夏の話

夏休みが目前に迫った現在。浮かれ野郎がクラスでわいわい予定を立てており、部活のある者は少しゲンナリしていた。
「そういえば」と、口を開いたのは小森だ。
「夏休みに何する、とかあるの?」
浮かれ野郎に感化されたらしい。
予定が明白な上野がすぐに反応を示した。
「おれはほとんど強化合宿かな」
大変そうだな…。と柴が他人事ではあるが嫌そうな顔で口を開く。
「…楽しみ?」
「楽しみ!!」
即答した上野はいつも通りだった。そのまま顔を横に向け「遠坂くんは?」と聞いた。
「僕?僕は実家に帰るくらいかなぁ〜」
聞かれた遠坂は腕を組み、考える様に首を傾けて答えた。そしてそのまま柴に視線を移す。
「柴君は?」
「お、れ…は……予定いっぱい…かな」
目線がバタフライしていた。小森が肩をすくめる。
「どうせ寮でゲームしかしないんだろ」
つり目を僅かに見開いて固まる。図星だった。それを誤魔化す様に口を開く。
「そういう小森は何かあんのかよ」
「……僕は…僕も実家に…帰る」
俺とそんな変わんねぇじゃん。と睨んだ柴。小森がムッとした顔になり、手を伸ばして柴の腕を捻り上げた。ギブギブ!と机の叩くいつもの光景。それを上野が微笑ましく見ていた。柴が小森から逃げ出して遠坂の背後に隠れたのを見て、あ。と上野が思い出したかの様に声を上げた。細身では隠れきれていない背中から顔を覗かせる柴。
「何?どうした上野」
「そういえば…学校からすぐの街で夏祭り、もうそろそろだったよね」
「へえ…あ、去年寮で聞こえたあの音って花火だったのか」
「多分そうだね〜」
柴は去年寮で篭っている時にそんな音がしたのを思い出した。楽しそうだよね〜、と言った上野は何とも言えない顔を浮かべた。懐かしむような、寂しいような、そんな表情。それを見ていた柴が口を開閉し、間を置いて再び口を開いた。
「…………もしお前の強化合宿に被ってなかったら行ったらいいんじゃねぇの?」
「え?」
柴の発言は意外なものだったらしい。キョトンとした上野。何か言うより前に小森が元気よく挙手をした。
「上野君が行くなら予定空けるよ!!なんなら実家行かなくてもいいし!!」
行ってやれよ。と言う柴のツッコミは耳に入らなかったらしい。携帯でカレンダーを開いたのが見えた。
「ふふ、僕もしっかりと決まってるわけじゃ無いし、合わせられると思うよ」
遠坂が、僕も行きまーす。と手を上野と柴に振ってみせた。
柴は、上野が誰かと行くならって意味で言った筈が皆で行くような話の流れになり、内心何故……。と思っていたが、それを発言する勇気は無かった。最も、皆で祭りに行けるのは楽しそうだと思ったので、最初から後ろ向きな発言をするつもりもなかったが。そう、柴は決して、暇だしな。と思っていたわけではないのだ。決して。
上野がそれぞれの面持ちを眺め目を丸くしていたが、「で、お前はどうしたい?」と、柴が小森から遠回りに近寄り、話しかけてきたのを見て頬を緩ませた。
「絶対行く!!」
「強化合宿の予定は?」
「まだ見てないけど、強化合宿も行って祭りも行く!!」
分裂する気かよ。と柴が笑った。

その後。上野の予定を3人が一緒に確認。合宿から帰って来た次の日の休みと祭り(3日あるうちの最終日だ。)がピンポイントで被っていたので、その日の夕方に祭りのある神社の正面の鳥居前で集合することになった。
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