エイプリルフール2022


登校して下駄箱で靴を履き替えていた柴。
すると、丁度小森も来たようで少し離れた隣で靴を履き替え始めた。それを見て柴は何か考えるように、視線だけを斜め上に向けた。数秒後に手元で何やらガサゴソとして、そして再度小森の方へ視線をスライド。
「なぁ小森」
「何。おはよう」
「おはよ。いや、なんか、…俺のスリッパ無くて」
嘘だ。先程ガサゴソと適当に袋に入れてロッカーの隅に押し隠しただけだった。
困った顔をする柴を一瞥するも、小森はまた靴を履き替える自身の作業に戻り、最後にバタンっとロッカーを閉めた。
やっと柴のそばに来て、"無い"ということの証明の様に開けたままの柴のロッカーの中を見た。
それから横に立つ柴の顔を見上げた小森。柴は何を言われるのかと内心ドキドキしながら、耐えるように頬の内側を噛んで言葉を待った。
「………。」
「裸足で良いんじゃない」
「………。」
「…………。」
「……………えっ、それだけ?」
「何?……"やっと犬らしさを自覚したのか"?」
違う、そうじゃない。
柴は脳内でポーズを決めた。
じゃ。と言ってスタスタと素気無く先に行った小森に、慌てて先程雑に隠したスリッパを引っ張り出した。

「…スリッパあったのか」
「あーー悪かったって。エイプリルフールだし、ってつい」
追い付いて小森の隣を歩く柴。

「僕は嘘が嫌いだ」
「だったな」
不貞腐れた表情を見下ろして口元に笑みを浮かべる柴。
そのまま並んで教室まで歩いた。
お互い無言だったが、2人は悪い気分ではなかった。


「あれ。なんで体育館シューズ持ってんの?今日体育外だろ?間違えた?」
「……うるさいな」



小森win…?
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