土器土器体育祭

新たな嵐



担任の焼肉奢りから真剣に競技決めをやり直ししたHRから数日。
新たな嵐が教室にやってきた。

上野が便所に行っている時に次の授業の準備をしている時だった。廊下から高低のあるはしゃぎ声が聞こえ、騒ついているのを椅子に座ったまま不思議に思っていた。
なぁ…って聞こうとしたら、情報通の小森も教室にいないことに気付いた。
廊下に向けていた目を遠坂に向ける。本を読んでいた手を止めて遠坂も不思議そうに首を傾げていて、俺と顔を合わせた。
つか手に持ってる本。今度は「ドラゴンの飼い方」を読んでいた。
飼いてぇの…?

教室から覗き込んでいたチワワが乙女の声を挙げた。
遠坂の手元に集中してる間に騒ぎはすぐ近くに迫ってきたらしい。
生徒会か?チワワのソワソワした姿を見てそう思ったのも束の間、俺から近い教室の後ろの扉が派手な音を立てて開いた。

「ゆずきさーーん!!!」
!?!!

驚いて、よく声の通るその主を見た。
表情は明るく、黒髪はボブより軽く、短く、動くたびにチラチラと見える薄い茶色のインナーカラー。肌の色は太陽知らずに生きたように白く、細身。身長は俺より低いくらい。

何より、顔が良い。

まだ幼く見えるその顔は青年というより、少年じみていた。顔の系統はクラスメイトの骨川。だから、口を閉じた時の顔を見ると儚げ美少年。だが目は生き生きしているので儚げとは無縁のようだ。

そんな彼がクラスに響き渡るような声で放った言葉は、"ゆずきさん"。

………いや、一瞬俺かと思ったけど、普通にあんな知り合いいねぇから俺じゃねえや。
知ってるのかと顔をいったりきたりして見せる遠坂に首を振った。

俺の他にこの教室にゆずきっていたっけ。
無関係と割り切り、引き続き授業の準備をする俺。引き出しからジャルタが描かれた下敷きを取り出す。

「ゆずきって方この教室にいますか?」
お前も知らねえのかよ。
内心苦笑いする。
教室を見渡すと、いつの間にか教室にいたクラスメイト達は扉の出入り口に居たままの来訪者に集まっていた。
「君1年生?」
「はい!」
「人探ししてんの?」
「はい!ゆずきって方知りませんか?」
「う〜ん…」
「わかんね、いたっけ?」
首を捻って考えているのを見て、なんだか、嫌な予感がした。
そういえば…なんか…忘れてるような…。

机の上で通知を受けた携帯の画面が光る。
上野から『なんか廊下人多くていけない〜』と来ていた。ラインを開いて、『原因が今教室に来てるからしばらく大便でもしてこい』と適当に返してトーク画面を閉じた時。
トーク欄で姉の名前を目にした。
と、同時にあることを思い出して固まる。

脳内に駆け巡る回想。
〜「実は僕の甥が今年そこに入学したらしくてねぇ」
「"理沙さんの弟?!絶対面白い、話したい!"」
「髪の内側が緑だからすぐ分かるかもしれないね」〜

そして、確か

「なんの騒ぎ?…って誰君?!顔が……………君、名前は」
「えっ、俺ですか?

天海 鮎(アマミ アユ)です!」
〜「名前は"天海 鮎"だよ」〜

アバババババババ。

ドッと心拍数が上がって汗が噴き出したのを感じた。顔を引っ張られたように勢いよく下に向けた。

うっっっそだろ。



「……………!!」
「し、柴君?」
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