こばなし

嘘つきは嫌いだ。媚び諂いも御免だ。そんなもの、ドブネズミにでも食わせておけ。

僕の家系は代々警察官になる。ならないといけない。警視監である厳格な父に、明るく慎ましい母。
両親は、共に嘘を見抜く技術がすごかった。小さい頃、たまに宿題の手を抜いたことがあった。でも全部バレていた。そして、両親程とは言えないが、小学生高学年の頃には大抵の嘘は僕にも分かるようになっていた。同級生の自慢話の嘘。担任の偉そうな嘘。くだらない嘘。大人の嘘。嘘の顔。嘘の態度。嘘。嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

嘘。

気が付けば、僕は嘘に囲まれた世界にいた。

厳格で嘘を見抜く父は、うずらハゲのオヤジ共に汚い笑みを浮かべ、媚び諂い、酒を注ぐ。
同級生はお互いを蹴落とし合う為に、虚偽を話し、陥れ合う。

きっと、"嘘を付いてはダメ"、が母の吐いた僕への最初の大嘘だ。

嘘つきは嫌いだ。

だから、今の僕は、もっと嫌いだ。

嫌い、だった。
転機は上野君達と話してからだった。

同じ親衛隊で仲良く話している、様に見えても、僕達は結局家柄に縛られている。家柄が高いほどに同級生の親衛隊員においても自然と地位が高くなり、一目置かれる存在となる。それは自分にも言えたことだ。ただ、家柄だけで見られない様に努力はした。そのお陰で会長の親衛隊長からも仕事を多く頼まれることが増えた。そんな中、2学年に上がった僕は苦手な数学に詰まり、「柴って奴、教えるの上手いらしいよ。同じクラスじゃなかったっけ?」と比較的話していた同じ会長様の親衛隊の子から聞いていたから、つい後ろの席の犬に声を掛けてしまった。

それからは、話すようになった3人共が僕の家柄を聞かないこともあり、自身を偽ることもなく過ごすことになっていた。
掛け持ちするか悩んでいた上野君と共に居られることも大いに魅力的ではあった。

でも、認めたくないけど、癪だけど。…今、僕が自分を好きになれそうになったのは、紛れもなく柴のお陰なんだと思う。

客観的に見て、僕が柴に取った初コンタクトは控えめに言って酷かった。だから突き放されてもおかしくなかった。なのに、冷たい態度をとっても、上野君と大きく態度を変えても(これは当然。)楽しそうに笑う柴は、ズルかった。おおらかなのか、馬鹿みたいに人が良いのか。どれも違った。
気付いたのは、これが世間一般で言う、"普通の友達の距離感"だということだ。
気付いてからは、ずるずると3人の側を離れがたくなってしまい、自然と共に過ごす割合がほとんどを占めることになっていた。

そんな中起こった事が、新入生歓迎会での一件。
覚悟して話した僕とは反対に、馬鹿みたいな勘違いをしていた柴に安心した。

だからこそ、あの時の後悔と、初めて感じたあの絶望感は絶対に忘れない。

友達…の柴の為だけじゃない。
これは僕自身への信頼の為に、今度こそ、自分を偽ることはしない。騙すこともしない。

次に柴が何か親衛隊に巻き込まれるような事があったら、その時は、持てる今の僕の全ての力を使って止める。


……これでも、時期生徒会親衛隊総括なんだから、そういう時こそ使わないとね。
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