雑草

なな 名前



今日はアイツが来ない日、っぽい。

今日は卓球のラケットとボールを使って、航さんとメグさんが地面にへばり付いてケツだけ浮かせて地面でポコポコと卓球もどきをしているのを審判させられている。
にしても、道具は一体どっからパクってきたのか。そういうことよくするから今更だけど。ちゃんといつも最後返しているのかも謎。

ボーッと試合を眺めていると、コンッと乾いた音を立ててボールが航さんの顔の横を跳ねて飛んでいった。

「ヘイヘーイ!おれの勝ちぃ〜!」
「クソッ。今のは良いボールだった…」
全然わかんねぇ。
けどメグさんの勝ちらしいから、メグさん側の指を1本増やした。5点先取制。俺の片手は5本しかないから。
今のでメグさんは4点。航さんは指3本の3点。あと1点でメグさんの勝ち逃げ。

腰を重くあげてボールを取りに行くのを目で追うと、フェンスの網越しに校庭でクラスメイトがサッカーをしているのが見えた。中にはアイツもいた。挙手したのか押し付けられたのか、キーパーをやっている。なかなかボールが来ないらしく、手持ち無沙汰にしゃがんで地面に何か書いているようだった。危ねぇな。
どうやらメグさんも見てたらしく、ねぇ。と声を掛けられた。目線は校庭のままだ。

「なんすか」
「あの子ってさ〜…」
そこから途切れたので無言で言葉を待った。
あの子ってアイツだよな。
「……名前なんだっけぇ」
「……………あー」

そういやそうだ。
なんだったけな。
つか。ここで自己紹介とかしてるわけねぇし、なんならアイツは先輩達を髪色で呼んでた気がする。俺もアイツを"アイツ"か"お前"、って呼んでたし不便も別になかったから気にしてなかった。
3分の1も覚えていないクラスの中の1人。必死でアイツはクラスの奴にどう呼ばれてたか、名簿は、などと考える。

「あ〜〜え〜〜と、確か、たし…か…」
「おぼえてないの〜?はくじょうものだぁ」
「やーいトッシーの薄情者〜」
ラケットを叩いて囃し立てるメグさんに、ボールを取ってきた航さんがノリで混じってきた。うぜぇ。
「何の話?」と聞く航さんにメグさんが、「いつもここに来る地味くんの名前〜」と言っているのを、眉を寄せて目を瞑った耳に入った。

なんか。そう。地味な割にふわふわした…。
確か、花がブワって感じの……。

「……はな、花束フワ男…」
「……………。」
「……………。」

今までで類を見ない冷たい視線を食らった。メグさんまでも。

「ねーわ」
「それはない」

クッッッソ。
頭を掻き毟る俺を横目に2人は、あだ名でも考えるか。と話している。アンタら1文字もアイツの名前知らねぇ癖に…!!俺も思い出せてねぇけど…!!花は合ってる!花はある!多分!!

「ギャップがすごいから〜…ねこちゃんは?」
猫?
「ンで猫?」
「フワフワしてるけど、濡れたらしょもるからぁ〜」
「あーね」
確かに。
「でも猫って感じなくないすか?」
考えるのを放棄して会話に参戦した。
「ん〜…まぁそうだねぇ…」
「どっちかというと、動物ってよりは、物体っつーか…海中生物とか…なんか喋らないやつ的な…」
俺の言葉に頭を捻る2人。
「ん〜…海中ねぇ…」
「海…海……食べ物…………あ。」
「わたる思い付いたぁ?」
「ウニは?」
「ウニ……。」

頭に浮かんだのは、ツヤツヤした黒の棘が無数に頭から生えた、アイツ。

……………。

「……ッブハッ」
「アッハッハッハッハッハ!!!」
「ンハハハハハッ」
俺が噴き出したのを皮切りに3人とも腹を抱えて笑った。それはねぇわ!!!

涙が出そうになった後、満場一致でアイツのあだ名は"ウニ"に決定した。
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