土器土器体育祭

借り物競走2



障害物競走が終わり、校庭にある障害物を片付けを待つこと少し。体育祭実行委員と先生が総出で片付けをしたことにより、すぐに次の競技である借り物競走の出番が来た。

昨日が予行練習になったようで、幾分か心持ちは落ち着いていた。
ただ、昨日よりお題が大胆になっていたことは不安でしか無かったが。

放送部が読み上げる内容は『思いを寄せてる人』『セクシーだと思ってる人』などと引くとオワるものが多く、簡単な物系は聞いただけでも少なく感じた。
嫌なドキドキ。

順番がまわり、立ち位置に着く。
呼ばれるまで暇なのと気持ちを落ち着かせるために周りを見渡してみた。

1番すぐ目が行ったのは自分のクラスのテント。もう戻ったらしい遠坂と上野がポンポンを振って俺に合図している。小森はいないのか、とそのまま他のテントを見ていくと、Bクラスの親衛隊らしいチワワと並んで俺を眺めていた。
なるほどな、居ないと思ったら他のテントに居たのか。
隣のチワワが気を遣ったのか、組んだ腕にポンポンを乗せる姿がシュール。

そのまま横にスライドしていくと一際目を引いたのは、最前列で手を大きく振ってる鮎だ。
出番が来るとでも思っているのか、いつでも走る準備はできてる様子で笑える。
鮎に何やら話しかけている隣の丸君は顔が疲れていた。

そういえば、と頭に浮かんだ人を探す。
注意深く見ていくと、その人はまだお題に奮闘してる生徒のすぐそばに居た。

顔は知らされていないが、あの人だ。
俺を真っ直ぐに冷たい目で見てくる姿に直感した。
睨み返すことはせず、すぐに目を他に向けた。動きがまだ無いことが分かったことだけで充分だ。
それと、俺のことを今日注視しているのが分かったことも大きな収穫だった。
何故なら、俺のことを意識しているってことは、夏目副委員長が"黒"だと確定したからだ。

秘密裏に俺達が動いていることでも知らなければ、俺はただの一般の生徒のモブでしかない。注視する必要性が無い。

『最後の走者もゴール!難しいお題をよく頑張ったね!』張り上げる放送の声に驚いて思考から意識が覚醒した。
自然と眉に力が入っていたことに気付く。
今日だけで眉に皺入りそうだな。
こっそりと詰めていた息を吐いた。

ともあれ、考えることが多くて緊張は無くなっていたことは幸と思うことにする。
ピストルを構える先生を見てこれからのことに意識を戻した。
同じ列に並ぶ生徒が構えるのに倣う。

乾いたピストルの音が鳴り、同時に走り出した。

昨日と順番が変わることも無く、3着目にお題の箱を持つ先生の前に立った。
息を整え、願いを込めて手を突っ込む。

あーーーなんか良いやつ来い。
昨日みたいなのじゃないやつ。
いや、昨日と同じなら結果を知ってるだけマシか?

後から思い返せば、俺の駄目なところはこの瞬間だった。優柔不断なことを考えて紙を触っていると、2番目に着いた隣の生徒が勢いよく手を引き抜いた。その勢いにつられ、思わず手に触れた紙を引き抜いてしまった。

「や、っべ…。」

呆然と呟いた声に箱を持っていた先生が笑った。笑ってる場合じゃないんですよ先生ガチで。

隣の生徒の側に来た放送部が高らかにお題を読み上げる。
『さてさて〜1番に引いたフシキくんは…"ピンクの靴"!ピンクか〜。見つけやすいと思うけど、果たしているのか!?頑張って!』
顔をしかめて走り出す隣の生徒を目で追う間に、隣に来ていた放送部の生徒が俺の手元を覗き込んできた。

そうだ。まだ開いてなかった。
慌てて見えるように広げる。
見た瞬間、文字数が多…オワタと脳内に文字が浮かんだ。

読み上げる放送部。
『引くの早かったねえ!さて、2番目に引いたシバくんのお題は…お!
"見惚れるほどかっこいい人"〜!?!』
引き直して良いですか。

『良いお題引いたねぇ!引き直しはないから頑張って!シバくんが見惚れるほどかっこいいと思っている人は果たして誰なのか〜!?じゃんじゃん行こう!次は迷っていた……』
盛り上げてあっさりと次のお題を引いた生徒に向かう放送部。
無情。

どうしようか頭を悩ませながら取り敢えずゆっくり歩き出す。焼肉に全てを捧げているクラスメイトがこわいので悠長に悩んでいる時間は無かった。
ネタ路線で行くか?
体積が大きい生徒を見る。
ガチ路線で役付きに向かうか?
風紀や生徒会のテントに目線を向ける。
いや、でもその場合は親衛隊の視線がこわい。

どどどどうすれば。

悩んでる間にお題を引いた他の生徒がテントに入っていくのが見えて俄然焦る。
このまま無為に時間が過ぎるとクラスのテントに目を向けれねえ…!!

……クラス?

ハッと良い案が思い浮かび、同時に全力で走る。



「(待って息切れしてきた。もうしんどい)」
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