エイプリルフール2022
今日の最後の授業は古典。
頑張って最初は起きていた大半も、この時間にはおじいちゃん先生の呪文によって眠りについていた。その中には勿論、上野も。
珍しく小森もうつらうつらとし始め、今は首を下にして動かなくなっていた。
それを数少ない起きている組の遠坂と柴が笑って見ていた。
おじいちゃん先生は面倒くさがりなのか、よっぽど大声を出さない限り生徒が話していても注意することはない。机の下で隠れているとは言え、バレバレな携帯を触っていても、だ。静かで平坦な声で黒板にカツカツと文字を書いていく。
それをいいことに、柴は遠坂と小声で会話していた。
「昼休みだけど、よくあんなに嘘のバリエーション持ってたな」
「それは柴君もでしょ〜?」
何あのトイレットペーパーで皺ができるって。と笑う遠坂に釣られて笑う柴。
「あれは休み時間に、なんかいい嘘あるかなって調べてたらあったから…っふふ」
笑った後、柴は思い付いたように遠坂に聞く。
「なぁ、他にもなんかあんの?」
ん〜…。と遠坂は首を少し傾けた。長い前髪が斜めにさらりと落ちる。薄い唇が動いた。
「…宇宙人は存在して、喋る猫とか犬とかインコは自分達が寝てる間に改造されたから。…とか?」
「ふっふっ…!なんだそれ」
流石にそれは上野にバレるだろ、と柴は思った。
2人は話しながらも、きちんと手を動かして板書を続けている。
あ、間違えた。と漢字を間違えて書いた柴が消しゴムでノートを擦っていると、遠坂が何気なく話しかけてきた。
「そういえばねぇ」
「んー?」
「エイプリルフールは2000年から4月2日に変わってたらしいよ」
「……………ダウト」
「ふふっ」
あまりにも普通に言われたから考えてしまった柴であった。んなわけねぇ。
消しゴムを置いて遠坂を横目で見ると、ノートに目を落として板書をしながら可笑しそうに口元が崩れていた。やれやれ。そう、再び漢字を正しく修正する為に黒板に目を向けると、また。
「じゃあねぇ……エイプリルフールは午前中だけって知ってる?」
「…………だ、ダウト?」
柴は、また嘘だろ。と、思ったものの、聞いたことあるような気がして疑問符を付けて返事を返してしまった。
正しい漢字を書き直してもまだ尚返事が返ってこないことに疑問を抱いて隣を見ると、遠坂が机ギリギリに頭を下げて肩を震わせていた。
「………なんだよ」
「ふふふっ……これは、本当なんだよ」
そう言った遠坂に、えっ。と小さく声を出した柴。どうやら騙されたらしい。
「じゃあ、俺は午後からひたすらただ無駄に嘘吐きまくってたって?」
「そうだね」
なんてこった…恥ずかし…!!と柴は頭を抱えたのを遠坂が微笑んで見ていた。
「…遠坂…嘘上手いな…。」
そう頭を抱えたまま悔しそうに呟くのを聞き、微笑んでいた口元が止まる。視線を斜め下に向けて少し考えた後に口を開いた。
「それは…柴君もだよねぇ」
「…ん?」
柴は頭から手を離して、顔を遠坂の方に向けた。
いつもの顔。無害そうでにこやかな。その口が動く。
「ね、柴君。ちょっと左手貸してよ」
何をするつもりなんだ?そう疑問を持ったまま左手を遠坂の方に伸ばした。
その手を掴んだ遠坂。
そして、手を掴んだ方と反対の手で、柴の掌を緩く捻った。
「イッ!!!」
教室に柴の声が響いた。
起きている数人の生徒と、おじいちゃん先生が非難の視線を向けてくるのに柴が頭を下げると、柴に信用があるのか、然程気にしていなかったのかすぐにまた黒板に向き直った。起きていた数人もすぐにそれぞれのことに戻った。寝ていたクラスメイトも起きた様子が無く、ホッとしながらいつの間にか離されていた手をさすった。
「……なんで」
眉を寄せて、困ったような顔で遠坂を見る。
「あまり動かしてないようだったからねぇ…。利き手じゃないからバレないと思ったの?」
うっ…。と図星な柴がバツが悪い顔に。
昼まで普通にお盆を持っていたし、恐らく手を捻挫したのは前の授業の体育だろうな。と、遠坂はそんな柴のことを肘を机につけ、顎を掌に乗せて見ていた。
「その様子じゃあ保健室、行くつもりなかったでしょ〜」
返事を返さない柴は、書きもしないノートに向き直って苦笑いを浮かべている。再び図星だったらしい。
全く。
遠坂は窓の外に視線を向けて溜息を吐いた。
外は良い天気で、春の日差しが髪越しでも目に沁みた。そんな日だった。
「授業終わったら保健室行こうね〜。1週間は安静に、だよ」
「……はい……。」
遠坂win!