雑草

はち 家族



今日は菊池くんの念願の水泳の授業。この間は水着を忘れて入れなかったけど、今回はちゃんと持ってきたらしい。
クラスメイトと戯れながらプールサイドで準備運動をしているのを先輩達と3人で眺めていた。

俺とピンクさんが煙を吐き、
赤さんは大きく息を吐いた。

そしてまた深く吸って
……吐いた。座りながら足を交差させ、体を捻ったポーズで。

澄ました顔で深呼吸をする赤さん。

……………怖い。

あまりの不気味さに、隣で寝転び出したピンクさんに聞けば、どうやら赤さんはヨガにハマったらしい。なるほど。ヨガだったのか。てっきり軟体生物のモノマネ練習かと。
これは聞かれたら肩パンされそうなので、心のうちに秘めておくことに。
菊地くんと違って俺、喧嘩とかできないし。
痛いの嫌だし。

「なんかねぇ、3日前?くらいからここでやりはじめたの」
ここでやるんだ……。
「家では落ち着いてできねぇからー!」
そうなんですね。

こちらに向けて謎に親指を立て、爽やかな笑顔を見せる赤さんに適当に頷いて返した。
ピンクさんが親指を立てて赤さんに返しながら、俺に顔を向けた。

「アイツんちねぇ、7人?8人兄弟の長男で大変なんだってぇ」
「大家族なんですね〜」
のんびりした空気に釣られてのんびり相槌をうつと、直ぐに赤さんから声があがった。
「多い!!!5人兄弟!増やすな!!」
5人もいれば7人と変わらない気がする。

「ちなみにぃ、おれんちはねぇ〜」
「はい」
「ジャン!おれだけ!!」
「ひとりっ子なんですね」
自身に親指を向けてニコッと笑顔を見せるピンクさんに頷く。
何でそんなにニコニコしてるのか分からないけど、楽しそうなら良かったです。

「ウニくんは〜?」
「………。」
「おれといっしょ〜?」

「………………あっ。俺ですか」

変わらず俺に向かって話してくるから、やっと気付いた。思考も固まって、煙草を吸う手もとまってしまっていた。灰がもう2センチくらいになっていたから指で煙草を弾く。

「…そうですね。俺は妹が1人」
「へぇ〜!なんか意外〜おれと一緒かと思ったや」
にこにこと変わらず会話を続けるピンクさんに、"ウニくん"とは、などと会話を止めて聞くのは面倒に思った。

「よく言われます。ひとりっ子っぽいって。自分ではよく分からないですけど」
「だよねぇ。妹ちゃん何才なの〜?」
「中学2年だから…13歳?だったと思います」
「弟も同じ中2ー!反抗期大変だよな!」
離れたところで聞いていたらしい。赤さんが声を少し張り上げて会話に入ってきた。
「たいへん?」
どうだろう?
「…大変って程では。昔に比べてあまり俺と話さないようにはなりましたね」
「ふぅん。兄弟も色々あるんだねぇ〜」
「そうですねー」
男女ではまた違うのかもしれない。

そうしていると、チャイムが鳴った。
プールの方を見ると、クラスメイトが柔軟をして解散しているのが見えた。少し離れたところにいた菊地くんも丁度こちらを向いていたようで、目があった気がした。

途端、噴き出した。

1人笑い出す菊地くんにクラスメイトが話かけている。

それきり屋上に顔を向けなかったけど、一体何に笑ったんだろう菊地くんは。

寝転んでいるピンクさんは菊地くんから見えないし、赤さんは片足で立って変わらず澄ました顔で深呼吸をしていたし。


なら、赤さんか…………俺?

1人首を傾げた。
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