土器土器体育祭

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「…上がった。洗濯物サンキュ」
「全然。じゃあ食おうぜチャーシュー」
髪をしっかり乾かしてリビングに入ってきた風呂上がりの惶に声をかけてテレビを止めた。チャーシューかよ、と口の端をあげて笑う惶に少し恥ずかしくなった。
や、だって気になるだろ。初めて作ったやつ。味見してないし。

具材は出しておいたからキッチンに向かおうとしたら、それより先に惶が向かうのに疑問符が。声を掛けようとしたら洗面所から断続的な機械音が聞こえた。

「ラーメンは俺がやるから洗濯物頼む」
そういうことか。
風呂から上がる時に残り時間が見えたんだろう。納得して惶にラーメンは任せることにして洗濯物を干しに行った。

戻ると、2人分の盛り付けられたラーメンがあり、鍋も洗い終えてくれていた。
チャーシューが盛り盛りで笑う。

「さんきゅ」
「洗濯物もな」
言葉を交わしながら席に着き、手を合わせた。

チャーシュー美味え。
一口目すぐにチャーシューを食べて美味かったことに安心。
食べ進めていると、俺よりはやく食べ終えた惶が替え玉しにキッチンに無言で向かうのに感心した。具沢山なのに流石。
戻ってきた惶に、体操着が汚れていたことが気になっていたから聞くことにした。

「なぁ、あの汚れって競技で?」
麺とついでに一緒にもやしを茹でたらしく、またいっぱいになった器に箸を差し込んだ惶が否定した。
「いや。あれはZクラスと親衛隊が揉めた時に」
あぁ。それで帰ってくんの遅くなったのか。
体操着の汚れと一緒に疑問が晴れてスッキリした。けど、もう一つ新しい疑問が。

「あ、でも惶って隠れ風紀なんだろ?その騒ぎの面子の中堂々と止めたのか?」
ラーメンを啜っていた手を止めて苦い顔になる惶。
「……塩島がうるせェからバレないようにやった」
大変だったらしい。お疲れ、と笑って声をかけた。

にしても、風紀が止めるくらいZクラスと揉めるとか親衛隊も気が強いな。
俺なら取り敢えずすぐ謝って退散するわ。
遠い目で器の底にあるもやしをかき寄せた。

「それより、胡散臭ェ奴から連絡来てたが…お前見てるか」
「え?」
うそ、来てた?ポケットに突っ込んでた携帯を取り出して通知を見ると、確かに加賀屋先輩から来ていた。
ラインを開いて内容を確認する。
昼に会った時に言っていた様に、明日の作戦会議のことだった。

日時は、体育祭開会前。風紀が借りている一室。
周囲に風紀と話すことをもらさない様に、とのこと。

あと文化部のリレーで1番だったとどうでも良いこともあった。

「アイツなんなんだ」
内容全てに目を通し、携帯の画面を暗くした。
「俺もよく分かんねえ」
ただの犯罪者。とは言えない。
けど、いよいよ明日が俺にとって勝負所らしい。

さて、どういう話があるんだか。
底にある残った具を口に掻き込んだ。

スープを飲み切ると惶はまだ食べていた。
器を持っていこうと席を立つと、あとでまとめて洗うから置いとけ、と言ってくれた惶にこれくらいと思ったが、「ついで」と洗濯物の意趣返しの様に一言言われたため、お言葉に甘えることにした。
礼を言ってから歯磨きを済ませてリビングに顔を出す。
食べ終えたらしく、キッチンに立って器を洗ってくれている惶にもう一度お礼と、「おやすみ」と言うと、同じ様に返してくれたのを聞いてから部屋に向かった。


ベッドに勢いを付けて腰を下ろす。
反発を受けてそのまま横になり、腕を枕に乗せて片手で携帯をいじる。

学校行事はやっぱ疲れる。
普段とは違うことも多くあるし、何より今日は姉ちゃんと会うだけじゃなく、ついに鮎にも認知されることになったしな。
ラインで当人から『また話そうね!なんならそっちのクラス行くから!』と来ているのに苦笑いする。
そうだ。写真送っていくか。
体育祭の時に考えていたことを思い出してそれぞれのトーク画面を開き、写真と共に適当な一言を添えて送る。

ついでに木雨へは、写真こそ無かったが、『お前そんな速くねぇのになんで走ったんだよ笑』と煽っておいた。
すぐに既読が付き、『ヤダ!見てたの?!変態!!』と返されたのに思わず声を上げて笑いそうになるのを耐えた。
なんで変態なんだよ。
あの場にいた全員変態になるだろ。

返信として適当なスタンプを送り、何気なく今日撮った写真を画像欄で眺める。

俺の割には結構撮ったな。
ゲームのスクショの後に10数枚体育祭での写真があることに、こんなに撮っていたか、と驚く。
最初の1枚をタップしてスライドしていく。
割と最近携帯を変えたこともあり画質が良い。小森も最新のに変えれば一眼いらねぇんじゃね?適当なことを思って写真を流し見していたが、ある1枚を見た時に引っ掛かりを覚えてスライドする手を止めた。

クラブ対抗リレーの時の1枚。

上野に送った写真だ。
髪をくくり、真剣な表情でバトンが来るのを待っている上野にピントが合っている。

その後ろ。

人差し指と中指でアップする。
そこに写っていたのは、カメラを持った親衛隊の団体。そして、その団体に話しかけている様子の、夏目副委員長だった。
団体の中心にいる、優しそうな表情で可愛いと表せる小柄な生徒と一等近い距離で穏やかに笑い合っていた。

走り終わり、通りがかりに雑談、もしくは注意をしに来ただけの様に見える。

「…何も知らなければ、な。」
枕に肘を乗せた方の手で頬杖をついて、写真から視線を外した。

加賀屋先輩の反応を思い出す。
──にんまりと笑みを作りだした。
「やっぱり、うーたんはたまんないネ」

"内通者"
ピンと来たのはその3文字。
夏目副委員長が"そう"であれば、新入生歓迎会で風紀の目をかいくぐり制裁を実行できたこと。テストの後の、宗や南部さん、そして俺がターゲットにされた一件。その2つのスジは通る。

なにより、加賀屋先輩の反応。

…けど、スジが通るだけで確証もなければ証拠もない。この写真も斜に構えて見ているだけかもしれない。

もう一度写真を見つめ、画像を閉じて画面を消した。

理屈立ててもしょうがねえ。
取り敢えずは明日の作戦会議次第だ。

息を吐き、頭をかき混ぜて仰向けに寝転がって目を閉じる。

それと、これからは夏目風紀委員長の動きを注意してみるか。
明日のことも杞憂なら、それでいい。



目を開け、怠い体を起こして電気をパチっと消した。
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