中間テストですよ

図書館



向かう途中、ばったり化学の先生と会った。
そのまま渡そうとすると、上野に赤点回避用のプリントを用意してくれているらしく(優しい。)結局教室に向かうことに。


「ちゃんと勉強してますか?」
「し、しししてます…」
「はい」
「うん。柴君は心配無いんだけどね、上野君は去年も……」
と、粛々と提出物の大切さを教えられてしょんぼりしている嘘バレバレ上野に笑っていると、図書館が見えてふと立ち止まった。


図書館か……最近行ってないな。
遠坂が本を読んでいたのを思い返し、借りるかは置いておいて、今は何があるのか見たい気持ちに。

「柴??」
「悪い、ちょっと図書館見てくる。あとでそっち行くわ」
「えー…………分かったぁ…おれも貰ったらすぐ行くね…」
おー。暫くそのまま提出物の大切さを叩き込んでもらっててくれ。

悲しげな目をした上野に見送られ図書館に向かう。

まあ、その、なんというか。
実は、図書館行こうと思ったのは本を見るためだけ、では無い。

ここ1週間くらい上野が俺と離れたがらないから、たまには1人になりたかったってのもあった。

本を読むと眠たくなる上野は、図書館で過ごすのが苦手らしいから進んで着いてこないと踏んでたし、予想は当たってたな。



ところでこの学校には図書"室"ではなく、図書"館"がある。

中高一貫校のこの学校は、少し離れた中等部と高等部両方が使えるように、丁度間に図書館が造られている。しかも二階建て。流石。お陰で少しだけ校舎から離れてはいるが、図書館の周りにはカフェなどがあり、通り過ぎている今でもカフェの机で勉強している生徒がちらほら見えた。
まあ大学と似たようなもんか。


久々に中に入ると、新しい本が入り口近くに沢山並んであり新鮮な気持ちになった。

流石に試験前ということもあり、自習スペースは結構埋まっている。

試験期間は俺も来るか。静かで良いし。
2階に上がり、奥にいくにつれて人気が無くなる。


にしても、去年からいつ以来だっけな。
……あーそうだ、期末テストか。


立ち止まった所は、庭園が見える陽当たりの良い机。
参考書の立ち並ぶここは、入り口や漫画の置いてある所から離れているからうるさくないし、あまり人も来ない。
だから、ここを気に入って去年は何人かで勉強会を開いたりもした。


そういや。
勉強会といえば、去年中3の………
「柴先輩?!!!会いに来てくれたんですか!?!」
「グッふッッッ?!!?!!!」

思考をぶった斬られたと思えば、背中から強い衝撃が走って前屈みに倒れ込みそうになった。
のを、背中の衝撃の主が慌てて引き戻した。
アッそれ鳩尾に拳が丁度。オェ。

「あわわすいません!!!」
「ゴホッ、いや、大丈夫……」
ではないが。

底抜けに明るい声の主。
察しは付いていて、振り向いた少し下の頭を見て返事を返した。

「久し振り、丸君」
「はい!!柴先輩!!」
「…もう少し声のボリューム下げような…」
「!…すいませ…ハッ!!どうしたんですかその顔!!」
「それは、あー………」

外で話そうか。
と言って図書館から早々に出た俺らはカフェでそれぞれの飲み物を買い、外のベンチに腰掛けた。


丸君と呼んだこの子は、本名"小犬丸 京平"(コイヌマル キョウヘイ)。長いから丸君。
去年勉強会を開いた際に仲良くなった子だ。文武両道らしく、中等部の頃は剣道部主将で、勉強もできていたから勉強の際に聞かれてもあまり教えることはなかった覚えがある。

道すがらに怪我については適当に流しておいたし、どうやら俺を探してたっぽいことについて聞くと、まだ熱い抹茶ラテに息を吹いて冷ましていた丸君が待ってましたと言わんばかりにこちらに向き直って話し始めた。

内容は、去年以降ぱったりと図書館に行かなくなった俺に、高1になったし挨拶をしようと思ってもできず、交換していたラインも消えてて困っていた。らしい。

ん?ライン?あ。
「あ〜〜そうだそうだ、携帯変えてライン引き続ぎしてなかったんだったわ。悪い」
「も〜!!!嫌われたかと思っちゃったじゃないですか!!ほら!」
「いやいや、嫌うわけないだろお前みたいなやつ」
QRコードを出してきたのを読み取りながら言うと、嬉しそうに照れた顔を丸君が見せた。

犬だな〜〜〜。
勢いよく左右に降っている尻尾が俺には見える!元気な幻覚!

最近よく俺のことを犬扱いしてくる担任やクラスメイトがいるが、こいつの方がよっぽど犬だ。それもちゃんと可愛い。

しかも名前もコイヌマル。
これは言うと怒られるが。

この学校の顔面偏差値では霞んでしまうが、スポーツマンらしくショートカットに、顔立ちは垂れ目で優しくはっきりしている。まだ身長も俺より低く幼い顔立ちだが、率直に言うと、かっこいい。

犬種で言うとコーギー。


やっぱ可愛いか。


丸君は抹茶ラテ、俺はカフェオレを飲んで一息ついていると、唐突に思い出したようで丸君が勢い良くこちらを見た。

「そうだ!聞いてください!昨年の引退試合の全国大会で俺、優勝しましたよ!!」
「マ?!!すげえ!!」
流石丸君!!!!略してさすまる!!!!

何故か恒例になった、試験の点数が良かったとか凄いことをすると丸君の頭を撫でくりまわすやつ。
これを今年もする様で、にこにこしながら頭をこちらに差し出してきたから、手が空いている片手で思いっきりワシャワシャした。
「流石!!凄いぞ丸君!!!」
「えへへ〜」

前よりやっぱり髪伸びてるな〜と思いながらもハゲそうな速さで髪をぐしゃぐしゃにしていると、急にゾワッとして手を止めた。

視線……?

感じたことがある様な無い様な。
良い気分はしない。
気のせいかもしれないが、周りをきょろきょろ見渡す。
でも特に何も無いようだった。

「どうかしたんですか?」
突然不可解な行動をした俺を訝しげに見る丸君に「や、なんでもない」と言うも、もしや親衛隊か……?と思い至る。

中等部に親衛隊はなかったらしいが、大会に一度見に行った時は応援してる生徒の数が結構いた。もしかしたら高等部になった今年からはできる、又は既にもう出来ているかもしれない。

んあ〜〜〜だったら面倒くさいことになりそうだ。

それとなく恒例儀式をやめれないかと思案し、口を開いた。
「お前も高校生になって頭触られんの嫌じゃねえの?」
「嫌じゃないです!」
即答だった。
いいんかい。

にぱっ!とする丸君の顔を見る。
無理だなこれ。

諦めて「そーかー」と言いながら死んだ目で頭をポスポスしておいた。
もう皆に撫でられているから周りは何も思わない、に賭けることにしたわ。
よしよし皆の小犬丸は今日も可愛いなー。





「柴先輩!…ところでガトーショコラって好きですか?」
「ん?うん、人並みに?」
「良かった…また作りますね!」
「?おー…ありがとう、楽しみにしてる」
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