雑草

きゅう ピンクさんと



屋上に来た時、あの3人が一緒じゃない時がある。
先輩2人だけの時はよく見かけるけど、まれに1人の時が。

今日はその日らしかった。

高く軋む音を聞きながら鉄の扉を開けてすぐ、ピンク色の派手な髪が屋上の真ん中で光を浴びているのが見えた。
いい天気。
前に一歩踏み出し、段差を降りる。
ピンクさんはこっちに背を向けていて、頭上から煙が風に揺られてたのが見えたから煙草を吸ってるんだろうなと思った。
話すこともないし、と、そのまま横に進んで壁沿いに座ろうとしたら、扉が閉まった音が聞こえたらしく指通りの良いさらさらの髪を振ってこっちを向いたピンクさんの顔が見えた。
眩しそうに目を細めた口元には黒色の煙草が。
会釈するか考えていると、「ウニくんじゃーん。こっちおいでよ」と短い煙草を手に取り、緩く笑ったピンクさんが声を掛けてきた。
屋上の真ん中かー…。

ゆっくりピンクさんの隣まで来ると、片手を地面につきお尻を軸にして、体の向きをくるっと俺の方に変えた。
「ワタルは数学の補講でつまんなかったんだよね〜。トッシーは知んない」
そうですか。
見上げたまま口を尖らせるピンクさんにとりあえず頷いておいた。
ワタル…誰だろう。
トッシーは菊地君だから、多分赤さんなのかな。
煙草は吸い終わったのか、手元に置いてるシガーケースから煙が細くあがってるのが見えた。
1人分空けてピンクの隣に三角座りする。

「あのさー、おれん家バイク修理やってて〜、帰ったらよくそこでバイトしてるんだけどさぁ」
唐突に始めた話を止め、黒い箱から黒い煙草を取り出し、火を付けるのを見て俺もポケットから煙草を出した。

「昨日客が持ってきたバイクがさ!キックスターターだったんだけど、修理後の確認でオヤジにエンジンかけるように言われたんだけど全然できんくてマジイミフだったの〜〜」
火をつけた煙草を吸いながら頷いた。
内容のほとんどが分からない。
ピンクさんがバイクに詳しいのは分かった。

「でもぉ、あのバイクカッコよかったからおれもいつか乗る!」
宣言するピンクさん。

ずっと話しっぱなしの手にある煙草、吸わなくて良いんですか。
そう思いながら煙を吐いた。
そういえば、ピンクさん免許持ってるのかな。
教習所に通ってるのは、ちょっと想像できた。

「ウニくんはバイトしてるのぉ??あ、もったいね」

半分過ぎた煙草を見て慌てて口元にフィルターを持っていった。
「はい」
短く答えて煙草を吸った。
「してるんだぁ!なになに?」
「カラオケ屋です」
「いがーい!なんでなんで?好きなの?」

矢継ぎ早に質問してくるピンクさんは、前のめりで俺を見ていた。
なんで…。
理由。

「家に1番近かったから」
歌うの別に好きじゃないし。
3人は好きそう。
というか、得意そう。
何気なく、手元からあがる煙を見ながら思った。

ピンクさんは何が面白かったのか、俺が答えた後「めっちゃぽい〜〜ウケる!」とケラケラと笑っている。
ぽいらしい。

「今度みんなで行くね〜、場所おしえてよ」
え。
「…………はい」

なんとなく嫌だった。
けど、シフト次第で会わない可能性の方が高いし、と思い直した。

それにしても、やっぱりカラオケ行くんだ。
店の場所を表示したマップの写真を撮るピンクさんのつむじを、ただ見つめた。

その後は、ピンクさんが吸ってる銘柄について聞いたり、試し吸いさせてくれたりした。

今日はそんな穏やかな日だった。
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