっか行けって酷くねェか?」
「あんた、いつもギリギリになるまで動かないじゃない」
「やる気スイッチが行方不明なんだわ」
「常に手元に置いておきなさいよ。
「お前、虫苦手だったっけ?」
「苦手というわけじゃないけど、飲食店からしたら虫と鼠は敵よ」
「あー、まァ、そりゃそうだよな。
「それはあんたが家賃払わないからでしょうよ」
なんだか久しぶりに、意味のない会話を銀時とした気がする。そもそも最近は、というか再会してからこうして二人きりで会うことがあまりなかった。お互いに仕事があるし、お互いに従業員を抱えている身だ。昔に比べたら、時間を確保するのがなかなか難しい。
だから、こんなゆったりとした時間を過ごせることが嬉しく思う。
「あ。そうそう。これ、あんたにあげるわ」
適当なベンチに座っておしゃべりの途中で、袂から綺麗に包装されたものを取り出す。
銀時がぱちくりと目を瞬かせる。
「今日、誕生日でしょ」
「おっ、さんきゅ。覚えててくれたんだな」
「昔は毎年のように祝っていたし、覚えやすい誕生日だからね」
「なァ、開けてもいいか?」
「どうぞ」
包装紙を破かないように、丁寧に開く。
銀時の角ばった手には少し不釣り合いな、淡いピンク色が主役のものだ。
「ハンドクリームか?」
「ええ。前にあんたの手を触った時から気になっていたのよ。こういう手入れはあまりやらない方でしょう?」
銀時がハンドクリームの蓋を開けて、匂いを嗅ぐ。
「甘ェ」
「そりゃそうよ。いちごみるくの香りですって。本来男性に贈るなら無香料とか柑橘系の香りとかの方がいいんだろうけど、あんたはこっちの方が好きでしょ」
「おう。あんがとな」
わたしの目を見ながら、フッと微笑むようにして言う。
その表情に、わたしの心臓が少しだけ跳ねる。
銀時って、こんなにも柔らかい顔をする
まだまだ知らないことも多いな、とも思う。それが嬉しいことなのか、寂しいことなのか、今のわたしにはまだ判断がつかない。
定春くんが銀時に全力アタックするまで、あともう少し。
